Episode 13#
第一回作戦会議から一週間と少し。
ようやくカフェの2階に機材が運び込まれたのを待って、俺たちは動き出した。
「へえー、こりゃ凄い!! 成人したての高校生のマシンとは思えないなー!」
倉木は尚人の機材に感嘆している。
機材が届くまでの間、尚人と倉木は念入りにミーティングを重ねていた。
専門知識がなく、ミーティングに参加できない俺は、予め計画をモルガナさんに伝えることくらいしか出来ることはなかった。
モルガナさんは驚いていたが、急な仕事量の増加も含めた異常事態が続いていることもあり、俺たちを信じてくれている。
そして。機材のセットアップも無事終わり、その日の深夜。
「よし。準備完了! 倉木さん、始めましょう」
「
遂にモルガナさん救出作戦が始まった!
複数あるサブモニターには俺には理解できない文字の羅列がそれぞれに流れ、メインモニターにはラグナリア運営本部の裏口と、ハッキング用の尚人の
どうやらここからハッキングするようだ。
尚人は裏口のセキュリティをあっけなく突破、運営本部への侵入に成功する。
倉木は尚人の補佐をしつつログイン及び行動履歴の書き換え担当だ。
「よし、ここからは慎重に、かつ迅速に!経路は覚えているかな?」
倉木が問いかけると、尚人は滑らかに応えた。
「
「OK!行こう!」
メインモニターに映る裏路地のような細い通路を最新の注意を払いくぐり抜ける。大きな倉庫のような建物が並んでおり、壁に
予め倉木に貰った経路のデータを慎重にトレースしながら、
「! ちょっと待ってください」
尚人が注意を呼びかける。
「どうした?」
「パトロールAIです」
「影で待機、やり過ごそう。間違っても見つかるなよ?」
パトロールAIをかわしながら、なんとか
モニターには巨大な門が映し出され、パスコードの入力を要求してくる。
「パスコードの解析、開始!」
何やら夥しいデータが流れたのもつかの間、セキュリティはいとも簡単に解除されてしまった。
「流石だね、マシンスペックも、君の腕も!」
倉木が称賛する。
「あなたのサポートあってのことです。早くモルガナクラスタへ向かいましょう」
淡々と答える尚人の冷静さに、倉木はなおさら感心した様子。
気がつくとモニターには格納用と
「倉木さん、始めましょう」
「OK!」
尚人の合図とともにデータ移行が始まった。
データ移行の完了までのパーセンテージがメインモニターにでかでかと表示されているが、データが重いのだろう、進みは少し遅めだ。
いくつものサブモニターでパトロールAIを気にしながら、祈るような気持ちでデータ移行完了を待つ。
95%、96%…
――早く、早く!!
のろのろとカウントアップする数字に、一同は焦りの色を隠せない。
倉木が行動履歴を誤魔化しているとはいえ、長居すればするだけリスクが高まるのだ。
――ピピピッ!
データ移行完了を知らせる電子音が鳴った!
「よし、さっさと退散しよう!」
来たときと同じ道を警戒しつつ戻り。
無事運営本部の建物を出てログアウトしたときには、尚人も倉木も冷たい汗にまみれていた。
尚人はモルガナを隔離した端末の接続を切った。これで彼女はネットワーク上から狙われることはない。
「ミッションコンプリート、だな」
安堵のため息が全員から漏れる。
「この状態で、モルガナさんとは話せるのか?」
俺の問いに尚人は何も言わずスタンドアロン端末のモニタをつけた。
少し端末をいじると、モニタには平面のモルガナさんが不思議そうにあたりを見回しているところだった。
「モルガナさん!大丈夫?調子悪いとことか、ない?」
尚人が用意してくれたマイクに向かって話しかける。
「その声は……! Georgeさん?! ここは……無事に作戦成功したんですね!」
不安そうだったモルガナさんの顔が和らいだ。
「私なら大丈夫です。おかしな部分やデータの抜けはなさそうです」
身体を見回したり、動かしてみて確認しているモルガナさんを見て、安心のあまり、
「良かった!!!」
思いの外大きな声が出てしまい、俺は少し焦った。自分でびっくりしたわ。
「さて、俺たちはそろそろ寝ないとだな」
尚人の言葉に窓の外を見れば、もう空が白み始めている。それを確認すると安堵感も手伝ってどっと眠気が押し寄せてきた。
「おっし、僕も帰って寝るかな」
倉木も眠いのか目をこすっている。
「倉木さんもありがとうございました。お疲れ様でした。」
「二人共ありがとう!!俺たちのために危険を冒してくれて。」
俺たちは各々倉木に感謝の意を伝え、解散した。
◇◇◇◇
それから数日が経ち。
俺は放課後にカフェの二階に寄ってはモルガナさんと話すのが日課になっていた。
ラグナリアで会うのと違って触れることはできないけれど。モルガナさんを独り占めできる幸せを噛み締めていた。それの幸せが薄氷の上にあるとも知らずに――
そんなある日の放課後。カフェに向おうと校門を出ると、
「ご機嫌よう。貴方が麻樹成司様ですね」
突然見知らぬ男に呼び止められた。
「
きっちり分けた七三に、パリッと上等なスーツをきこなした、異様に姿勢の良いその男は、突然のことにビビり散らかす俺に名刺を差し出した。
「株式会社
俺が名刺を読み上げると、男はにこやかに頷いた。
「はい、酒井と申します」
酒井と名乗った男は一通の封筒を取り出すと、俺に渡した。
「こちら、是非よくお読みになってください。読まずに捨てても構いませんが、取り返しのつかないことになりますのでしっかりお読みいただきたく。」
にこにこしているが、眼光の鋭さがまるで隠せていない。背筋が凍るような凄みを感じて、言われるがままに封筒を受け取った。
すると、さっきまでの凄みが嘘のように普通の笑顔にもどり。
「では、確かにお渡しいたしました。中身を読まれましたら、どうされるかよくよくお考えください」
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