「ハルは、フクジュソウみたいだよね」
雪解けの後に咲く花のように、ハルは新しい季節を運んで来るだろう。
これから毎年繰り返される春と共に成長し、やがてフクジュソウみたいな黄色の帽子をかぶって小学校に通い始めると思うと、想像するだけで胸がいっぱいになる。しあわせだ。
ハルも私の方を見て、何もない空中を何度も掴むようにしながら、あー、とか、うー、とか言いながら笑っている。
「おっ、ハルくんもお母さんが帰ってきて嬉しいんだな。おじいちゃんやおばあちゃんがお母さんに会えて嬉しいのと一緒だな」
「お父さん、普通はそんなこと娘に言ったら嫌な顔されちゃいますよ」
振り返り、父に注意する母。変わらない、やさしい声だ。
「そうよお父さん、いつの間にそんな素直になっちゃったのよ」
「人間はな、素直が一番大事なんだ。おれは気づくのが遅かったから、ハルにはそんな想いをさせないように、今からきちんと自分の気持ちの伝え方ってやつを教えたいんだ」
いつも無気力な表情ばかりしていた父が、少しうつむき加減でつぶやく。声は小さいけれど、よく響く、力強い声だ。
「なにそれ。変わりすぎて鳥肌立ちそうなんだけど」
軽くしてあげたくて、私の方が大きな声を出して笑ってしまった。
自分の都合とはいえ、ハルを両親に任せることになり、実際のところ毎日心配ばかりしていた。
やっと少しだけ時間が取れたので、早馬に乗って帰ってきたのだ。幸い、足は父と母が用意してくれていたから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます