第3話 勇者になれなかった少女1

 逃げまとう人。

 逃げる人。

 世界は残酷な日常だった。


 生きるのは誰か……

 戦うのは誰か……


 少女にはわからない。


 少女の名前は伊藤早良さわら

 普通の漁師の娘で将来の夢は可愛いお嫁さん。

 どこにでもいる女子高生だ。


 でも、それは終わる。


 目の前にいるのは絶望の象徴。

 ハタハタの怪人。


 メロディの力とは違う。

 特殊な能力に特殊な力で目覚めたものたち。


 ベルゼブブとは違う野望を持った魔界の住人。


「さぁ、選ぶといい」


 怪人が早良にナイフを向ける。


「服を脱ぐか。

 ナイフで死ぬか」


 早良は絶望した。

 こんな獣のような怪人に犯されるくらいなら死を選ぼう。


 ――死。


 それは無でありなにもない。

 そこからは何も生まれない。


 早良は震える。

 怖くて怖くて震える。


 でも、ナイフを握りしめる。


「死ぬのですか?」


 男の声が早良の耳に届く。


「だって初めては好きな人とがいいから……」


 早良は涙で震える身体でそう言った。


「そうですか……

 その死ぬ勇気で、ほんの少し私の力になってくれませんか?」


「え?」


 その声が怪人の声とは別の男の声だと気づく。


「貴方は?」


 早良が尋ねる。


 そして男が答える。


「なんだかんだと聞かれたら。

 答えてあげるが世の情け、世界の破滅をふせぐため世界の平和を守るため愛と真実の悪を貫く。

 魔界の果てからこんばんは。

 私、魔界ブリタニ王国営業部平社員のブリ男と申します」


 男の名前はブリ男。

 魔界のサラリーマンだ。


「……ブリ男だと?」


「はい。ブリ男と愉快な仲間です」


 ブリ男がそういうと男子高生が怪人の前に現れる。


「なにをした?」


 怪人が尋ねる。


「捕らえたからには、もう逃さん。

 お前に残された選択肢は、死だけだ!」


 男子高生が静かにそういった。


「俺はまだ死なない!」


 怪人が足掻く。

 でも、動けない。


「さぁ。懺悔の時間だ。

 お前は何人殺した?」


「はははは!愚かな質問だ!」


 怪人が笑う。


「今朝女を殺したばかりだ。

 中々な上物だった!

 男を護るため身体を差し出したんだぜ?

 男の前でたっぷりと――」


 怪人がそこまでいいかけたとき。

 男子高生が目を閉じた。

 それと同時に怪人の首が落ちる。


「懺悔タイム終了だ。

 胸糞悪い」


 男子高生がため息交じりにそういった。


「貴方は誰?」


「俺は近藤コンドウナシだ!」


「近藤くん?」


「そうだ」


 近藤がそういってうなずく。


「力になるってなに?」


 早良に不安が訪れる。


「ちょいっと正義の味方になりませんか?」


 ブリ男が小さく笑った。


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