Episode 12#
翌日。
学校が終わると、尚人に呼び出された。場所はもちろん。
「今日もお揃いで。相変わらず仲良いねェ。」
珍しく来ていた先客の相手をしながら、いつものようにニコニコしている
「単刀直入に言う。お前はラグナリアの運営に目をつけられてる」
「は?! なんで?!」
……。
俺のリアクションに、尚人は大きなため息をつきながら続ける。最近尚人には呆れられてばかりだ。
「お前、ある意味運営の妨害してる、って意識はある……わけないか。運営管理AIに恋、というか仕事以外のことさせてる時点でそりゃそうなるだろうが」
「うっ……それは、そうかも……」
何となく
「このままだと、モルガナはリセットされるだろうな」
「何だって?!」
追い打ちをかけるような尚人の言葉に、慌てふためく俺。
奥の席では先客が心なしかこちらを気にしながら頼んだカルボナーラを美味そうに頬張っている。
「リセットされる、ってことは、記憶とか全部なくなるってことか?!」
「そうだ。少なくともお前に関する記憶は何一つ残すまい」
「そんな……」
折角モルガナさんと幸せに過ごしてるのに、世界は俺たちの幸せを望まない。だからといってこの幸せを諦める気もさらさらない。けれど。
「クソっ!! どうしたらいいんだ……」
「策はなくはない。なくはないが……実現可能性が極めて低い。」
「策があるなら教えてくれ! なんでもする!!」
尚人は少し唸りつつ、話し始めた。
「モルガナのデータを一時的にうちにあるスタンドアロンの端末に移す。これをやるにはラグナリア運営本部へハッキングしなければならないわけだが、データ構造が全くわからん。ある程度のセキュリティなら突破してみせるが、どこにモルガナのデータがあるかわからないからな。無闇に時間かけたくない。それに最高セキュリティの場所にあった場合、そもそも突破そのものが難しいかもしれん。」
……。
俺たちの間に沈黙が落ちる。
と、その時。
「君たち、面白い話してるね? 僕も混ぜてくれない? 悪いようにはしないから」
さっきまでカルボナーラを頬張っていた男が、突然声をかけてきた。正直限りなく怪しい。
「……どちらさまですか? 盗み聞きとはあまりいい趣味じゃありませんね」
初対面の怪しい男に完全にキョドる俺に代わって尚人が問いかける。
「いやあ、盗み聞きもなにも盗むまでもなく聞こえてきてたけど。」
男はさも心外と言わんばかりの口ぶりで応えた。
「で、どちらさまですか?誰かもわからない人を信用なんてできません」
「ふむ……。人の名を聞くときはまず自分から名乗るもんだよ、葛城君。」
?!
こいつ何者だ?!
「そして……君が麻樹成司君か。ラグナリアのAIとイケナイ関係になるなんてやるじゃない」
「ちょ……!! は?!!!」
俺はコミュ障+事態の理解が追いつかなくて語彙力が下がりまくっている。
「まあそんなに警戒しないでよ。僕のことはそうだなあ、倉木とでも呼んで。混ぜてくれたら手伝ってあげるよ、さっきの計画」
「手伝う、って言われても、ね。どう手伝う気なんです? そしてなんで俺達の名前を?」
倉木の提案に尚人が疑問を口にする。一体
「あんまり大きな声では言えないんだけどね、僕、しがないクラッカーでね。ラグナリア運営にちょこちょこちょっかいかけてたんだよね。」
倉木は一旦そこで言葉を切ると、コーヒーを一口。
「したら、たまたまAIと恋してるユーザーがいるって情報を見つけてさ。めちゃくちゃ面白そうだから君たちのこと調べちゃった!」
心底楽しそうに語る倉木に、俺達は閉口した。
「まあまあ、そんな顔しないでよ。仲間に入れてくれたら、ラグナリア運営のデータ構造とか、色々教えてあげられるんだけどね」
……。
しばしの沈黙が落ち。
「わかりました、手伝って下さい。」
「ちょ?! 尚人?!」
こんな怪しいやつ信じるのか?!
俺の言外の問いに答えるように尚人は再度口を開いた。
「勘違いしないでください。あなたを信用したわけではありません。ただ、俺達だけでは正直手に余る事態なのは間違いないので。」
「手厳しいね。まあそのくらいの方が僕としてもやりやすい。二人とも、よろしく。」
◇◇◇◇
「うわぁ、こりゃ酷い!」
舞い上がるホコリ。散らかった家具類。今からここを片付けなければならないと思うと気が重い。
だが、しかし。
「やってやろーじゃん!! モルガナさんを守るために!!」
気乗りしなさそうな二人を焚き付けながら、散らかり放題の部屋を掃除していく。
何故こうなったか、といえば。
あの後場所を変えようとするも、適切な場所もなく。倉木は作戦実行時の機材をチェックしたがったが、流石の尚人も初対面の男を自宅に招き入れるのは抵抗があるとのことで。
急遽作戦遂行の場所を確保しなければならなくなったのだ。
手っ取り早いのは倉木の自宅だかアジトだかで倉木の機材を使うことなんだろう。だが、完全に信用できるか分からない相手の機材を使うのも不安だ。
モルガナさんのデータを持ち逃げされても困るし。
そこで、Deep Seaの二階が空き部屋になっているのを前から知っていた俺は、店長と交渉した結果。
「いいよォ! タダで貸してやんよォ。ただ、掃除とか片付けは自分らでやってくれなァ」
とのこと。
近いうちに尚人の部屋の機材をここに運ぶ手はずになっているのだ、が。
予想以上の汚部屋ぶりに俺達はやや引き気味である。
とにかく機材が運ばれてくる前にここを綺麗にしておかねば。
――そうこうしてる間に時間は過ぎていき。
「ふう、こんなもんかね」
倉木の言葉にあたりを見回すと、汚部屋だったのが嘘のようにかなりきれいに片付いたまぁまぁ広めの部屋に生まれ変わっていた。
「調子はどうだい?これ、差し入れ。君たち何も食べてないだろ?」
大皿に山盛りのサンドイッチを手近なテーブルに置くと、店長は続けた。
「いくら成人とはいえ、実家暮らしの学生なら、そろそろ家に連絡くらいは入れたほうがいいかもなァ」
そう言って時計を指差す。
「って、もうこんな時間?!」
時計を見ると22時を回っているじゃないか!!
「今日はこれで解散!続きは明日、かな。」
尚人が直ぐに機材運搬の手続きをしてくれたので、来週にはここに機材が運ばれてくるだろう。
それまでに具体的な作戦を練っておきたい。まあ、実際に動くのは尚人と倉木で、俺にできることはたいしてないだろうが……。
「OK、明日はちょうど土曜日か。何時に集合?」
尚人がサンドイッチを頬張りながら聞いてきた。
「んー、昼過ぎくらいかな。13時でどうだ?」
『了解!!』
俺の言葉に二人の返事が重なる。
こうしてモルガナさん救出作戦が動き出した。
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