第3話 皆ァ!ニューヨークに行きたいかァ?!
とにもかくにも、俺に対する壮大なドッキリが仕掛けられている可能性はグンと低くなった事に安堵しつつ、結局は一向に明かされない『目的』が分からない以上、警戒の閾値を落とすわけにもいかないというなんとも微妙な心境でござる。
出発前に『市長が説明してくれる』と父さんが言っていた事を思い出し、それでしっかりと理解して安心したい。めっちゃ安心したい。
『あーあーあー、マイクチェックマイクチェック、YOチェケOhアラララッラララァイ・・・』
突然響き渡る帰国子女のラッパーの如きリリック。俺達空気ひりつく。韻を踏む俺。
『ん゛んっ・・・、あー・・・市民の皆様、こおおおおおんにいいいいちわああああああ!!』
市役所前のロータリーから、某芸人のハゲの方みたいに元気よく挨拶をする御仁が一人。
そう、何を隠そう市長である。
『吾輩が漢塾塾ちょ・・・げふんごふん、吾輩が伊勢会津市長、
伊勢界人市長。
俺が知る限り、既に何期もの長きに渡って市長を務めている人物だ。
立派な白ひげを蓄え、その代わりに頭髪を失った長老スタイルにも関わらず、肩にちっちゃい重機載せてんのかいとコールされんばかりのマッチョマンで、確か御年七十歳は超えている化け物だ。
趣味は筋肉育成、特技はプロテイン早飲み、座右の銘は『筋肉は一日にしてならず』。(市民月報より抜粋)
市民体育祭やマラソン大会、ありとあらゆるスポーツ大会に出てきては、やたらと超人が出てくる場において上位に名を連ねるおかしい人です。なんだったらその都度筋肉で洋服を弾け飛ばす世紀末覇者みたいなパフォーマンスもする。
『今日は待ちに待った五年ぶりの特別な市民の日となる!当然ながら五年ぶりの者もいれば、今年が初めてという者もいるだろう。そこで!今回も皆の心を一つとする為、定番のコール&レスポンスを行なおうと思う!皆の者、準備はいいかぁ?!』
おいなんだ聞いてねぇぞコール&レスポンスってなn『うおおおおおおおおお!!!』おっ、うるっせぇ。なにこのノリ。
『皆ァ!ニューヨークに行きたいかァ?!』
えっちょっ待ってニューヨーク行k『うおおおおおおおおお!!!』うっせぇ。
『冗談だけどなああああああ!!!』
『冗談かーーーい!!!』
ここは流石に俺もシンクロしたわ。だってパスポート持ってねぇもん。
『心も一つになったところで、それぞれの町区分にてバスに乗り込んでくれたまえ!今回もオルフェンディア家を始めとした様々な王家の提供のもと、様々な支援を受けての”里帰り”となる!現地到着次第ワシが礼を伝えに行くが、それぞれ向かう先々にいらっしゃる方々にはくれぐれも礼節を欠かぬよう!では!乗り込め~!』
『はーい、ではまずこちらから伊勢会津中央町の一番の組の方から乗り込んで下さ~い!』
『こちら伊勢会津南町の一番になりま~す!家族単位での着席をよろしくお願いしま~す!』
・・・すげぇ何事も無くバスへの乗り込みが始まったんだけど、何一つ理解できない俺がここにいる…!
えっ、『オルフェンディア家』って誰? 様々な王家の支援?
あと『里帰り』って何なんだぁ・・・?
「・・・親父ィ」
「なにその覚醒した某野菜人みたいな言い方。ちゃんと市長が説明してくれただろう?」
「あれを俺に対する分かりやすい説明だって言うんなら、俺は一人用のポッドで脱出することもやぶさかではないぞ?」
「・・・あ~、まぁ・・・私たちがそもそもどういう立ち位置なのかをまず説明し・・・たけど・・・そうか、あの時の記憶が無いもんなぁ・・・」
苦笑しながら言う父さん。聞く限りだとおそらく、一番最古の記憶にある特別な市民の日になんらかの説明を受けてた可能性があるみたいだ。
だけどご存知の通り、俺は『今この先の同じ状況からの記憶が無い』と来たもんだ。だから父さんも何かを俺に伝えたつもりでいたんだろうけど・・・
「・・・じゃあ改めて説明するけど、今は深く考えないで聞くだけ聞いてほしい。言いたい事は後でいくらでも聞くから」
そう言った後、父さんは見た事も無いような真面目な表情で俺にこう告げた。
「私たちは、『この星で生まれてはいない』人類、分かりやすく言うと・・・・・・異世界人なんだ」
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