夏に降る、雪の精霊

橘 静樹

「ほらユキ見てごらん。ハルくん、こんなに上手にお座りできてるよ」

「お父さん、そんなに大きな声で言わなくたって、ユキにはちゃんと聞こえてますよ」


 父と母の掛け合い。家族の笑い声が、居間を明るく朗らかにする。


「そうよお父さん、私がしっかりお腹の中で栄養をあげたんだから、ちゃんと育ってくれるに決まってるでしょ」


 父も母も、ひとり息子のハルをあやしつつ、久しぶりに帰省した私に笑顔で話しかけてくれる。

 ハルはハルで、生後六か月で立派にお座りができるようになっていて、父のひざの上で腕をぶんぶん振りながら笑っている。


「ハルくんもおじいちゃんと一緒で、掴めない何かが見えてたりするのかな?」

「あなたのは飛蚊症でしょ」


 冷静に突っ込みを入れながら、やれやれ、といった調子で母は私の方へやってきた。


「ハルくんは赤ちゃんの頃のユキとそっくりだから、お父さんが可愛がるのも分かるんだけどね」


 そこだけはお父さんと気が合うのよ、と顔を近づけ、母は嬉しそうにささやく。


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