ガチムチ追放~S級冒険者パーティを追放された魔力無しは魔法学園で成り上がる?~

茶器

第1話 ガチムチ、追放される

「マチョス。アンタを……追放するわ」



 僕の幼馴染、魔法使いメイジのクラリスがそう言った。


 クラリスはヒステリックな性格で、いつも僕にぎゃあぎゃあとイチャモンをつけてくる。



「そんな! それはやっぱり僕が【魔力無し】だから!?」



 僕たちのパーティ、【レアムーン】はS級冒険者パーティ。


 クラリスは【レアムーン】のパーティリーダーだった。


 彼女が僕を追放する理由は明確だ。




 ――それは、僕が【魔力無し】だから。




「アンタがガチムチすぎて大きくて邪魔だからよ!」




 冒険者において、【魔力無し】であることは致命的だ。


 どんな職業ジョブも、基本的に魔力を使う。敵と戦う時も、味方を支援する時も、索敵する時も、探索する時も。


 

 だから、この世界では【魔力無し】というだけで差別されるのだ。




「確かに僕は【魔力無し】。でも、これまで僕なりにこのパーティに貢献してきたつもりだよ」



 僕は【魔力無し】だから、基本的に戦闘で貢献することはできない。


 だから、雑用を率先してこなしてきた。



 例えば武器の手入れ。


 僕は皆が使う剣や杖の整備を毎日欠かさず行った。



「アンタのせいで何本剣と杖を失ったと思ってるの!? 小枝みたいにポキポキと!」



 荷物だって、皆が疲弊しないようにと僕が全部運んでいた。



「そこはまあ、役に立ってたわね……」



 命を張った危険な偵察も、僕が積極的に買って出た。


 ダンジョンには危険がつきもの。敵はどこから出てくるか、いつ出てくるか、分からない。


 だから常に、【魔力無し】で命の価値が安い僕が前衛を張った。



「アンタが邪魔で前が何も見えないし進めないのよ!」



 とにかく、僕はクラリスのために全力を尽くして頑張った。


 それはひとえに、幼馴染の彼女の命を守るため。



「アンタがデカすぎるせいで退路が塞がれて死にかけた局面なんて、両手じゃ数え切れないわよ!」



 クラリスだけじゃない。


 他のパーティメンバーのためにも、僕は死力を尽くした。



 戦士ウォーリアのアイリア。


 彼女の剣技は冒険者の中でも一流。【レアムーン】の中でも一番の剛腕だ。



「いや、この地上で一番剛腕なのはお前だろう、マチョス」



 アイリアの一撃が決まれば、敵は死ぬ。だから、僕はそのために囮役をすることもあった。



「お前の筋肉を見た敵はすぐ逃げ出してしまう。私が剣を振るう隙もない早さでな」



 アイリアは冷たい目で僕を見る。


 所詮、【魔力無し】の囮なんて、瞬速の一太刀を振るえる彼女には必要ないのだろう。



 聖女ヒーラーのライラ。


 彼女は非常に珍しい【治癒魔法】の使い手。【レアムーン】の中でも一番有名な存在だ。



「あの、この【レアムーン】で一番有名なのは貴方では、マチョス」



 ライラがいる限り、味方の傷はすぐに癒える。だから、僕はライラに飛んでくる攻撃を全て受け止めるために、できるだけ彼女の前に立った。



「貴方が前に立つせいで他の皆に【治癒魔法】が届かないんです。しかもダンジョンの壁際に押しつぶされて何度も死にかけました。多分今まで使った【治癒魔法】の対象、自分が一番多いですよ……」



 ライラが呆れた顔で僕を見る。



 所詮、【魔力無し】の護衛なんて、自分すら癒せる彼女には必要ないのだろう。




 しかしそれでも、僕は【レアムーン】からの追放なんて受け入れられない。



 僕は幼馴染のクラリスの命を守るために、一生そばにいると誓った。


 

「べ、別に私もアンタを嫌いになったわけじゃないのよ」



 でも、彼女は変わってしまった。冒険者として幾重もの戦場に立ったことで、彼女は【魔力無し】を差別する思想に染まってしまったのだ。



「変わったのはアンタでしょうが! 意味不明な巨体に、意味不明な独り言、意味不明な難聴! 昔はそんなんじゃなかったじゃない!」



 僕が頼れるのは、もう彼女しかいない。



 いつも僕たちの冒険を見守ってくれていた、母のような存在。



「マチョスくん。君が巨体を振り回して辺りを破壊するせいで、このギルドは異常な増築を余儀なくされてしまいました。言いづらいのですが……正直、邪魔です」



 困惑した顔でこちらを見つめる受付嬢さん。


 ダメか……。彼女にとって【レアムーン】はお得意様。そのリーダーの宣言に口出しするのは難しいだろう。




 その時。



 ギルドの奥から彼がやってきた。


 冒険者に対して常に中立に接する、ギルドマスター。



 このタイミング。きっと、僕の追放が理不尽であることを告げに来てくれたんだ!




「マチョス。お前は国外追放だ」




 そんな。ギルド長もクラリスの肩を持つというのか。



「いや、国からの命令なんだよ。逆らったら俺が死罪になる」




 なんで、なんでこんなことに。



 全ては僕が【魔力無し】だからか。



「「「「「違う」」」」」」



 なら、隣国のロイン魔法王国に行こう。



 ロイン魔法王国では、かつて【魔力無し】でも魔法使いメイジになった者を排出したという、魔法学園があると聞く。



 この屈辱は絶対に晴らす。



 僕を裏切ったクラリスを見返すために、僕は【魔力無し】から魔法使いになって成り上がってみせる!



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