第4話 伊勢会津市民とは

「私たちは、『この星で生まれてはいない』人類、分かりやすく言うと・・・・・・なんだ」


 突拍子もない、とはまさにこの事だなぁ・・・みたいにすげぇ一瞬で他人事感溢れだしたわ。

 異世界人とか書籍化されたスマホ小説とかでしか聞かんような事をポンと言われて、あっそっかぁ・・・とはならんやろう親父ィ・・・。


「・・・あはは、物凄い納得がいかない顔してるのは何となく分かるさ。何を突拍子の無い事を、と思っているだろう? だがこれは真実なんだ」

「これを物心つかない幼い頃に聞かされてたら、そして自分の目で見ていたら納得せざるを得ない・・・っつーか、こういうのってそもそも出先に向かう前とかに話す事じゃなくね・・・? もっとこう・・・別に言える場面っていくらでもあった気がすんだけど、なんで俺はそれを聞かされてないんだ?」


 とどのつまり、今ここでビックリドッキリな真実を告げなくても、高校以外はこっちで生活してたんだしいくらでも言えたんじゃね?って事だ。

 ただ今の今まで聞かされていなかったという事実も踏まえると、考えうる可能性として『この特別な市民の日以外では』という場合もあり得る。

 それほどまでに異世界人である事を秘匿としないといけないのか?と可能性を探っていたんだけど、それは更なる爆弾発言によって一瞬にして無と化した。




「あー・・・・・・実はね? 龍希ってなんだよ。しかも一切身元が分かるものも、種族として分かるものも無いっていう」




 俺氏、齢二十にして自分の出自を知り余計に困惑する。




「小さいうちは種族を判別する装置が使えないのもあって五歳の時に調べてもらう予定だったんだけど、結果としてあっちから帰ってくるまでの間に目を覚まさなかったから・・・調べられてないんだよね。だから、『君は〇〇っていう種族で、異世界から地球に渡ってきて生活をしてるんだよ』っていう事自体が言えなかったという・・・ね」




 なお、種族すら判別してない模様。そら(俺がなんなのか説明出来んかったら)そう(お前は異世界人だーなんて言っても意味不明やろなぁ)よ。


「しかもその後は病気になって留守番してたり、他県の高校に進学して市民の日無関係だったりで行く機会そのものが無かったわけだし・・・いやー、今更になってごめんね!」

「笑顔で言うんじゃねぇよオォン? 分別ついていい大人になってから『君は惑星こりん星出身だったんだ』って言われてみ? おめぇ馬鹿じゃねぇのかって心の中の悟空さが笑顔で返してくるぞ?」

「まぁまぁ、百聞は一見に如かずと思ってさ、ササっとバスに乗って行こうじゃないか!」


 そう言い放ち、父さんは逃げるようにバスに向かって行きやがりました。




 ・・・事実は小説よりも奇なり、をこの身で体験するとは思いもしなかった。


 この話を整理すると、まず『五年に一度の特別な市民の日に、伊勢会津市民は元々の世界・・・と里帰りをする』という事。しかもバスで行ける場所。

 そしてこの話が事実であるとすると、伊勢会津市民というのはだという事になる。


 しかし・・・普通に納得した上で会話してたけど、そもそも『種族が分からない』ってどういう事だろ?

 皆異世界人なんだーと言われても、中学までの同級生や近所の人達、商店街で働いてた人達も皆『普通の人』だ。・・・ガタイとか顔面偏差値がいい意味でおかしいっていう点には目をつぶるけども。

 しかも一度はこの市を離れて三年も生活していた俺には、よその地域の人達にも接しながら暮らしてきた実績がある。それだから言える。

 そこに何の違いもありゃしねぇだろうが!と。


 そんな事を思いながら歩いていると、父さんが逃げ込んだバスの前まで辿り着いていた。父さんが既に席に座って俺に向かって手を振っている。笑顔で。

 とりあえずFAQしといた俺を誰が責められようか。


 バスに乗り込み、やたらめったら私の横が開いてますよとアピる姉さんをよそに、一番安全な父さんの横に座ってジト目を送っておいた。


「ははは・・・今の今まで言えなかった事についてはすまなかったと思ってるよ。そのお詫びと言っちゃなんだけど、このバスが目的地に着いたあたりでを教えてあげるよ」


 まぁ龍希以外は知ってる事だけど十分驚くと思うよ、と父さんが言った辺りで、全員が乗り込み終わったらしくバスのドアが閉まり、スッとバスガイドらしき人が立ち上がった。


『それでは全員乗り込んだようですので、早速出発したいと思います。お時間としては今回も約一時間ほどの短い時間ではありますが、お付き合いをよろしくお願いいたします。本日こちらのバスを担当いたしますのは、伊勢会津市役所市民課、高得皐月たかとくさつきでございます』


 うおーだとか美人さんだなーとか、ありきたりっちゃありきたりな声が飛ぶ中、いよいよバスは異世界へと向けて動き出した。


 ・・・異世界ってバスで行けるんだぁ・・・とかそういう事を気にしたらこの先なんか疲れそうだなと素直にスルーする事にし、車窓の風景を眺めていると・・・




「・・・これ山の方に向かってね? こっちそもそも道なんかあったっけ?」

「あぁ、普段はこっち側って、崩落の危険性があるから立ち入り禁止ってだろう? あれは単にこの道を対外的に封鎖する為だけの嘘なんだよ」

「異世界って山道から行けるんだなぁ・・・」




 が、ダメ・・・っ! 俺氏、山道から異世界へ行けるという事実に衝撃・・・っ!

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