特別研修:特別クラスの実力を見ろ②
模擬戦闘をする4人の条件は、ブロンズレベルの魔法陣以上は使用しない事。勝ち負けはないが、本当の戦闘を想定した演習が行われる。訓練場のフィールド保護に、他5人の保安部員が当たっていた。おそらく、エリートたちに違いない。
保安部員達が見守る中、隊長4人はフィールドに入った。赤髪ジュエイ、女神のフローラvsリブと女隊長ジョーリの2対2だ。
「あいつはだいぶ、普通じゃない陣ばかり使ってくるはずだ。気をつけろ」
リブは両手のグローブをはめ直しながら、相方となったジョーリに告げる。赤髪のゴールド、ジュエイのことは、同じくゴールドのリブがよく知っていた。
「普通じゃないってー…なんとなく意味は分かるが、それをどうしろと?」
「見たことのない異質な陣が出ても、毅然としてろ。俺が相手をする」
その様子からすると、今までの特別研修で、ジュエイと女隊長ジョーリが当たる事は、なかったようだ。
「異質な陣ー…ね。本当にアイツ、何者だジュエイってやつは。…まぁいい。一度手合わせしてみたかった」
最強のゴールド、それに続く有数の資格者達が対峙すると、視線がぶつかる先にピリッと電気でも走るかのようだ。次元が違う存在感、見えない強大な力。
「ほどほどにしてちょうだいね、ジュエイ。新人たちも見ていますのよ。悪影響のないように、フェアに真摯にやるべきですわ」
「ハッ、俺に1番似合わねェ言葉並べてんじゃねェよ。今日はリブが相手にいンだからよ、久しぶりに楽しく行こうじゃねーか?」
「全く楽しくありませんわ。巻き込まないで下さる?食後ですし、あんまり激しく動きたくありませんのよ」
「…時間だ」
リブが腕時計に目をやり、秒針が12を打ったことを確認した。特に、説明などは無いようだった。リブの一言を皮切りに、特別訓練は突如として始まった。
ー…のだが。その開始の姿は、カザンの目には映らなかった。いや、見えた者はいたのだろうか。髪が吹っ飛ばされるかのような突風と共に、砂埃やら竜巻やらが瞬時にフィールドを覆ったせいで、隊長達の姿は見えなくなった。保安部員達が、静かに息を呑んで目を凝らす。
真っ白に立ち込める砂埃から、先に抜けたのはリブだった。塔のようにそびえる氷柱の上に立ち、空を背景に姿が見えたー…かと思えばその氷柱の足場は折られ、次々と新しい足場を作り飛び移って行くー…
まばゆい真っ白な光も、閃光弾の如く光り爆発した。戦場とは害のない十分な距離がある上、間に結界役の保安部もいるのだが、それでもまるで自分も巻き込まれている気分だ。
「いや…まてよ、何が起こってっかさっぱりわかんねーよ!」
「カザン、隊長に言われた事覚えてるか?目で見るんじゃなくて動きを読み、"空気"を読むんだ」
リョウにそう言われても、カザンにはさっぱり分からない。誰がどこにいて、何の魔法陣を発動しているのか。
(くっそー…分かるわけねぇよ、隊長4人全部の動きなんてー…!)
「リブ!久しぶりにぶつけてみようぜ?!…轟かせてやるよー…っイナズマをな!!」
ニヤリと戦闘を楽しむジュエイが、正面に捉えたリブに人差し指を突き出した。リブは何の事だか、理解したに違いない。付近に相方がいないことを確認すると同時に、その手も動いた。
「『青龍』」
「出やがれ『黒龍』ッッ!!!」
ジュエイから放たれた黒い稲妻は龍となり、リブが放った青い稲妻と激突した。目も開けられない、とんでもない閃光がその地を埋め尽くした。
ドーーーーン!!!
バチバチバチバチィィイ
「あら、よそ見されちゃ困りますわよ」
花のようなフローラルな香りが、ジョーリの鼻をかすめたかー…と思えば、背後にサッと気配を感じた。気配なく背後を取ったフローラに、ジョーリは瞬時の煙幕と、頭上への飛翔で間一髪の回避。
フローラの放った"風圧"は、稲妻がぶつかり合った痺れる空気を吹き飛ばし、ジュエイとリブの間を通過。結界係の保安部員が、全力で背後を守り、その風圧を消し止めた。
「フローラ隊長ー…あんな花畑みたいなオーラで、意外と圧すごくないか…?!」
「それに、ジョウリ隊長の背後取ったぞ。全く見えなかったー…」
「何だったんだよ、さっきの黒い龍?!」
「俺、雷系統の陣には結構自信あったけどさー…自分の使う雷龍がミミズに思えてきた…」
保安部員達はそれぞれざわめき合い、息を飲み、拳を握ってフィールドにかじりついている。
ジュエイが、地面を噴火の如くカチ割り、降ってくる土の塊は隕石のように降り注ぐ。3人はそれぞれ違った結界で身を守り、リブは光の速さでフィールドを突っ切っていくー…
「ちょっとジュエイ!あなた私まで巻き込まないでくださる?食後は動きたく無いって、言ったばかりなのに!」
相方の自分にまで地面の洗礼が降ってきたことで、フローラは不機嫌そうに、服についた砂埃を払った。ジョーリはため息まじりに、空に向かって複数の魔法陣を飛ばし、細かな水を降らせて土埃をおさめた。
「知らねェここは俺のフィールドだァ!!」
暴走魔とはこのことか。ジュエイはフィールドの足場が粉々になり、まるで瓦礫の山になろうがお構いなしだ。飛び交う魔法陣が止む事はない。
カザンは拳に汗を握った。
(…んだよ…これ…こんなん、見てるだけで一体何が学べるってんだ…?!わけわかんないまま、時間が過ぎてってるだけじゃねーか…!)
目に入る砂埃をぬぐい、瞬きを繰り返す。あまりに暑くなり、ジャケットは脱ぎ飛ばした。
(…しっかりしろ、俺…!なんでも良いから自分のものにするんだ!せっかくー…せっかく憧れのゴールド達が、目の前にいんだからー…!見てるだけじゃなくて!何か!自分が必ず強くなれるヒントをー…!)
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