21 夏の妃 訪う
華の宮に茹だるような夏が訪れた。
後宮の夏は風鈴の調べと、夏に盛る花の香がする。
「
「いやだわ、そんなふうにあらたまって。……無事に公表できるのも貴女のおかげよ」
「後は
慧玲が脈を取れば、胎に宿っているのが男女のどちらかは九割がた解るだろうが、敢えてなにもいわずにおく。不要な面倒事はなるべくならば避けたい。
(なにせ、私はすぐにでも死刑になりかねない身だからね)
視線を感じて、
「それにしても、貴女。相変わらず
「私は食医ですから」
「食医であるよりもさきに、
「え、あの、雪梅嬪……」
「貴女、自身も華だという自覚があって?」
(え、ないけど……? そもそも私は、皇帝の妾ではない。後宮に身をおくために末端の席を借りているだけなのだけれど)
「あきれた。一度くらいは恋をしてごらんなさいよ」
「はあ……恋、ですか」
なんでいきなり、恋の話題になるのか。
恋愛なんて考えたこともなかった。そんなものに時間を費やすくらいならば、蛇を捕獲する罠でも編んでいるほうがよほどに楽しい。
雪梅嬪は含みのある微笑を湛えて、紅の唇を綻ばす。
「恋は、いいわよ。明けそめるほどに喜びに満ちていて、燃えるほどに怨めしいものだもの」
彼女は皇帝の華でありながら、許されぬ恋に身をやつした経験がある。恋が毒と転じて、その身を梅に侵されたのがほんの春のことだ。
(それでよくも、他人に恋を推せるものだ)
慧玲にはとてもじゃないが、理解できない。
そのときだ。廻廊のほうから騒々しい声が聞こえた。
「いけませんってば! 今は雪梅様の診察中ですから! いくら
雪梅嬪つきの女官である
小鈴の制止はむなしく、障子が乱暴にひらかれる。
「食医、いるかい」
現れたのは
「許可もなく房室にあがられるなんて、失礼ではありませんこと、
雪梅嬪が襦裙の裾をただして、きりっと睨みつける。夏の
「そんなに怒らないでおくれよ。女同士なんだ、気にすることはないさ」
「貴女様は御気になさらなくとも、私は気になります」
「雪梅嬪は気難しいな。まあ、今後は気をつけるから、勘弁してくれ。ちょいと一刻を争う事態でね」
「お前さん、
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