第2話 隣の席の春2
見つめ合ったなんてもちろん気のせいだ。
なんというか、少し会話が続いたというか……。
いや、続いてもいないか。
ともかく普段女子と話す機会が少ないからとっさのことに少し変な感じになってしまう。
月島とは同じ中学校出身で同じクラスだったこともあるが、
だからといって特別に親しいわけではない。
当時、数回話したことがあるくらい。
今回のクラス替えで中学三年の時以来に二年ぶりに同じクラスになった。
高一の時はクラスも離れていたから見かけること自体が少なかったし。
そういえば、なんか雰囲気変わったな。
大きなお世話だろうけど。
中学の時はもっと静かというか、クラス委員なんてやるイメージなかったのに。
あんまりマジマジと顔を見たこともなかったから分からなかったけど、めちゃめちゃ可愛いくて少し話すだけで緊張してしまった。
ああ、そういえば当時は月島は眼鏡をかけていたからあんまり顔が分からなかったのかも……。
と、俺は次に話す言葉も見つからないまま、月島を見ながらそんなことを考えていた。
「杏ー! かーえろっ!」
「ねぇ、私一番前になっちゃったんたんけど最悪ー!」
自分の座席を移動させたら帰宅していいということで
ぽつぽつとみんなが席を立ち始めた。
月島のもとにも、月島と仲が良い女子二人がやってきて談笑を始めた。
「杏、一番後ろ最高じゃん! サボり放題!」
「でしょ? 今年の運、全部使っちゃったかも」
「えー? そんなことないでしょ。杏は普段の行いが良いから」
「じゃあ、私は普段の行いが悪いから一番前の席みたいじゃーん」
と女子の一人の斉藤(さいとう)が冗談まじりに言う。
もう一人の木崎(きざき)も月島の席の横に立ち、月島が帰りの準備をするのを待っているようだった。
「でも、亜夢(あむ)ちゃん、中間テストやばいって言ってたからちょうどよかったね」
月島は鞄に荷物をしまいながら斉藤に話しかける。
「そうなんだよねぇ。この前の小テストの点数まーじやばくて。高二ってこんな難しくなるんだーって。もしかして私、先生に目つけられてる? だから前の席?」
「うふふ。戸坂先生はそんなことしないと思うけどなぁ」
「杏、仲良いもんね」
「うん! 私、戸坂先生好きなんだよね。今日もお昼にクジ作りながらいろいろ話してたんだぁ」
「そっかぁ。じゃあ特に数学は頑張らないとね」
「テスト近くなったら勉強会したいね。みんなにも声かけて」
「杏が来るならみんな来るよ。成績トップの杏に教えて欲しいもん」
「いやいや。たまたまだよ。二年になってから難しくなったしね」
今度は木崎が
「またまた〜! 杏ってほんとダメなとこないよね」と月島を誉めていた。
「ええー。もうっ。からかうのやめてよぉ」
キャハハと三人で笑っている。
なんというか、内容というかテンションが典型的な目立つ女子の会話だった。
「おつー」
「帰ろー」
と、そこにあと二人、帰り支度を終えた女子がこちらに来て月島の席を囲んだ。
そのあたりで俺はずっと月島を見ていたことに気づき、あわてて視線を逸らすと
急いで自分の鞄に荷物を詰め込んで帰る用意を始めた。
連休を挟むから忘れ物はないようにしないと。
それにしても、月島、前からあんな感じだっけ……?
成績良いのは中学の時から知ってたけど……。
この一か月の間に感じたことだけど
クラスで男子から一番人気があるのはどうやら月島らしい。
誰が見ても可愛いし、派手すぎないけど美少女オーラみたいなものも感じる。
ドラマとか映画とかの主役をやってるって言われたら納得してしまいそうな。
それでいて、塾に通ってるやつも少なくないこの学校で成績もトップレベル。
クラス委員に立候補して先生の手伝いなんかも率先してやっている。
でも、真面目すぎないっていうか。男子グループと一緒にさっきの女子とかとで盛り上がっているのもよく見かける。
クラスで人気があって当然なはずだ。
現に俺みたいな、仲良くない、パッとしないやつの隣の席になっても、あんなににこやかに話しかけてくれていた。
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