「ハルは、フクジュソウみたいだよね」

 雪解けの後に咲く花のように、ハルは新しい季節を運んで来るだろう。


 これから毎年繰り返される春と共に成長し、やがてフクジュソウみたいな黄色の帽子をかぶって小学校に通い始めると思うと、想像するだけで胸がいっぱいになる。しあわせだ。


 ハルも私の方を見て、何もない空中を何度も掴むようにしながら、あー、とか、うー、とか言いながら笑っている。


「おっ、ハルくんもお母さんが帰ってきて嬉しいんだな。おじいちゃんやおばあちゃんがお母さんに会えて嬉しいのと一緒だな」


「お父さん、普通はそんなこと娘に言ったら嫌な顔されちゃいますよ」


 振り返り、父に注意する母。変わらない、やさしい声だ。


「そうよお父さん、いつの間にそんな素直になっちゃったのよ」


「人間はな、素直が一番大事なんだ。おれは気づくのが遅かったから、ハルにはそんな想いをさせないように、今からきちんと自分の気持ちの伝え方ってやつを教えたいんだ」


 いつも無気力な表情ばかりしていた父が、少しうつむき加減でつぶやく。声は小さいけれど、よく響く、力強い声だ。


「なにそれ。変わりすぎて鳥肌立ちそうなんだけど」


 軽くしてあげたくて、私の方が大きな声を出して笑ってしまった。

 自分の都合とはいえ、ハルを両親に任せることになり、実際のところ毎日心配ばかりしていた。

 やっと少しだけ時間が取れたので、早馬に乗って帰ってきたのだ。幸い、足は父と母が用意してくれていたから。

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