第3話 隣の席の春3

そうこうしているうちにクラスメイトも半分くらいは教室から出て行っているみたいだった。

俺も特に予定があるわけではないけど早く帰ろうと思う。


俺が宿題や復習で使う教科の教科書を鞄に入れていると


「じゃあね。夏野くん」と声がし、

右に顔を上げれば席を立った月島と目が合った。帰り支度を終えたみたいで鞄を肩にかけていた。


「あ、うん。またな」


「うん……」


「ん……?」


うん、と月島は微笑んだまましばらく俺を見ていた。


うん? えっと……?

しばしの沈黙に少し気まずい時間が流れる。

月島と帰る予定の他の四人の女子は俺に挨拶することもなく

この人誰だっけ、みたいな感じの視線を俺に向けている気がした。

彼女たちとは同じクラスになってからまともに話したこともないし、当然の反応なんだけどなんとなく居づらい。


「あ、今日久しぶりに話したね。中学校の時以来、かな?」


そして月島が突然話題を振ってきた。

いきなりのことに俺は驚き返事に詰まってしまった。


「……っと。……え……?」


「……夏野くん、もしかして覚えてな──」


「いや、覚えてる! 覚えてる! 中三の時ぶりだな」


「そうそう」


俺がしどろもどろな返事をしたせいで月島の顔が曇るのを見て、自分のコミュ力の低さにあきれながら、なんとか否定した。

さすがに同じ中学だった人のこと忘れたりなんかしていない。

まだ卒業してからそんなに時間も経っていないし。


それでもどこか浮かない顔の月島に、

もしかして中三じゃなくて中二の間違いだったか? と一瞬不安がよぎるけど

やっぱり何回考えても中三のクラスの時だった。


「また夏野くんと同じクラスになれて嬉しいな」


浮かない顔は気のせいだったんだろう。月島はにこやかにそう言った。

昔の同級生にそう言われて嫌な気になるやつなんかいない。


天然なんだと思うけど、普段から男女混合グループで集まっているやつらって

さらっとこういう事言うよな。

月島がクラスで一番人気のある女子だって知らなかったら

思わず違う意味に受け取って勘違いしてしまいそうだ。


「そうだな。よろしく」

我ながらつまらない返事だなと思いつつ返した。


「じゃあ、また連休明けにね。バイバイ!」


「おう、またな」


月島は俺に手を振ると

「お待たせー」と他の女子たちと教室のドアの方へ歩いて言った。


◇◇


なんとなく月島たちの後ろ姿を見送った。

そして俺は

なんか、めちゃめちゃ喋ったな。と思った。


いやもちろん、一般的に喋ったうちに入らないことは分かってる。

けど俺には彼女どころか女友達と呼べるような女子すら全くいないんだから仕方ないだろうと思う。


それに。

月島って言えばあんまり自分から男子に話しかけるタイプじゃなかったはずだけど。

まあ俺の勝手なイメージだから知らんと言えば知らんけど。


中学の時に、一回同じ委員になって話したことがあったけど

声が小さくて耳をすまさないとよく聞き取れなかったことが印象に残っている。


顔は……。

眼鏡だったし、それより前髪で顔が隠れててあんまりちゃんと見たことなかったな……。


いや、同時俺と話すのが嫌で自然と声が小さくなってただけとか……。

俺と同じ委員になって喜ぶ女子なんかいないだろうし。


今はクラス委員になったから、全員に平等に接しようと思って積極的にみんなに話しかけてるとか。

あり得る。たぶんそれだな。


クラス委員頑張れよ、とわけの分からないエールを心の中で月島に送ると

俺も学校から帰宅した。

明日からゴールデンウィークの始まりだった。


休み中は毎日家でゴロゴロできるというだけで最高だ。

帰り道の足取りは軽かった。

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