第29話 スカンジナ地方振興計画 その1
杜のくまさん鉄道に乗って王都から11時間ヒーロー男爵領の領都〘オスロ村〙にようやく辿り着いた。
駅に降り立つと、懐かしい顔ぶれが見えた。
ヒーロー男爵領のウルト、ノルエー男爵領のボルグ、フィンレー男爵領のルイーズ。
皆、昨年の秋までハーベスト農業学校に来ていた生徒達だ。
もちろん、三人の男爵達、各貴族家の重臣達それに護衛の者達を含めると、総勢40人近い人達が待ち受けていた。
「コウジ卿、遥々遠くまでお越しいただき恐縮です。ウルトの父のセダン·ヒーローです。」
「初めてお目にかかります。ボルグの父ダビデ·ノルエーです。」
「農業学校では娘が大変お世話になりました。
ルイーズの父ヨハン·フィンレーです。」
「皆さん初めまして、コウジです。
わざわざの出迎えありがとうございます。」
「妻のレイネです。ウルトさん達に会えるのを楽しみにしてきました。」
「コウジ卿、レイネ様、長旅でお疲れでしょう。今夜は宿でゆっくりお休みください。」
「ありがとうございます、ヒーロー男爵。そうさせていただきます。」
俺達は、ヒーロー男爵の案内で村の宿へと、向かった。宿は駅から歩いてすぐのところにあり、夕食を生徒三人とその父親達と一緒に取ることになった。
宿で用意された夕食は、地元で採れた山菜尽くしだった。山菜入りのライ麦パンに、山菜の煮しめ、山菜の天ぷら、山菜の漬物。
「この天ぷらという料理は、いいですなあ。
ウルト達がハーベスト領で覚えて来て、広めたのですが、何の食材にでも合う。」
「ヒーロー男爵、天ぷらの油はどうしているのですか?」
「コウジ教官、鉄道が開通したおかげで、南方地域から廉価なオリーブオイルが流通するようになったんですよ。」
「教官、私のフィンレー領でも大流行ですわ。
おかげで、私は料理上手に思われてますの。
うふふ。」
「あら、ルイーズさんは、砂糖と塩を間違えてあま〜いポテトフライを作らなかったかしら。
うふふっ。」
「あ〜ん、レイネ教官。それは秘密ですぅ。」
『『『ハッハッハ。』』』
「ボルグさんのノルエー領は、何か、特産物がありますか?」
「教官、うちの領地はスカンジナ三領でも一番の山間地域で、耕地も狭くて山の木々を活用し製材や炭焼きをとも考えましたが、炭は暖炉には不向きで、どうしようか迷ってます。」
「山の探査は終わったのですか?」
「いえ、まだほとんどが手つかずです。」
「俺の考えは、明日皆の前で話すよ。その上で何ができるか考えよう。」
………………………………………………………
翌日、宿の広間には三男爵家の当主、跡継ぎ重臣が各家5名、俺達も入れて総勢25名での施策の検討会が開かれた。
「皆さん、多忙なところをお集まりいただき、ありがとうございます。
ウルトさんから手紙を貰い、スカンジナ地方の皆さんが、領地の開発に大変苦慮されていると聞いて、何かお手伝いできないかと参りました。」
「コウジ卿、皆を代表してお礼を言わせてください。私達のために、わざわざ遠路遥々お出でくださり、心から感謝致します。
もうそれだけで、私達は開拓の勇気をいただきました。ありがとうございます。」
「あははっ。来たからには、何かお役に立たなければ、農業学校校長の名がすたるというものですよ。
まず、皆さんのこれまでの取組みとその結果について伺わせていただきたいです。」
ヒーロー男爵家からは、農作物栽培の取組みとその結果。
ノルエー男爵家からは、製材や炭焼きの取組みと結果。
フィンレー男爵家からは、ライ麦の加工食品の取組みと結果について報告がなされた。
「ライ麦パンを蒸して作ることで、やわらかいパンを作ることができましたが、手間がかかり大量に作るには時間が掛かり過ぎるんです。」
ルイーズさんの話にもあるとおり、結果は、一長一短というところのようだ。
俺は考えてきたことを話すことにした。
「皆さんも考えたとおり、この地域の発展のためには、地域の特産品を作ることが必要です。
そこで、今から言うことを試してください。
ヒーロー男爵家。ジャガイモ、甜菜てんさい、トマト、トウキビ、かぼちゃ、スイカ、りんご、それに小麦の早生種の栽培。
〘種子や種芋は、ハーベスト領から持ち込んだものだ。〙
ノルエー男爵家。キノコ、もやしの栽培。鉱山の調査。
〘キノコ舎は、パネル工法でプレハブの建物を作るよう指示し、椎茸しいたけ、シメジ、なめ茸たけ、舞茸、エリンギなどを各々の種類の原木ホダギに、茸の菌のついた種駒を打ち込んで栽培する。日光を遮断した暗がりの茸舎を利用し、もやしも栽培する。〙
フィンレー男爵家。乳牛の飼育して酪農を。チーズ、バター、クリームなど乳製品の試作。
酪農のための牛は、まもなく鉄道で到着します。受け入れの準備をお願いします。
〘酪農の手配は、ハーベスト領でやっているから、レイネ達にお任せだ。〙
