第4話 陽キャラの妹

家に帰ると妹の優々(ゆゆ)が先に帰ってきているようだった。


ローファーが一足余分に並んでいたので学校の友達でも来ているんだろう。

妹は友達も多いみたいで、よく誰か遊びに来たりしている。


部屋に荷物を置き手洗いをしリビングに入ると、さっそくソファに座る優々の姿が目に入った。

中学のセーラー服のまま、もう一人同じ制服の女子も隣に座ってなにやら携帯を見ていた。


「あ、お兄ちゃん。おかえりー」


こちらをチラッと見るとまた携帯に視線を落として優々が言った。


「おう。ただいま」


妹の友達がいること自体珍しい光景でもないし、俺もたいして気にも留めずに

返事をしながらリビングの横を通り過ぎてキッチンの冷蔵庫に向かう。


部屋でお菓子でも食べながらゲームをやろうと思っていた。

お菓子とジュースをみつくろっていると


「あ、お兄ちゃーん。こっちにも飲み物取って。紙パックじゃなくてコンビニのコラボのやつね」

と優々が俺に言った。

喫茶店で注文するくらいのスマートさがあった。


なんで俺が、と思わなくはないがいつものことなのですっかり慣れてしまっている。

妹が大好きとかではないが、三歳も下だし、まあ可愛くないこともない……のか?

俺に似ずに、顔が可愛くてコミュ力高いところは素直に尊敬する。


「はいはい」

冷蔵庫からちょっと高そうな容器に入ったジュースを二つ取り出すと

リビングに行き妹たちの前のテーブルに置いた。


「そう! これこれ〜! ありがと。これマジおいしいから。お兄ちゃんも今度買ってきなよ。あ、一口あげよっか?」


「いいよ、別に」


女子って流行りとかコラボ商品とか好きだよな。

俺は分からんが母さんと妹がよく盛り上がっているのを見かける。


と、優々の友達と目が合った。


「ありがとうございます。……お邪魔、してます……」


彼女は小声で俺にそう言った。名前は知らないけど最近何回か遊びに来ているので顔は覚えている。

優々と違って少し無表情そうだけど良い子そうだな、なんて思う。

妹が迷惑かけてないといいけど。


「いや、ごゆっくり」


お礼を言われてすっかり気分の良くなった俺は

自分のぶんのジュースとお菓子を部屋に持って行こうと、もう一度キッチンに向かった。



「お兄ちゃんなんかに気遣わなくていいからね〜!」


リビングとキッチンは繋がっているので優々の声が丸聞こえだ。


「っていうか、うちのお兄ちゃんマジで地味じゃない?」


もう一人の子が何て答えているかは分からないが優々のあっけらかんとした声が続く。俺の話をしているらしい。

優々は別に悪気は全くないみたいで、本人曰く「私とお兄ちゃん、ぜんぜん似てないのウケるよね」らしい。


まあ、俺もこいつに言われても許せるっていうか「はいはい」って感じだ。

実際事実だしな…………。



「眼鏡でも掛けてればまだ頭良いです! って感じでありだったけどさー。

それもないしねぇ」


俺が紙パックのジュースをコップに注ぎ終わってもまだ言っていた。

あいにくと視力はずっと良い方で眼鏡はかけたことがない。

悪かったな。



──そういえば。

月島、眼鏡やめたんだな。


俺はその話を聞いて急に今日のクラスでの出来事を思い出した。

「夏野くん」と月島の笑顔が頭に浮かぶ。


可愛、……かったな。

眼鏡っていうか、普段連んでいる友達とかクラスでの立ち振る舞いとか。

やっぱり、月島って雰囲気変わったか……?


中学の時の月島に何か思うところがあるわけではないが

今の月島はあまりにも誰もが認めるクラスのヒロインだ。



ま、そういうこともあるか。

自分には関係ない邪念は捨てると俺はお菓子とジュースを持っていそいそと部屋へ向かった。

そんなことより連休中にクリアしたいゲームがあったのだ。


なぁ優々。確かに俺はお前たちみたいに陽キャラではないが、地味キャラは地味キャラで忙しいんだぞ。

見たい配信はあるし読みたい漫画もあるし。

俺は変なことを少し誇らしげに思いながらリビングを通り過ぎ階段へ向かう。


「お兄ちゃん、なんかニヤニヤしててマジきもいよ」

とリビングを通った時に優々に言われたが聞こえなかったことにした。

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