第5話義忠の危機

守り役は乳母、傅、様々な同義語があるがそのどれもが主に血の繋がった家族以上の思いを抱かせる存在である。その責任は重く、また周りの人々も守り役に主が飲まれないように細心の注意を払わなければならない。


 「さてさて、一体どうすべきかー?」


私、新田寺起伊守義忠(にったじのきいのかみよしただ)は今、思案に暮れている。


「また来るぞー、とは言ったけれどもどうせ行ったって門前払いされるのがオチだろう。されど門南(となみ)は何としても味方につけたい逸材、何としてもここは彼を説得しなければ!」


そんなことを呟きながら宿屋の広間を右往左往と歩いていい加減宿主が訝しむようになったとき、意外にも門南の方から手を差し伸べられた。


「また会いたいから来い。」、という門南の伝言を携えて門南の家臣が使いとして自分のところに訪れたのだ。あちらから誘ってきて断る手はない、私はそう思ってすぐに服装を整えて門南の屋敷に向かった。


屋敷の近くに来るとすでに門外に門南は出ていた。


「一体どういう了見だ?昨日は叩き出しておいて、今日は自分から誘いをかけるなんて。」


私の率直な疑問に答えずに門南は


「入れ。」


ただそれだけを言って屋敷の中に入っていった。


「何だよ、そっちから招いてきたんでしょうが。」


つい口に出してしまうほどそっけない態度だと感じた。そしてしばらく門南について廊下を歩いていくと金子八神を祀っているとみられる神棚が鎮座する部屋に到着した。


「祈れ。」


いきなり門南に言われたので私は反射的に神棚に対して拝の礼を行ってしまった。


「一体どうしたのだ、いつものお主らしくないぞ。」


そう言ってしまうほど本当に門南の挙動が不審すぎる。しかし門南自身はいつも通りにふるまっているつもりのようなのである。私は剣に手をかけた。だがそのまま何事もないまま昨日会見した部屋に訪れた。


「お前の主を狙って公薗清秀(きみぞののきよひで)が今夜屋敷を襲撃するらしいぞ。」


互いに座ったのち急に門南にそう言われた。


私はこの後予期せぬ最大の試練と主の危機に直面することになる。

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