第7話 ファンタジーのバーゲンセール

 ―それは、ファンタジーと言うには大味過ぎた。


 乱雑で、レア度ダダ下がりで、それでいて異質だった。


 …みたいな事を言いたくなる俺の気持ちは、きっと誰しもが理解してくれるものだと信じたいこの目の前のファンタジーのバーゲンセール…。


 俺はもう身内だけでお腹いっぱいになりかけてたのに、バスを降りるとそこにはと言わんばかりの異種族祭の開催だった。

 先に降りた人も、俺の後から降りてきた人も、みんなみんな漫画やアニメで見た事のある種族ばっかりだった。というか人によっては変わり過ぎてもう誰かも分からん。

 ざっと目に付く限りでも、エルフにドワーフに獣人にオーガにオークにとわんさかいらっしゃる。そのせいでもうなんか目が滑るとでも言わんばかりに視線が安定しねぇ…!


「さて、これで伊勢会津の人達が異世界人だという私の話は信じてもらえたかな?」


 微笑みながら俺に尋ねてくる父さんことアルさん。馴染みが無さ過ぎて今度は思考回路がショート寸前で今すぐ平凡に会いたい。


「…ちなみに父さ…あ、アルさん…?の種族って何なの…?」

「恐らくと言うか聞き馴染みは無いだろうけど、エンシェントニューマンっていう種族だよ。古代エンシェントなのに新人類ニューマンとはこれ如何に?ってね」


 古いのか新しいのかハッキリしてほしい種族名ではあるけど、とりあえず限りなく人間に近いけど違う何かって事か……そうかぁ?


「ちなみに母さんはティターニア、桜と菫はエルダードラゴニュートっていう種族だよ。後者は聞き馴染み無いだろうけど前者はあるだろう?」


 …そしてまた投げつけられる、俺の処理限界を超える新たな事実ですわぁ…。

 確かに後者の種族は聞いた事無いけど、前者は流石の俺でも分かるもん…。


 妖精の女王じゃないですかーやだー!!

 伊勢会津の撃墜女王は本当に女王でしたってか? HAHAHA冗談キツいぜトムボーイ!

 後者も後者でよく考えたらエルダーとかいう冠の時点で恐らく上位の何かじゃないですかーもおおおおおお!!

 なんやこの家族ゥ!天は人に二物を与えずじゃないんですかァ?! チートやチーターやこんなん! チーターなら言っといてや!




「あはは…、多分今ズルいとか思ってるような表情だけど、ことこの世界において一番ズルい性能なのは間違いなくなんだよ」




 ………ん?


「…俺がこの世界において…?」


 いやいや何を仰るやら(AA略)。

 なんせ俺は自他ともに認める『ミスターアベレージ』だぞ? ありとあらゆる物事において平均値を叩き出す平凡人間の典型例だぞ?


「…信じられないって顔してるのは分からなくもない。ただその自己評価はってのをまず念頭に置いておいてほしい」


 地球で生活していたから。

 この言い方はまるで…


「…まぁ、事実は小説よりも奇なりって言うだろう? とりあえずはこの車庫から出て、改めて異世界を肌で感じてからにしようか」

「え、あ、うん…」


 すっかり周りの人達も車庫から外に出て行ってしまっていたので、俺も父さ…アルさんについていくように車庫の外へと出…




「総員、対魔力衝撃ィ! おそらくは十数年前の比じゃない可能性が高い! 一応アーティファクトは装着させてるが気休め程度にしかならない!」




 なんぞ対魔力衝撃って?! 魔力の衝撃?! どっかから魔法でも飛んでくるんか?!

 というかそれを俺が見知らぬ土地に踏み出そうとする前に言うんは脅しかワレェ!


 ちくせうちくせう! もういいもん! 異世界でポーションがぶ飲みしてやるんだもん!




 …なーんて脳内幼児化しながら車庫の外へと一歩を踏み出した瞬間だった。




 耳元で柏手かしわでを打たれたような音が響いたかと思うと。





 薄曇りの空から

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日本生まれの異世界人、故郷に帰る @lily_3

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