第18話 杜のくまさん鉄道とお魚を届けよう

 いくらハーベスト領の外の事には関わらないと言っても、他領との商取引はあるし、間接的な関わりは切っても切れないものがある。

 隣地の領民なら特に、行き来も頻繁に有る訳だし、その人々の生活を豊かにするためにも、間接的な生活向上の支援は必要だろう。


 そこで俺はハーベスト領以外の王国の人達がハーベスト領に直接来て、その目で見て知って理解してもらうことができる施策を、実行することにした。


 名付けて『ウインランド王国 領民手繋ぎ 第一弾 《 果てしなき 鉄路の手繋ぎ編 》』


 さて、先立つものは資金の捻出だがそうそう金鉱が見つかるわけもない。

 そこで今回は、造幣局を作って紙幣を発行し資金を捻出するよう、アレク国王に提言した。


 この世界のお金は、白金貨(百万円)、金貨(1万円)、銀貨(千円)、大銅貨(百円)、銅貨(10円)で金属の貨幣しかない。

 大金になると、かさ張るし重いのである。

 そこで、金貨、銀貨の代わりに2種類の紙幣を発行することにした。


 ボッシュに、活版印刷機を作らせ、アレク国王の顔の透かしを入れた。

 紙幣の発行量は国王の専決事項とし、通年の発行量は定額を原則とした。インフレを起こさない為である。


 次に線路の資材となる鉄を作るために、高炉の建設を行った。

 同時に蒸気機関車の製作にも取り掛かった。

 D51〘デゴイチ〙のような大型で複雑な機関車ではなく、イギリスの初期に使われたような小型でシンプルな機構のもので、日本の遊園地などで見かけるタイプのものである。


 ちなみに『可愛いい動物の機関車がいい。』という孤児院の年少組の要望リクエストにお応えして、機関車の前面を〘くまさんの顔〙に仕立てた。

 俺は機関車トーマスをイメージしてたのだがちび達には不評だった。


 線路は街道の整備と同時に行なわれ、街道の横側に並行して敷設された。

 建設から一年、王都とハーベスト領ブルータスの街を結ぶ路線が、第一号として開通した。


《杜のくまさん鉄道》は小型機関車なので一度に運べる乗客の数は60人程。でも、大型馬車5台分の貨車を2両連結している。

 時速40km余だが、この世界では馬車の3倍以上である。

 画期的な速さの大量輸送を実現したのだ。


 初めて乗る汽車に、乗客は揺れが少ない乗り心地とその速さに驚き、汽車から眺める景色を堪能している。

 おまけに、商業ギルドが手配した《駅弁》が大好評で、乗客の楽しみになっている。

《駅弁》は、その街々村々の特産品を使って、観光名所スポット宣伝PRするものや、動植物を形取ったものなど多種多彩で、味も悪くない。


 全ての王国民は最初の一度の往復だけ、この汽車に無料で乗れる。

 半年後には北方路線が開通する。そのさらに半年後に南方路線も開通予定だ。

 自分の住む街に汽車が開通してから、無料の権利を使うのも自由だ。

 今のところ単線だが、途中の駅で時間調整をしてすれ違うので、淀みなく運行している。 


 ちなみに、開通式を王都とブルータスの街の両方で同時に行ったのであるが、ブルータス発の開通第一号列車には『聖ナターシャのこじいん』御一行様が、レイネと共に試乗し王都2泊3日の旅を楽しんでいた。




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 私の名はミリヤ14才、5才の時に母を亡くし《聖ナターシャの家》に来ました。

 当時は、シスターのナターシャ一人で、私達16人もの孤児の面倒を見ていました。

 貧しい中で、しかも大勢の孤児で大変な苦労だったと思います。


 三年前に、孤児院の土地建物がボルツ商会に乗っ取られそうになった時、自分のせいだと、泣いて飛び出したミーシャを保護して連れ帰ってくれた『コウジお兄ちゃん』が、ボルツ商会をやっつけてくれて、孤児院の皆んなにパンを焼くことを教えてくれました。

 それから、驚くほど孤児院は変わりました。


 そして今、ブルータスから王都まで開通した『杜のくまさん鉄道』の第一号、それも先頭車に乗って、私は初めて王都へ来ました。

 初めて見る王都の街には、たくさんの建物とたくさんの人々がいて、お店も驚く程たくさんあります。

 私は、特にその中の洋服を売るお店に、目が釘付けになりました。

 お店はお洒落なガラス張りで、明るいお店の中には、お洋服がたくさん飾ってあります。

 とても素敵な上品な服。可愛らしい子供服。


 今日、王都に来られて、いろんなお店を見ることができて、ほんとうに良かった。

 だって私の夢は、いつかお洋服のお店を開期

素敵なお洋服を作ることなんですもの。 




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 続いては、ウインランド王国領民手繋ぎ編 第二弾 《お魚を届けよう編》だ。

  

