3段飛ばしで階段を降りても死なない俺は最強!

カール

第1話 猛獣ケルベロスとの激闘

 堅田木健かたたきけんは貧弱である。ちょっと走れば足は挫く、転べば骨折するありさまだ。そんな自分を変えたくて筋トレを始めるが疲労骨折を数回繰り返し泣く泣く諦めた。ならばせめて持久力を付けようと近所の公園で走っていた所、彼は襲われたのだ。



「はぁ、はぁ、はぁ」

「ハッハッハッハ」



 痛む脇腹を抑え、必死に走り逃げる。後ろを振り返ればまだ奴がいた。四足歩行による素早い走りに健は必死に走るがその距離が徐々に縮まっているのを感じた。もうすぐ後ろに息遣いが聞こえ、恐怖がこみあげてくる。どうしてこうなったのか。ただ公園でランニングをしていただけだというのに。



「いやだ、いやだ……」

「ハッハッハッハ」



 足が重く、もう走れない。軽快に地面を蹴っていた足は気づけば地面を歩くようになり次第に足が止まってしまった。肩を大きく動かし必死に酸素を身体に入れるが上手く呼吸が出来ない。もう少し、もう少しでこの地獄こうえんから脱出できる。だというのに後足がまったく動かない。そう――。




 





 強い痛みが健の足を襲っている。それに加え壮絶な逃走によりまるで呪いのように脇腹が痛むのだ。それが痛む足をさらに重くする。霞む目でゆっくり振り返る。そこには奴がいた。下を出しこちらに向かって走ってくる。獲物を捕まえられるのが余程うれしいのだろう。その凶悪な顔がにやけているようにすら感じる。



 ああ。誰か――。





 そうして公園の入り口で立ち止まっていた堅田木健は飼い主から逃走したミニチュアダックスフンドケルベロスに突撃され、あまりの恐怖に倒れてしまった。






「はッここは!?」



 気が付くと真っ白な場所に寝ていた。周りを見るが何もない。そうして周囲を見ていると声が聞こえた。



『目が覚めたようだな』



 男性とも女性とも取れない中性的な声が頭に響く。そのあまりの意味の分からなさに健は心臓が止まるかと思った。


『えぇ!? なんで心臓止まりそうになってるの? 大丈夫?』

「ひぃ!」


 急にフレンドリーに声をかけられ健の恐怖はさらに膨れ上がった。


『あーマジか。えーっとね。要件だけ言うね。君は公園で死にました。子犬に追いかけられて気絶してそのまま頭を強く打ってしまったのが原因だね。その光景があまりにも面白く、いや可哀そうでね。なんか助けてあげようかなって思ったわけよ。ただ君死んでるじゃん? だから別の場所行こう。そこなら貧弱な君でも多分頑張れるよ。ただ念のため人並みには丈夫にしてあげるよ。ほら君の世界にある異世界チート?みたいなやつさ。これで君は走っても捻挫しないし、転んでも骨折しない、筋トレで疲労骨折もしないし、ジャンプしただけで靭帯が切れる事もない。ちょっとボールを触っただけで突き指もしないし、さっきの公園のようにたった30m走っただけで息切れもしない。ほらすごい身体になれるよ? ってあれ気絶してるや』



 頭の中に声が聞こえるという異常事態。そしていつのまにか死んでいたという事へのショックから健は気絶していたのだ。



『あーマジか。そうだな。じゃもう少し子犬にビビらない程度には精神力も上げようか。後はそうだね。いっそうのことゲームみたいに分かりやすくレベルとかステータスとか付けておくかな。そうすれば成長も実感できるでしょ。えーっと名前は何て読むんだ? 日本の名前ってわかりにくいんだよね。多分あってるでしょ。いやーでも楽しみだな。この子があの世界でどう過ごすのかすごく楽しみだ。じゃ頑張ってね』





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る