第20話 孤児院に刺客、陰謀には速反撃だ。
その夜も就寝時間前に、日課のスマホ検索をしようとして起動したところ、新着メッセージが現れた。
『危険が迫っています。新しいアプリが供給されました。今すぐダウンロードして、起動してください!』
いったい何事だろう? こんなことは初めてだが、この世界に来た時、唯一持っていたのがこの〘スマホ〙だ。
きっと、なにか俺に知らせようとしているに違いない。
俺はすぐさま [ダウンロード]を行った。
インストールされたアプリは、〘MAP〙。すぐに起動する。
検索欄には、普通なら飲食店とか、公共施設とかが並ぶはずだが、この〘MAP〙は違う。
敵··味方··魔物··子供··大人··男··女··Autoなどと表示がある。
敵を選択すると〘MAP〙に赤点が現れた。
一つ、二つ、全部で八つ。どんどんこちらに、近づいて来る。どうしようか。
落ち着け! そうだ味方を選択、敵が消えちゃう。Autoを選択、敵も味方も表示された。
廊下に出て、大声で叫んだ。「敵襲だぁ〜、皆んなぁ〜、地下室に避難しろっ。」
シスターや子供達が慌てて、次々と集まって来る。皆を急いで地下室へ誘導する。
俺は〘MAP〙を見ながら、敵の位置を確認する。どうやら、孤児院を包囲したようだ。
「ロッド、刺客のようだ。敵は8人お前は正面玄関を護れっ。火は使うなよ、火事はごめんだ。行けっ。」
それを聞いたロッドはボウガンを2丁抱えて勇ましく向かって行った。
敵を待っていてもしょうがない、こちらから行くぞっ。そう呟いて孤児院の外へ出た。
敵の一人目は、直ぐ側の窓の外にいた。陰になるように隠れながら、背後に忍び寄る。
男が窓を覗き込んでいるところを、喉に刀を突き刺した。その男は音も無く崩れ落ちた。
〘MAP〙で位置を確認して二人目に近づく。
暗闇の中で、まさか位置を知られているとは思わないだろう。
静かに近寄ると、一気に胸を突き刺した。
二人目の男は小さく『うっ、』と呻きながら倒れた。
三人目の男は、二階から侵入しようとして、二階の窓の手摺りに手を掛けたところだった。
俺はすかさず脇差しを抜くと、そいつの背中に投げつけた。
『ぐはぁ、』そう呻き声を上げて、地面に落ちてきたが、傷が浅かったようだ。
立ち上がって向かって来たが、すかさず俺が袈裟斬りにして斬り捨てた。
男を斬った刀の血を払って《MAP》を見ると、また一人こちらに向って来ている。
俺は、茂みに隠れ待ち受けた。近づいて来た男は、仲間が倒されているのを見つけると近寄った。その瞬間に一気に斬りかかる。
慌てて避けようとするが遅い、俺の刀が胸を貫いている。
《MAP》を見ると残る赤点は一つだけだ。
ロッドが三人倒したようだ。残る一人は室内に侵入して、リビングを移動中だ。
俺は孤児院の裏口から室内に入り、リビングの廊下の角に潜んだ。
男は俺に気が付かず、俺の前の部屋のドアを開けようとした。
今だっ、俺は奴の後ろ首に、刀の峰を打ち付けた。『ぐぁ、』呻きながら男が崩れ落ちる。
峰打ちだ。すかさず武器を取り上げて、縛り上げた。
舌を噛まれ自害されないように、猿轡を噛ませて、服を剥ぎ取り持ち物を調べる。
毒物らしき物は持っていたが、身元に繋がるようなものは持っていなかった。
刺客の始末を終え、ロッドをハーベスト子爵の屋敷に使いにやると、子爵とポーカーが部下を引き連れて飛んできた。
「コウジ殿、子供達は皆、無事か?」
「はい、なんとか事なきを得ました。」
「子供達はどこじゃ?」
「皆、二階でシスター達がついております。」
「賊の狙いは、コウジ殿かの?」
「はい、おそらくは。」
「どこぞの貴族の手の者か。コウジ殿を亡き者にすれば、このハーベスト領の利権でも、手に入ると思うたか。」
「わかりません。王城の誰かなのか、それとも別の誰かなのか。」
「ポーカー、この捉えた男を屋敷に連れて行き尋問せよ。命じた者を吐かせるのだっ。」
「はっ、直ちに、屋敷に連れて行きます。」
「子爵、このままにはしておけません。
俺は明日、犯人を捜しに王城へ向います。
護衛はいりません。俺一人で行きます。」
「そうか、孤児院には護衛の者を配置する。」
次の日の朝、俺はひとりで《モーターグライダー》を操縦して王城へ向った。
夕方王都郊外に着き《モーターグライダー》を偽装で隠し終えると、徒歩で王城へ向った。
王城の門を入ると〘MAP〙をAutoにセットし、衛兵の案内で城の中に入った。
果たして、王城の中に《敵》はいるのか。
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「殿下、今度は《ドリームランド》などという遊戯施設を作り、また、富と利権を集めているようにございます。」
「調子に乗りおって。たかが子爵風情がこの国を動かしているつもりか。」
「アレク陛下では、彼の者の不遜な態度を抑えきれないばかりか益々助長させております。」
「うむ、兄上は甘い。あのような者がこの国にあっては、我が王家に害をなすばかり。
