4-2 黙っているのもなんだか気まずかった

 タコ焼きを食べ終えても、僕らはベンチに座っていた。

 八時からの花火が目当てだろう。だんだん人が増えてきた。

 後藤はまだ遅れるらしく、佐伯さんは不機嫌な顔で携帯に何か打ち込んでいる。


 黙ってるのも気まずくて、僕はたずねた。

「後藤、なんで遅くなるって?」

「知んないよ。いい加減なんだから」

 佐伯さんはいら立ちのため息をついた。

「苗村は、ちっちゃいときからあいつのこと知ってるんだよね? どうせ昔からろくなガキじゃなかったんでしょ」

「どうかな。後藤は後藤、って感じで、逆によく分かんないな。小学校よりずっと前からだし」


 その後藤に、高校で再会してみたらこんな彼女がいるなんて。今が昔とつながってないような感じがする。


「佐伯さんは、いつ後藤と知り合ったの?」

「中二。あいつがこっちの中学に転校してきたとき。なんか勘違いして、かっこいいって思っちゃって。ただのバカだって気付いたときにはもう付き合っちゃってた」

「ははは」

「バカでいい加減だけど、気が合うんだよね。ま、あたしもバカでいい加減だから」

「いつも仲いいよね」

「でもさ、最近うちらより、苗村と方違さんのが仲よくない?」

「えっ?」


 うかつな僕は、こっちにボールが飛んでくるとは思っていなかった。


「あんたたち、ほんとに付き合ってないの?」

「まさか。普通の友達だよ」

「普通には見えないなあ。こないだのプールとかさ」

「あれは非常事態。ほんとに友達だよ。それ以上のことは何もないよ」

「苗村は、それでいいわけ?」

「いいもなにも、友達だから……」

「向こうはそう思ってないかもよ?」

「ちょ、ちょっ、あのさ」僕は佐伯さんをさえぎった。「またそんな。すぐそうやって茶化す。やめてくれよ」

「茶化してないし、今のは」


 僕はちょっと腹が立ってきた。


「佐伯さん。前から思ってたんだけど、方違さんが小柄なこととか、変なふうに言うの、やめてあげてくれないかな?」

「変なふうって?」ちょっと首をかしげてから、佐伯さんはぽんと手を叩いた。「ああ、ロリコンの話?」

「本人は何も言わないけど、ぜったい気にしてるよ。方違さんも僕らと同い年なんだよ」

「知ってるよ。なんならあたしより方違さんのが二か月お姉ちゃんだし。でも、うらやましいよ。ちっちゃくてかわいいじゃん、あの子。でしょ?」

「僕は何も、あの子が小さくてかわいいいから一緒にいるわけじゃないし」

「じゃあどこが好きなの?」

「どこがって、そんなのひと言で言えないよ。一緒にいるとなんとなく安心だったり、安心させてあげたいと思ったりとか……とにかく、方違さんが傷つくようなことは言わないでほしい」

「なるほど。やっぱ苗村っていいやつだわ。あははは」

「笑うところじゃないだろ」

「いいよ。ロリコンネタは封印する。約束する。もう分かったし。まあ、分かってたんだけど」

「なんだよそれ。なにが分かったのさ」

「でもさ苗村、気持ちを大事にしなきゃだめだよ。相手の気持ちも、自分の気持ちも」


 そして佐伯さんは、下駄をカンと鳴らして立ち上がり、袖がまくれるのもかまわず、両腕を上げて背伸びをした。


「よーし。分かったところで、後藤を迎えに行こう!」

「何が分かったんだよ、だから」

「後藤にも教えてやんなきゃ!」

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