 ハーベスト領から一番近い海は、南隣のサマール男爵領で、その海岸線までは、ブルータスの街から250キロ離れている。

 サマール男爵領の東西には、エスト男爵領とリリエール子爵領がある。

 この国の漁業と言えば、個々の漁師が海岸で素潜りで貝や海藻を採るか、小型船で投げ網を打つようなもので、とても漁業とは呼べる規模ではない。


 その夏、俺は孤児院の御一行様を引き連れてサマール男爵領の海辺に海水浴にやって来た。

 もちろん、沿岸漁業の現地視察が目的だ。

 ただし、同行した御一行様方はレジャー観光目的である。


 女性陣は、ミリヤデザインの水着〘年少組はセパレートタイプ、年長組はビキニタイプ〙を着て、レイネはなんだか恥ずかしがっている。


「ねぇミリヤ、この水着、お腹が見えて布地も少な過ぎると思うんだけど。」


「レイネお姉ちゃん、この服は水を吸って重くならないように、布地を少なくしたんです。」


「でも、胸の形もお尻の形もコウジさんに見られるし、 · · · 。」


「いいじゃありませんか、旦那様になる方に隠すことなんかないでしょっ。

 まあ、海に入らない時はその上に何か羽織っておけばいいんですよ。」


「そうね、そうするわっ。」


 子供達は俺が作った藁屑を固めた人工コルク製の浮き輪に、おもい思いの絵を描いて持って来ている。


「うわぁい楽ちん楽ちん、浮き輪に乗って寝ちゃうといいよっ。」


「それだと、波にさらわれるから、気をつけろよ。」


「ねぇ、助けてぇ足が届かないのっ。」


「手で漕いで、戻ってきなさいよっ。」


 波打ち際で波と戯れ、打ち上げられた貝殻を拾い、浅瀬で海水を掛け合い、はたまた、お風呂のように浸かる者など、皆んなおもい思いに楽しんでいる。

 皆んな、初めての海水浴に大はしゃぎだ。


 しばらく海水浴を楽しんだら、皆んなで引き網漁の時間だ。

 俺とロッドほか数人で、沖の方から網の両端を広げ、その先のロープを砂浜の皆で引く。

 網が近づくと魚が飛び跳ね子供達は大騒ぎ。やはり、ここの海は魚影が濃い。


 さっそく引き網で採れた魚や貝を、網の上で焼いてバーベキューだ。炭火だから香ばしくて美味しい。

 あっ、誰か《カニ》を焼こうとして、逃げられたみたいだな。周りの子達が捕まえようと、追いかけ回し大騒ぎになってる。

 皆、初めての海水浴に、大満足みたいだ。


 レイネの水着姿が、とても女らしく見える。

 そうか、出逢ってからもう4年、レイネは19才になる。

 子爵家のお嬢様だというのに少しも気取らず誰とでも屈託なく話すところが、誰もから敬愛され慕われている。


 そう思っていたら、レイネと目が合ってしまった。 


「コウジさん、な·に·を·見·て·ま·し·た·か?」


「いや別にっ。レイネも大人になったもんだと思ってさ。」


「そうです。もう19才です。そろそろ貰ってくださいっ。」


 やばい、そうきたかっ。なんとかごまかさなきゃっ。


「レイネは、エライねっ。」


「なにがですか?」


「え〜と、皆んなの面倒を見てくれてさっ。」


「いまさら、なんですかっ。」


 ごまかしに失敗した。このあとレイネにずっとずっと寄り添われて、それに気付いた子に、


「なにやってんのっ?」と言われてしまった。

 


 それはそれとして漁業振興の目途は立った。

 海水浴から帰った後、俺はリエール子爵領、サマール男爵領、そしてエスト男爵領の漁民を集めて、それぞれに漁業組合を作らせた。


 そしてまず初めに、16t程度の中型漁船を作り、流し網漁をさせることにした。

 漁船を手漕ぎから、小型の蒸気機関にした。

 漁網は木綿の糸の芯に、極細の針金を通して破れにくい漁網を作った。


 各漁業組合の持ち船は5隻。初の流し網漁が子爵達が見守るなか行なわれた。

 結果は大豊漁。「たくさんの魚が採れすぎて漁網が破れないか、はらはらしましたぜっ。」とは、サマール漁業組合長の話だ。


 水揚げした魚は、アジ、イワシ、サンマなどで、干し魚に加工して各地へ出荷される。

 生の魚は2日くらいしか保たないが、海水に漬け天日干しにした干し魚は、2週間は保つ。

 もちろん、地元の人々には漁師さんも含めて、生の新鮮な魚を食べてもらう。


 生のままで食べる《刺し身》の普及は、《醤油》や《ワサビ》の普及が進んでいないので、次代の課題だ。

 漁業組合ができたおかげで、安くて新鮮な魚が、あるいは内陸へは干し魚が、人々の食卓に届けられるようになった。



【とあるサマール領の漁師】


 男爵様からのお達しで、俺達漁師は皆んなで漁業組合というものを作って、共同作業で漁をすることになった。

 驚いたのは、大型の漁船が5隻も与えられ、大きくて長い《流し網》という網を使い、遠い沖合いまで行って漁をすることだ。


 初めは、船の操作から漁の網の入れ方などに四苦八苦したが《蒸気機関》という蒸気の動力で、素晴らしい速さで動く船だし、何より魚がいっぺんに数えきれないほど採れるんだから、驚くほかねぇ。


 最初の漁の日、採れたアジとサンマを10匹も家に持ち帰ったら息子と嫁が驚いてた。


「父ちゃん、そんなに大きな魚どうしたの?」


 新しい船と漁法で採ったと話すと、


「ほんとっすごいわね。だけど売らないで家に持って帰って来ちゃだめでしょっ。」


「売る分は十分に除けてある。これは、ほんの余りを持ってきただけだ。新しい船なら何百匹も採れるんだぜっ。」


 その日の晩飯には、一人一匹ずつの大き過ぎる焼魚が出て、皆、こんな贅沢していいのかという顔をしていた。



 杜のくまさん鉄道の開通で、それまでお魚が食べられなかった内陸の街や村々に、干し魚や小魚の甘露煮、干した貝や海藻が届けられるようになった。

 生の魚貝だって、冷水に浸けて運ばれその日のうちなら、焼いて食べられる。

 こうして俺は、この世界にまた一つ豊かさをもたらしたのだ。

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