第5話 ポテチのうす塩味よりあっさりしてるわぁ

 カオス。


 バスが出発してわずか三十分しか経ってない現状を一言で表すとそうなる。


「五番、君が代を平〇堅で歌いまぁす!」

「でゃははははは!」

「ドゥフフフフフ!」

「誰だよ卓上コンロで焼き肉やってんの!」

「バーロー焼き鳥だ!」

「換気しろオラァ!」

「う゛ま゛い゛か゛も゛~!」

「痛ぇ! 目が痛ぇ! なんだその粉ァ!?」


 どんちゃん騒ぎを何倍にしたらここまでなるのかと言わんばかりの大騒ぎ。これがいい大人の所業とでも言うのか・・・。


「・・・俺さぁ、町内の会合とかそういうの一切出た事ねぇから内情知らんけど、毎回こんなアッパラパーな集まりになんの・・・?」

「ははは・・・、さすがにここまでは酷くないよ。とはいえ、こうやって里帰りが出来る時は皆大体テンションが上がるのか、こうなる事はままあると言えばあるね」


 あるんか・・・。というより、これを『テンションが上がる』で片づけていいのか・・・?

 これはもうキ〇ゲェの集団・・・いや、みなまで言うまい。


「まぁまぁ、五年に一度っていうのはやっぱりそれぐらい楽しみなんだよ。あとどれだけこういう状態になってても、目的地に到着すれば治るようになってるから安心してよ」

「治んの・・・?!」

「行先が行先だから、こちらの病原菌だったりってのはよそでは未知の細菌だったりするからね。そういうのも含めて『浄化』してからあちらに向かうようになってるんだよ」


 浄化・・・とはまぁこちらでも聞き馴染みはあるけど、病原菌まで浄化するっていうあたりがいかにもファンタジーな要素ではあるな。

 その流れで酔いとかも治るのか・・・だからこのノリになってんならめんどくせぇ大人達だなとしか言えねぇ・・・!




「あっ、そうだ忘れてた! 龍希、この指輪嵌めといて。あちらに行く上で龍希にとって物凄く重要になるから」


 やはり異世界は不思議世界・・・!と思いにふけっていると、父さんから指輪を渡された。微妙に重い文言と共に。

 どエラいシンプルなシルバーリング・・・・・・いやこれシルバーか? 妙に色合いが不思議な感じだな。光の反射で微妙に薄ーく七色に光ってる・・・?


「なぁにこれぇ?」

「俺からしたら派手さが足りないぜ、もっと腕にシルバー巻くとかSA☆みたいなノリじゃないから安心してよ」


 若干履修済みなのが腹立つ。


「龍希があちらの世界に辿り着いた時、唯一分かった事に対する対抗策・・・とでも言えばいいのかな。あの時からもう十五年経ってるワケだし、すべてが成長してると仮定した上で、これを嵌めててもらわないとどうなるか分かんないんだよね」

「えぇ・・・?」


 嵌めてないとどうなるか分からないとか俺は緩衝材入ってないニトログリセリンか何かですか?

 BOMBするの?嵌めてないとBOMBしちゃうの?


「嵌めてないと爆発四散するとかそういうのじゃないから! ただ嵌めてないと龍希がというより、のがマズいんだよ。その結果として、ひいては龍希の為にもなるから嵌めていてほしいんだ」

「世界規模に影響を及ぼす個人ってどんだけのインフルエンサーなんですかね・・・?」


 出生不明、種族不明、世界規模に影響を及ぼす何かしらがあるって不審の役満じゃないですかーマジでヤダー!!

 というワケで速攻で父さんから奪い取り、ササっと左手人差し指に嵌めた。


 ・・・嵌めたら隙間埋めるように縮んだんですけどマジこれなんなん・・・?!


「どうだい、ほんわかファンタジー風味があるだろう?」

「こんなとこでファンタジーを味わいたくなかったなぁ・・・!」


 もっとこう・・・手の平から炎の玉出したりとかそういうので味わいたかった・・・!




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 それから三十分程が過ぎたあたりで、高得さんがマイクを持って椅子から立ち上がった。


『皆様お疲れさまでした。まもなく伊勢会津車庫に到着いたします。周りのゴミなどのお片付けや、忘れ物が無いかの確認をお願いいたします。なお車庫に入りましてもシートベルトはお外しにならないようお願いいたします』


 目的地がまさかの車庫だった件について。・・・いや、っつったか?


「さて、ようやく着いたね。ここからあちらに向かうけど、今の心境はどう?」


 ニッコニコで俺に問いかける父さん。なんか腹立つけど心境はと聞かれれば・・・


「怖さ二割、楽しみ四割、表現しようがないが四割だな・・・。さすがにいい年して国外以上の新天地行くぞって言われればなんとも言えないわマジで・・・」

「まぁとりあえずの行先に関してはそこまで構えなくてもいいよ。そこで学んでからが、龍希にとっての『異世界』が始まるみたいなものだから」


 異世界が始まる、ねぇ・・・。ファンタジーなんて妄想の世界でしかなかったところに飛び込むのか、今から。

 と思っていると、どうやら全部のバスが車庫内に収まったのか、シャッターがガラガラと音を立てて閉まっていった。


 ・・・シャッター閉めんの?


『では皆様、座席の持ち手にお掴まりください。・・・三、二、一、参りま~す!』


 その瞬間、震度四ぐらいの突き上げがドンと来た。結構な衝撃で思わず身体をすくませて顔を下に向けて落下物が当たらないように片手でガードした。


『はい、お疲れさまでした~! シートベルトを外し、お手回り品をお忘れないように下車をお願いいたしま~す!』


 参りますからこの間僅か四秒、どうやって向かうんだろうと若干ワクワク思案した俺の気持ちを返してほしい。ポテチのうす塩味よりあっさりしてんのよ・・・。


「えっ、もう着いた・・・の・・・・・・?!?!」


 顔を上げた俺の視界に広がってたのは・・・ファンタジーでしかお目にかかれないような見た目をしている高得さんだった。


「・・・父さん、あれってもしかしてエルフっていうや・・・・・・・・・誰?」




 俺の横にいたのは、もんのすごい綺麗な『女性』だった。

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