各々の方法については、お配りする冊子に書いておきましたので、読んで質問があれば聞きに来てください。
それからボルグさんは、明日から俺と山歩きです。何人か地理に詳しい人を連れて来てください。以上です。」
翌日俺とロッドは、ボルグ達の待つノルエー男爵領の街道の橋にやって来た。橋のたもとには、ボルグと二人の男が待っていた。
「コウジ教官、お待ちしてました。こちらは、地理に詳しい〘ドーラ〙さんと、土地の伝承などの物知りの〘カムイ〙爺さんです。」
「お爺さん、これから何日も山歩きすることになりますが、身体の方は大丈夫ですか?」
「わははっ、毎日山歩きしとるでな。お前さんらよりは、マシじゃよ。」
「そうですか、ではよろしくお願いします。」
「コウジ教官、どこから調べますか?」
「まず最初は、この川の上流の崖の地形を見て歩こう。あとは川から離れたところにある崖もかな。」
俺達はさっそく、川に沿って上流へ歩き始めた。3時間程で、最初の崖にたどり着く。
崖の地層を丹念に調べるが、そこは砂地の地層ばかりで、昔から川底だったようである。
2時間後、ふたつ目の崖。ここも探す地層は見つからない。
探索一日目は、7つの川沿いの崖を調べて、終了した。
それから10日、川沿いの崖には、探す地層は見つからなかった。
「さて今度はどこを探すかだが。カムイ爺さん土地に伝わる話で何か変わった話はないか?」
「どんな話じゃろな?」
「例えば、燃える石があったとか、珍しい石が見つかったとか。山火事があったとか。」
「ふーむ。そう言えば、魔火の森と呼ばれとる場所があってな、昔から雨が降った後で、火が燃え上がることがあるそうじゃ。」
「それはどこですか? 行ってみましょう。」
魔火の森、そこは大木が疎らにあるが、他は草地の斜面が入り組んだ地形の場所だった。
「コウジ教官、なぜこんなところに、火が熾きるんでしょうね?」
「もしかしてだが、俺が探してる鉱石がこの下に眠っていて、そのガスが漏れ出て何かの拍子に火がつき、燃えるのかも知れない。
ボルグ、この辺りを何ヶ所か掘ってみよう。」
起伏のある森の地形、高く盛り上がっている箇所を見つけ、より地層の深い層がある場所を掘り進めた。
「あった! 兄上ありましたっ、石炭です。」
俺より低い場所を掘っていたロッドの叫ぶ声に、皆が駆け寄る。
「これが石炭ですか。真っ黒な石ですね。」
「初めて見ましたなっ、黒く輝いておる。」
「炭よりは固いが、以外と脆い石だな。」
「ボルグ、火を熾せ。焚き火にこの石炭を入れて燃やしてみるんだ。」
焚き火が炎を上げて燃え上がった中に、石炭の欠片を投げ入れる。しばらくすると、石炭が明々と燃え上がるのが見えた。
「石炭に間違いない。俺が探していたものだ。」
砕いた石炭を一袋ずつ持ち、掘り当てた場所に目印の十字架の杭を立て、その場所が判るようにした。
見晴らしの良い場所にも、矢印の杭を立てて道案内の標識代りにし、俺達は帰途についた。
ノルエー男爵領の
「父上、教官がっ、コウジ教官が、石炭を見つけてくれました。」
「ボルグ落ち着け。石炭とは何なのだ?」
「燃える石ですよ、ノルエー男爵。炭のように加工しなくても、掘るだけで用意できますから薪より効率の良い燃料になります。
石炭は大昔の木や草が地中に埋まり、堆積したもので地層に沿って大量にあるはずです。」
「なんとっ。燃料の問題が解決するな。」
「父上、それだけではありませんよ。他領への商品として売り物になります。」
「それと男爵、川の上流で鉄鉱石らしきものを見つけました。調べて見ないと確定はできませんが。」
「あの岩がやけに固かった場所ですね?」
「そうだよ、ボルグ。さてロッド、お前はこの鉱石をボッシュに届けて、鉄鉱石かどうか調べてもらってくれ。」
「はい、わかりました。明日の列車で行ってきます。」
「男爵、鉱山の経験のある者は、いますか?」
「いや、ヒーロー子爵領には、鉱山がなかったので。」
「ロッド、追加だ。ボッシュに頼んで、鉱山の技師を派遣してもらってくれ。できれば一緒に連れて来てくれ。」
「兄上、任せてください。ボッシュさんなら、必ず手配してくれると思います。」
「コウジ卿、そうと決まれば、鉱夫の手配ですな。すぐに取りかかります。」
5日後、ロッドはボッシュほか、5人の鍛冶ギルドの面々を連れて戻って来た。
調べてもらった鉱石はやはり鉄鉱石だった。
それを見たボッシュは、自分が行ってハーベスト領に出荷するように手配すると意気込んで来たらしい。
ボッシュ達の指導で、炭鉱と鉄鉱の鉱山開発が始まった。
これで、ヒーロー男爵領の急速な発展が始まるだろう。なにせ鉄鉱石の需要価値は高い。
加えて北方での石炭の燃料需要も大きい。
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