第21話 閑話 ナターシャ孤児院襲撃の夜。

『 敵襲だぁ、皆んな地下室に避難しろっ。』


 コウジ兄ちゃんが、大声で叫ぶ声を聞いて、ベッドから飛び起きた。  

 すばやく身仕度をすると、非常時の武器を身に付ける。手投げナイフに煙玉、愛用の小刀にボウガン2丁を持って部屋を飛び出した。

  

「ロッド、刺客のようだ。敵は8人お前は正面玄関を護れっ。火は使うなよ、火事はごめんだ。行けっ。」


 そう言われて、どこに行くか素早く考えた。

 玄関の上にある屋根裏の小窓から迎撃しようそう思いつき2階へ掛け上がり、ハシゴで屋根裏に行った。


 星あかりの夜の闇の中に、身を潜めながら、うごめく影を見つけた。

 全身を見せる瞬間を狙って、必殺のボウガンの矢を放つ。命中だ、男は音もなくその場に崩れ落ちた。


 一人が倒されたことに気付いて、警戒したのかも知れない。 

 なかなか姿を現さないで、脇の茂みで物音を立てたりしている。たぶん、こっちの位置を探っているんだろう。

 俺は逆に玄関脇の茂みに、投げナイフを落とし物音を立てた。

『キンッ。』ナイフが石に当たって、かすかな金属音を立てた。それを聞いたのか、二ヶ所で影が揺れ動いたのを俺は見逃さなかった。


 一つの影は、音を立てた茂みへ一直線に駆け込んで来た。それを引きつけて狙いをしぼり、ボウガンの矢を放った。

 影は矢の風切り音に気付いて、躱そうとしたようだが、矢の速さに敵わず肩に当たり、もんどり打って倒れた。

 続けて第二射を放ち止めをす。倒れた影は、悶えていた動きが止まったから、死んでなくても重症だろう。


 この2射で、こっちの位置がばれた。

 俺は屋根裏の小窓から、玄関の小屋根に飛び降り、さらに地面に着くと残る影と対峙した。

 そして密かに、俺の前にものをばら撒いた。

 影は俺の正体を見定めると、ゆっくりと動き出し、そして全速力で向かって来た。

 俺は動かずに待ち受けた。影の男がが、俺に斬り掛かろうと剣を上段に振り被ったその瞬間一瞬躊躇した隙を俺は見逃さなかった。 

 その一瞬にがら空きとなった胸に俺の突きが決まっていた。

 男は俺の撒いた撒き菱を踏んで、その痛みに一瞬躊躇したのだった。


 俺は一対一なら、簡単には負けない自信があったが、相手は暗殺者だ。長引かせずに倒せてほっとした。


 

 

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 その夜、僕はいつもどおり就寝時間に寝たのですが、夜中におしっこがしたくて、目が覚めました。