断じて許せぬ。」
「すべての元凶は彼の者です。彼の者さえ排除すればことは治まるかと。」
「ダビデ、密かにかの者を葬れ。兄上には気付かれぬようになっ。」
このとき、王弟アシュアは知らなかった。
決して逆らってはならない、龍の尾を踏んでしまったことを。
王城の建物に入ってすぐに赤い点が現れた。
二つ。誰かはわからないが王城に《敵》は、いた。
俺は陛下に謁見を申し入れ、なにげなく赤い点のある方向へと向かった。
すると王城の長い廊下で、赤い点の一つとすれ違った。
騎士の格好をした50年配の男だ。こちらをチラッと見ただけですれ違った。
「あの、すみません。王城に不慣れなもので迷ってしまったのですが、ここはどの辺りの区画でしょうか?」
「この先は、王弟殿下の執務室がある廊下だ。
王弟殿下に用でなくば、引き返すがよい。」
「ありがとうございます。戻りましょう。」
なるほど、もう一つの赤い点はこの先にある。この男は王弟殿下の配下か。
俺は、廊下を引き返した。
待合室に戻ってまもなく、謁見が許された。
「如何がした? 前触れもなく、突然の謁見を申し出るとは、ただ事ではなかろうが。」
「仰せのとおりです。その前にお人払いをお願い致します。漏れては困る話なので。」
「ここにいる者は皆、儂の信用のおける者ばかりじゃ。それでもいかんか?」
「陛下は、その方々がどなたを信用なさっているのか、全てご存知でしょうか?」
「むっ、宰相以外の者は下がっておれ。心配は無用じゃ、この者は儂にだけ話さねばならぬことがあるのじゃ。」
「昨夜、襲撃を受けました。5人手練でした。
正体を現す所持品もなく、犯人を見つけたいと思い、こちらへ参りました。」
「なんと、そちを狙ったか? どこでじゃ?」
「孤児院にございます。子供達は避難させ無事でした。」
「何奴だ?そちを恨む者か妬む者の仕業か。」
「それについては、犯人に心当たりがありますが、しかし証拠はありません。」
「それで、お会いしたい方がおります。」
「誰じゃ、そやつが犯人なのか?」
「いえ、話を聞きたいと思います。王弟殿下に。」
しばらくして、その場に王弟がやって来た。
「お呼びと伺いましたが?」
「うむ、そなたに紹介しようと思うてな。」
「はて? 誰にございましょうか。」
「そこに居るのは今話題のハーベストの代行、儂が護国卿に任じたコウジ卿だ。」
「初めてお目にかかります。コウジと申します。王弟殿下。」
「 · · · · 、おお、その方がコウジ卿か。」
王弟アシュアは、平民風情の護国卿の叙任式が不快で仮病を使い欠席したので、コウジの顔を知らなかった。
〘なんだ、ハーベスト領にはいなかったのか。
襲撃は失敗か。〙
「昨夜、何者かに襲撃を受けまして、ご挨拶に伺いました。」
「えっ昨夜?王都で襲撃を受けたと申すか?」
「いえ、ブルータスの孤児院にございます。」
「そんな? 昨夜ハーベスト領にいたその方がなぜここにおる? 不思議な話ではないか。」
「ですがここにおります。その襲撃者の一人を捉えまして、尋問しましたところ、王弟殿下の配下の者に命じられたと吐きました。」
「馬鹿なっ、なんの証拠がある?」
「ところで、殿下は私の提案した紙幣や鉄道をどう思われましたか? 」
「ふん、あんなのは、ただの紙屑だ。鉄道など金が掛かるだけで馬車でこと足りるわ。」
「なるほど。商人は重い貨幣に苦労し自分達で荷物を運ばなくてもいい、鉄道の便利さに満足しているようですが、殿下には関わりないと、申されるのですね。」
「それがどうしたと言うのじゃ?」
「民衆の気持ちがわからず、民の生活を豊かにすることに関心のない王族は、王族とは言えません。
アレク国王陛下、この方を廃爵されるように提案します。」
「な、なんだとっ、平民上がり風情がっ。」
「私ではありません。お決めになるのは陛下です。」
「兄上、このような無礼者。今すぐ捕らえて処罰をお与えください。」
「アシュアよ、そなたはコウジ卿のやることに反対のようじゃの。ならばどうする? 亡き者にするか?
アシュアの王族の地位をはく奪する。」
「そんな。私は暗殺などやりませぬ。お考え直しください。」
「ならば、死罪の方がよいと申すか?」
もう一つの赤い点が扉の向こう側に、張り付いている。耳をそばだてているのだろう。
そっと近づき、いきなり扉を開けると部屋の中に倒れ込んで来た。
「ダビデ卿、そんなところでなにをしておる? 人払いをした故、誰も近づいてはならぬはずぞ。」
「陛下、この男が、襲撃を命じた主犯です。」
「衛兵っ、その者を捕らえて、牢に入れよ。」
王弟アシュアは王弟の爵位はく奪の上、国外追放となった。
ダビデ伯爵は、捕縛された襲撃者の供述により爵位はく奪の上、死罪となった。
このウインランド王国には、まだまだ地位や身分の権威を振りかざし、新たに台頭する者を妨げ排除する愚か者がいるのだと再確認した。
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