誕生日プレゼント

シカンタザ(AIのべりすと使用)

誕生日プレゼント

俺はせっかちな性格なことを自覚しているのだが、なかなかそれを改められない。そんなわけで、今回もまた、いきなり本題に入ってしまう。

「実はですね」

と切り出す。

「はい」

と彼女が応じる。

いつものパターンだ。俺が喋って彼女は聞き手役である。ただ今回のテーマは、ちょっとだけ特別だった。

「先日、うちの店のスタッフに『誕生日プレゼントは何が良いですか』と聞かれました」

「へえ……」

「そこでふと思ったんです。スタッフの誕生日っていつだろう? と」

「……」

「お祝いとかしてあげた方がいいんでしょうか?」

「どうなんでしょうね……」

沈黙が流れた。俺には何も答えようがないテーマだからだ。スタッフとは誰のことを指しているのか。それはもちろん彼女のことではなくて、彼女の勤めている店の店長のことである。

この話は今朝、出勤してきたときに突然振られた話題なのだが、俺はその時からずっと気になっていたのだ。何しろ相手はまだ三十代前半の女性である。これまで一度も祝ったことがないし、今後だって絶対に祝わないというわけではないが、少なくともまだ先の話だろうと考えていたからだ。なのにもう、その話題が出たということは……もしかしたら何かイベントでも用意するつもりなのだろうか? だとしたら俺はどう対応すればいいんだ? というかそもそも、誕生日がいつなのかすら知らないんだけど。

黙っていると、彼女の方が先に口を開いた。

「私は分かりませんよ」

「ですよね」

「誕生日なんて考えたこともありませんでしたから」

「……」

まあ、それはそうだろうと思う。

「でも考えてみれば、私には家族がいないんですよね」

「そうなんですか?」

初耳だった。言われてみると確かにそうだ。今まで特に意識したことはなかったが、よく考えれば、彼女のプライベートについて知っていることは驚くほど少ない。年齢さえも不明だし、住まいや仕事についても聞いたことがなかった。普段、そういう話をしないから当然と言えば当然だが……。

「ええ。両親とも私が生まれてすぐに亡くなっていますし、兄弟は姉だけですけど、そちらも結婚していて子供もいるんで、実家に帰ることも滅多にありません。それに友人と呼べる人もいないですしね。もちろん恋人もいません」淡々と語られていく事実を前に、俺は絶句していた。まさかここまでとは思わなかったのだ。

「寂しい人生だと思いませんか?」

「…………」

返す言葉がなかった。ただ、ここで慰めの言葉を口にしたところで、それが一体何になるというのか。

「私って何なんでしょうね」

「えっ?」

「どうしてこんな風に生まれついてしまったんでしょうかね」

「あの……」

俺が言いかけた時だった。

「おはようございます!」と元気の良い挨拶が聞こえてきた。見ると、店内の入り口付近に若い男性が立っている。背丈は百八十センチくらいあるだろうか。スポーツマンタイプの体格をしていて、やや面長の顔つきをしている。

「おはよう」

と彼女が答える。

すると彼はこちらに向かって歩いてきて、

「お久しぶりですね」

と言った。俺が

「どちら様ですか?」

と言うより早く、彼女は

「こちらは田中さん」

と答えた。

「あっ! どうも初めまして」

と彼が頭を下げる。

「どうも」

と俺も会釈する。

それから彼女は彼に言った。

「ごめんなさい。今日はまだオープン前なの」

「ああ、そうみたいですね」

と彼は壁の時計を見ながら言う。

「すみません。お邪魔しました」

「いえいえ」

「じゃあ僕はこれで失礼します。また後ほど」

言って、彼は踵を返した。歩き去っていく彼の後ろ姿を見送りながら、俺は少しだけ驚いた。てっきりどこかのお店のスタッフだと思っていたのだが、どうも違うらしい。ということは、つまりあれは……? そこまで考えたところで、ふと思い至った。先ほどの男性に、俺は見覚えがあったからだ。記憶が正しければ、たぶん先週だったろうか、雑誌の取材を受けた時に取材陣の中にいたような気がする。とすると……彼はカメラマン? しかし何故ここにいるんだ? しかも開店前の店内に堂々と入ってきていたし。もしかすると俺が気づかなかっただけで、この店の常連なのかもしれないが……。

そこでハッとした。

俺は今朝、スタッフに誕生日プレゼントは何が良いか聞かれたのだ。

ということは……?