 すると突然、コウジ兄ちゃんの叫ぶ声が聞こえました。


『 敵襲だぁ、皆んな地下室に避難しろっ。』


 僕は急いで、寝室で寝ている皆を起こすと、「コウジ兄ちゃんが、地下室へ行けってっ。」


 そう大声で叫ぶと、次に隣の女の子達の部屋へ飛び込みました。

 そこでは、シスターのメリーサさんがいて、皆んなを起こして、避難させるところでした。

 僕達は、急いで地下室へ避難しました。


 孤児院では、大震災後に定期的に、避難訓練をしています。地震ばかりでなく火事や強盗に備えてです。

 そして、避難部屋を地下に作ってあります。 

 避難部屋の出入口は四方に設けてあり、覗き窓の付いた頑丈な扉で護られています。

 飲み水や食糧を2ヶ月分保存してあり、武器もボウガンと槍が備えてあります。


「全員揃ったかしら? 各班点呼をお願い。」 


 シスター·メリーサが呼びかけました。


「ウサギ組、いまちゅっ。」

「ネズミ組も、皆んないるでちゅ。」

「リス組ぜんいんだよっ。」


「野良猫チーム揃ってますよ。」

「銀狐チームOKです。」  

「羊さんチームも揃ってます。」

「ドラゴンチームも全員集合だっ。」 


 ちなみに点呼は、幼ない組から順番です。

 各組の名前に組が付くのが年少組で、チームという名前がつくのは年長組です。

 名前は、班の子達で決めています。


「全員いますね。コウジさんから、指示があるまで、ここを出てはいけません。

 皆んな静かに耳を澄まして、外の様子を伺っていてください。」




【 年少組リルの証言 】


 僕はネズミ組のリルです。4才の男子です。

《てきしゅう》なんて初めてです。

 たぶん、地面がゆれてないから、なんか恐しい魔物が来たんだと思うんです。


 僕達は地下室のソファで、押しくらまんじゅうのようにひっつき合って座りました。

 暖かなので、だんだん眠くなってきます。

 もう寝てる子もいます。でも僕は今が危ない時だと思うので、寝てはいけないと思います。


 いつの間にか、うとうとしてどれくらいたったかわかないけど、裏口を見張ってたジミー兄ちゃんが、ささやきやきました。 


「誰か来る。リビングの方からだ。」



【 年少組シーナの証言 】


 私の名はシーナ、ラナお姉ちゃんの妹です。

 まだ渡すの下にクーナという妹がいますが、3才になったばかりです。


〘 敵 襲 〙その言葉を聞いて、帝国軍に追われたときのことを、想い出してしまいました。

 あの時のことは今でも夢でうなされ、身体が震えます。 

 今は私達を守るために、コウジお兄ちゃんとロッド兄ちゃんが2人でだけで戦っています。

 コウジお兄ちゃん達が強いのは知っているけど、たった2人だもの、不安で心配なのです。

 誰か助けを呼ばなくていいの? ボウガンを持てば、私だって戦えるよ。


 ここには、孤児院の皆を守るために練習したボーガンだってあるし、皆だっているもの。

 そんなことをずっと思っていました。

 しばらくして、ジミー兄ちゃんのささやいた言葉[ 誰か来るっ。]に、皆んな息をのんで固まっています。

 し〜んとして息が詰まりそうな空気の中で、急に『ぐぁっ。』という声がして、また静かになりました。


 それから、コウジお兄ちゃんの声がして


「皆んなぁ、もう大丈夫、敵はやっつけたよ。部屋に戻って寝よう。」


 そう、優しく言われました。そのあと部屋へ戻ったけど、興奮してドキドキして、なかなか眠れなかったんです。



【 シスター·メリーサの証言 】


 私はメリーサ〘聖ナターシャ孤児院〙と呼ばれている孤児院へ、シスターとして来ました。

 ここに来て、驚いたことは数々ありますが、一番の驚きは子供達が自立して生活をしているということです。


 年長組はまるで大人のように、毎日パン工房で働き、この孤児院の経営を支えています。

 誰一人それを嫌がらないばかりか、皆、率先して仕事をしています。

 もちろん食事の支度や後片付け、掃除や年少組の幼い子の世話まで、手を抜くことはありません。

 年少組は、それを見て育つせいか、早くから自分のことは自分でしようとしています。

 この子達は、立派な人間として、この孤児院から巣立って行くことでしょう。


 その夜、私は子供達が寝静まった後、編み物をしていました。

 私も子供達に触発されて、自分の時間の中で子供達のために何かしたいと考えて、編み物を彼らに贈りたいと思ったからです。


 突然、コウジさんの「敵襲だぁ、皆、地下室に避難しろっ。」という声が聞こえました。

 この孤児院では、毎月、地震や火事、強盗などに備えて、避難する練習をしています。

 それぞれの役割と手順が、決められていて、私は年長組の女の子達を誘導する役目です。

 年少組の女の子を誘導する役目のナターシャ様がいない時は、年長組は、年長組の女の子のリーダーであるラナさんに引き継ぎ、私が年少組を誘導します。


 コウジさんの声を聞いた私は、すぐさま二階の年長組の女の子達の部屋へ駆け込んで、皆を起して地下室へ避難させました。


 敵襲? 今まで聞いたこともありません。  

 でも、皆んなに命の危険が迫っていることにかわりありません。

 地下室では、皆でひと塊になって息をひそめました。私達大人と年長組の皆は、ボウガンを手にしてます。最後は自分達で戦うためです。 

 その為の訓練もしていました。

 私はこの子供達を守るためなら、命を賭ける覚悟です。

 この子達は、かけがえのない、私の宝物なんです。


 

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