緊急会議
ー…翌日。朝から、館内は騒がしかった。
『隊長陣に告げる、緊急会議のため6時までに第一会議室に来るように。繰り返すー…』
起床時間の6時前。館内放送がかかり、ガレットの図太い声が静かに響いた。
ー…が、カザンはあまりの熟睡に、さっぱり起きる事がなく、6時を過ぎた頃に部屋にきたリョウに叩き起こされた。
「実は緊急会議って、結構異例なことなんだよ。こういう時は朝礼もない」
「…なんか、あったんすか…?」
緊急という名前からも、何かが起きたと思えて当然。
「明け方、隊長から連絡があって、早く出勤してきたんだ。… 俺も詳しくは分からないが、隣町ルブランのお柱が行方不明になったらしい」
「え!?」
リョウは静かに頷く。
「うん。これはとんだ大事だよ」
カザンは急いで顔に叩きつけた冷水と、朝から事件の匂いがプンプンの話に、すっかり目が冴えた。
「ルブランはロザリナと同盟関係にある町でね。…隊長陣は深刻だろう。他の町だって、混乱してるに違いないよ。
襲われた可能性が大として、会議をしてるんだろう。それが…おそらく…ロザリナが警戒している、ある男と関係があるのかどうかっていう話じゃないかな」
カザンはルブランの街に行ったことはないが、当然隣町の名前は聞いたことがある。
「えっと…その、ある男ってのは…?」
「あぁ…カザンは知らないのか。あー…前のお柱を…?」
「前のお柱…?知らないっすね。俺、3年前にここに来たんすけど」
リョウは「そうか」とだけ呟くと、床にゆっくり腰掛けた。なにやら、立ち話で終わる質問ではなかったらしい。
カザンも高速で着替えを済ませると、ジャケットを閉めながら座った。
「…今のガレットのお柱の前に、お柱だった男がいてな。
その時のロザリナは他の町を脅かし、内部でも争いが絶えず…保安部も、権力を振舞って体罰もやまなかった。
ロザリナのどこかに、闇の組織も存在したと言われてた…そんな時があったんだ。たった7、8年前の話だよ」
カザンはポカンと口を開けた。活気があり、町のためにいつも休まず働く保安部がいる今のロザリナからは、想像すらできない。
「ガレットのお柱が、この町を変えたんだよ。
町の決まりも全部変えて、もともと昔のお柱に不満を持っていた人や、保安部のやり方に疑問を抱えていた人達をまとめあげて、新しく保安部を立て直した。
今でも忘れられないよ…ガレットのお柱が、お柱に就任した瞬間を…まるで、王座にでもついたかのように…圧巻だった」
リョウは言葉を切ると、当時を思い出すかのように、宙を仰ぐ。
「7年前、ロザリナ最大の戦いが内部で起こってさ。…今のお柱が、前のお柱と一騎打ちをして、勝ったんだ。
そしてやつをー…クロガネって名前なんだがー…前のお柱を、町から追放した」
「追放!?」
「あぁ…ガレットのお柱は、クロガネを殺さなかったから…いつか、復讐が来るんじゃないかって、言っているらしい。
現に、前のお柱はまた復習に戻ると言い残しているー…」
まるで何かが起こることを予期するかのように、カザンにロザリナの裏事情が知らされた。
「んな強いやつだったのか?…まぁ、お柱やってたくらいだしな…でも、今のお柱のが強いんすよね?」
"ダイヤのお柱"の名前は、山を越えた町でも有名だ。ガレットのお柱は、少なくともこの辺りでは最強だと言われているのだから。
「あぁ…まぁなんて言うか、どっちが強いというのは、実際難しい質問だな。
さっき、ガレットのお柱はクロガネを殺さなかったと言ったけど…実際のところを言うと、殺せなかったんだ。
お柱は慈悲深いけど、そう甘くはない。当然彼を殺そうとしたはずだ、むこうもゴールドの陣使いだしねー…。
でも…殺せなかったんだ、その場ではガレットのお柱が勝って、クロガネを追放したけれど…
おすごく力の差があるわけじゃあないんだと思う。
クロガネは、1人で他の町を攻め倒しに行くほどで、最強最悪と言われた男だったからな…」
カザンは唖然と開いた口を無理矢理閉じた。
平和だと思っていたロザリナは、お柱始め保安部の皆に守られているだけなのだ。
敵となりうるかもしれない男のことを…最悪のゴールドのことを、知ってしまった。
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その頃、保安部の第一会議室と呼ばれる部屋は、長い机を囲んで張り詰めた空気が流れていた。
お柱と12人の隊長、そして情報部という別の部署の者が3人。
「…報告は以上だ」
極秘の仕事から戻った第4隊隊長スカーレットが、今しがたお柱失踪事件の内容を、詳しく報告したところだった。
「と、まぁそんなとこか。ありがとな。情報部の情報と、なるべく早くすり合わせてくれ」
一番奥を陣取っていたガレットが、スカーレットからバトンタッチ。皆の目が全て、彼へ向いた。
「そこで、今までお前達何人かに頼んでいた調査を、少し増やそうと思う。
…今日中には俺が直接、ルブランへ出向く。他の町のお柱も来るだろう。お前達には、近辺の町を回ってもらいたいと思ってる。
今のところ…自殺の可能性も、逃亡の可能性もないと見ていい。俺だって、信頼してたやつだった。
しかもスカーレットから報告があった通りで、部下達には出かけてくると報告を残してる」
皆が表情を曇らせていた。ガレットの言いたいことは分かる。隣町のお柱は、何者かに殺された…または連れ去られたか…とにかく、魔の手が近くにあるということだ。
「スカーレットは、見つかった戦闘跡をもう少し調べてくれねぇか」
「御意」
その後もガレットは半数以上の者たちに、他の町を捜索する指示を出した。
しかし、リブの隣で1人異質なオーラを放っていたある男にだけは、別の仕事が言い渡された。
「お前は町に残れ、ジュエイ」
「あン?あぁ、言われなくても分かってンよ」
体もデカイが、態度もデカイ。机に足を乗っけそうな勢いでふんぞり返り、他に見ない真っ赤な髪に、頬には龍の刺青があるあの男。
第1隊隊長ジュエイ・ハードラー。
「特別任務だろうよ、俺にしかできない。…そうだろお柱?」
「分かってるじゃねぇか。上手くやれよ。お前の仕事が1番危険だがな、重要なんだよ」
「心配いらねーぜ。俺を誰だと思ってンだ?」
「あぁ…地獄から這い上ったヒーローだろ」
ジュエイは得意気にフンと鼻をならすと、ガレットもどこか少し嬉しそうに笑った。
態度はデカイが、ガレットは全く気にしていないらしい。
「それからリブ、お前にはロザリナの結界の補強を頼む」
「…結界もいじるとは深刻ですね。分かりました」
「念には念を、だ。俺らしくねぇだろ。だが町の命がかかってんだ。ミドルホーンの一件もあった」
会議は午前中のうちに、思ったよりも早く終了した。
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