「……ねえ、さっきの男性って……」

「はい? 何かありましたか?」

「えっと、何と言いますか……」

「どうかしたんですか?」

「あの人って、スタッフじゃないのかな?」

俺が尋ねると、彼女は「違いますよ」と言った。

「この店のスタッフではないです。私の個人的な知り合いなんですよ。それで時々、遊びに来てくれるんです。ちなみに、この近くに一人暮らしをしてるらしく、よくご飯を食べに来たりしています」

「へえ……」

なるほど、そういうことか。

「でも、それならそうと教えてくれればいいのに」

俺がぼやくように言うと、彼女は小さく笑みを浮かべて、

「田中さんを驚かせたかったんじゃないですか?誕生日がいつかも分からないし、祝われたことがないから、きっと驚いて欲しいんだと思います。だから、あえて秘密にしてたんでしょうね」

と口にして、さらにこう続けた。

「実は私も同じなんですよ」

「同じって、何が?」

「誕生日がいつなのか、自分でもよく分かってなくて。でもまあ、それは別にどうでもいいかなって思ってるんですけどね。誰かが祝ってくれるわけでもないですし。でももし、そんな風に誕生日を祝いたいと思ってくれている人が、私の周りにいるのだとしたら、それは嬉しいことだなあって思うんですよね。もちろん、私なんかのためにお金を使う必要なんて全然ありませんよ。でも、それでもいいから、自分のことを祝おうとしてくれたら、すごく嬉しいんじゃないかなって思います」

そう語る彼女の顔には、いつも通りの無表情さが漂っていた。だけど、なぜだろう。その横顔を見ているうちに、不意に胸の奥がきゅんとなった。そして、その気持ちの正体が何であるのか、俺には分からなかった。ただ、このままではいけないという焦燥感だけが、心の中で強く渦巻いていた。

そろそろ準備を始めましょうか」

彼女が言う。

「うん」

俺は答える。こうして、俺たちの仕事が始まったのだった。午前十時。開店の時間を迎える。店内には多くのお客様が詰めかけていて、皆一様に押し黙っている。

カウンターの前には黒板があって、そこにチョークで文字が書かれている。そこには今日のメニューとして、以下の内容が記されていた。

・特製プリン 500円

・本日の紅茶 400円

・自家製パン 2個セット 300円

「まずは最初のお客さんですね」

と彼女が言った。見ると、入り口付近に立っている若い女性が、こちらの様子を窺うようにして立っていた。彼女は不安そうな面持ちのまま店内に入ってくると、ゆっくりとした足取りで歩いてきて、「いらっしゃいませ」と挨拶をした。

「あの……」

「ご注文は何になさいますか?」

「じゃあ、この特製プリンをお願いします」

彼女が答えると、彼女は黒板に書かれたメニューをちらと見てから、

「かしこまりました」

と言って、厨房へと入っていった。

「はい、お待たせしました」

数分後、彼女はトレイの上に載せられた特製プリンを持って戻ってきた。それをテーブルの上に置くと、

「ごゆっくりどうぞ」

と告げて、彼女は再び厨房の方に戻っていった。女性はその背中を見送ると、スプーンを手に取って、目の前に置かれたプリンを食べ始めた。

「美味しい!」

女性は目を輝かせながら、感動した様子で言う。

「こんなにおいしいもの食べたの初めて!」

それから一分ほどして、次のお客さんが入ってきた。年配の女性だった。彼女は席に着くなり、

「私はね、この店に来るのが生き甲斐なんだよ」

と唐突に語り出した。

「どうして?」

と店員の女性が尋ねる。

「だってここは、私の人生なんだから」

そう言い切るや否や、おばあちゃんの顔が歪み、そこから一気に涙が流れ出てきた。おばあちゃんはそのまま嗚咽を上げ始めて、泣き出してしまった。

「もう本当に嫌になっちゃうよね。最近はゴミ捨て場に捨てられてるテレビとか冷蔵庫が増えてきてさ。それで、この辺りにもそういったものがたくさんあるんだよね。だから、この店に来て、綺麗なものに囲まれてると落ち着くのよ。そうすれば、また明日も頑張ろうって思えるじゃない?」

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