第4話 勇者になれなかった少女2
「正義の味方?」
「はい。
魔族と契約してヒーローになりませんか?」
「悪いことじゃないんですか?」
早良の言葉にブリ男は笑顔で答える。
「正義の味方……です。
貴方には素質があるでしょう?」
ブリ男の言葉に早良が動揺する。
「ないです」
「母君のような立派な勇者になりたくはありませんか?」
「……お母さんはひとりだけです」
早良の声が涙ぐむ。
「グダグダやってるとぶち殺すぞ!」
別の怪人が現れる。
それも大勢。
「多勢に無勢とはいうものの多すぎるとガス欠になるぞ」
近藤がそういって早良の方を見る。
「どうします?
殺されます?それとも倒します?」
「私は……」
「死にます?」
ブリ男はその言葉とは裏腹に穏やかな表情だった。
「私は将来結婚してかわいいお嫁さんになるのが夢なの……
勇者にはなりたくない」
「きっとかわいいお嫁さんになれますよ」
ブリ男が小さく微笑む。
「……死ねばすべてが終わるぞ」
無の言葉が深く刺さる。
「死にたくない」
それが早良の心の言葉。
「なら契約しましょう」
ブリ男が紙を召喚する。
もう、どうにでもなれ……
早良はそう思い契約書にサインをした。
「おめでとうございます。
これで貴方も魔法少女ブリキュアです」
早良の心が熱くなる。
「え?なにこれ……」
「メロディを聞いたモノはヒーローになれます。
魔族と契約したものは魔法使いになれる。
貴方はサーラ、魔法使いサーラ。
最強の勇者になれる素質を持つものです」
「サーラ……?」
怪人が早良に向かってナイフを投げる。
早良は思わずそのナイフを避ける。
なんとなく掴める気がしたので掴んだ。
ナイフを持った早良は感覚でわかった。
勝てる。
早良はナイフを怪人に向かって投げる。
ナイフは怪人に命中する。
「が……?」
怪人は悲鳴をあげることなくその場で消滅した。
「ナイフ一本で死んだのか?」
怪人たちが騒ぐ。
「武器は投げるな。
みんなで斬りかかればミンチにできる!」
怪人のリーダーがそういうと皆は武器をしっかりと握りしめた。
「女子高生のタタキを作ろうじゃないか!」
怪人はそういって笑った。
余裕があった。
勝てる自身があった。
だけど忘れていた。
その男の存在を。
怪人たちが足を進めようとする。
しかし、動けない。
「忘れていたな?俺の存在を」
無はそういって指をピクリと動かす。
すると怪人たちの足がガクッと歪む。
「終わりだ」
無がそういってその場にいたすべての怪人を影の中へと引き込んだ。
怪人たちの姿が消える。
「倒したの?」
「はい。終わりです」
「怪人は死んだのですか?」
「はい、怪人は死んでも死体は残りません。
改造技術を盗まれないため……死ぬと消滅します」
「消滅?」
「戦隊モノヒーローはあまり見ないのですか?
怪人が死ぬとき爆発しているでしょう?
あれがそういうことです。
怪人は死と共に消滅が基本です」
「……なにも考えてなかった」
「普通は考えないから気にするな」
無がそういうと小さく笑った。
「私も……これで勇者に……」
早良は遠い目で空を見上げる。
「残念ですが早良さんはにはなれていません」
「え?」
「魔法少女になって世界の平和を保つのです」
早良は空を見上げる。
そして元気よくうなずいた。
「はい!強くなってみせます!」
その言葉に嘘はない。
魔法少女サーラが誕生した瞬間だった。
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