第三章 俺の異世界の国造りは、夢のある国だ。

第17話 コウジ『護国卿』になるってよ。

 帝国軍との戦いが終わったあとの面倒事は、

この国、ウインランド王国の王城や貴族達への対応だ。

 今回の戦争で、ハーベスト子爵領の驚異的な戦力を知った貴族達は、その力を自分達も得たいと欲するだろう。

 そして権威を嵩にその要求を通そうとする。


 私利私欲しかなく、領民の苦しい生活を放置する無能な貴族達に力を与えるなど、天に唾する行為に等しい。

 俺は、王城とこの国の貴族達には、徹底的な敵愾心と不信感を持っている。

 だから、敵対国と同様に徹底的な情報秘匿と恐喝で対応する方針を固めた。

 


 俺はまず、領軍から火縄銃の回収を行った。 

 回収した火縄銃は、ハーベスト家の武器庫に保管して厳重に管理した。

 そして、鍛冶ギルドに作ることも厳禁した。 

 もし万が一にも、火縄銃という新兵器による武力を手に入れ、あるいはその価値を売り物にして、私利私欲に走る浅はかな死の商人や権力を手に入れ、戦乱を招く輩を生まないためだ。


 敵となる軍がハーベスト領軍と同じ武器を使えば、兵数の勝負になってハーベスト領軍が、敵わないことになり得るからだ。

 鍛冶ギルドの職人達は、このハーベスト領を守るためには、絶対に必要なことだと理解してくれた。


 また、ボッシュ達にも孤児院の孤児達にも、新たに《モーターグライダー》を作ることも、孤児院以外の人間に見せることも禁じた。

 必ずしも平和利用だけに使われるとは限らず人殺しの道具として使われるかも知れないのだと話し、戦争がない平和な世の中になるまで、秘匿するようにと話した。




 その上で、ウインランド王国の王城や貴族へは、戦争も辞さないとの釘を刺した。

《火縄銃》や《モーターグライダー》を欲するならば、その集団を率いる者以下、軍兵全員の命と引き換えであると。


 自分達でなにもせず、他人から力を得るなど言語道断と言える。

 ましてや、これらの武器や道具が帝国に使われていれば、王国はとっくに滅んでいたことを理解しているのか。

 これ以上、王城がハーベスト領に依存しようとするのであれば、ハーベスト領は独立して、敵対国となる。そうも付け加えた。


 


 アレクウインランド国王からは、次のような返答の手紙が届いた。


『武器、武力となるようなハーベスト領の産品は、ハーベスト領外への持ち出しを厳禁とするよう取り計らう。 

 しかし、王国民の生活を豊かにすることのできるハーベスト領の産品は、王国内に積極的に知らしめ普及させてほしいと。』


 また、俺に王国建国期にしか存在がなかった《護国卿》の地位を与えて、俺にハーベスト領の産品を保護する権限を与えるとのこと。

 ちなみに《護国卿》とは、国の防衛最高責任者であり、防衛や軍備に関して宰相をも従える権限を持っている地位だという。


 まあ、妥協点かな。ただし条件を付けた。

 俺が護国卿となっても王城に常駐もしないしハーベスト領から積極的に出るようなこともしないとの条件を付けた。




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 護国卿の任命式には、授任者本人の俺が出席しないという選択肢はないので、ポーカー騎士団長以下の護衛を引き連れて、王城へとやって来た。

  

 アレク国王とは、初めての謁見となる。

 儀礼に則り、膝まづいてアレク国王の入場を迎えると、王から声を掛けられた。


「よくぞ引き受けくれた、コウジ卿。

 帝国との戦いにおいては、そちの率いた領民の力で、ことなきを得ることができた。

 これまで、なにも報いてやることができず、心苦しく思っておったところじゃ。」


「過分なお言葉、恐縮でございます。 

 この度は、陛下から格別なご配慮賜り、感謝申し上げます。」


「一つ卿に尋ねたいのじゃが、卿はなぜハーベスト領のみにこだわるのか? 

 この王国全ての民のために、尽くしてはくれぬのか?」


「陛下、民のために力を尽くしたいとは思っております。

 しかしハーベスト領の外では、私と民の間に入る者がいて、それができないのです。」 


「ほう、それは貴族のことか。貴族がおると、何故にできぬのか?」


「陛下、何故か、お目にかけましょう。」  


「今から、陛下にお伝えすべきことを、こちらに居並ぶ皆様に、耳打ちでお伝え致します。

 耳打ちされた皆様は、隣の方に耳打ちでお伝えください。

 そして最後に陛下へお伝えください。」


 それではお伝えします。

「········。」「········。」「······。」「·····。」


「陛下、お聞きなりましたでしょうか。私は、


『陛下のお顔の色がすぐれないように見えます。何か心配事があるのでしょうか? それとも私の杞憂でしょうか。』 

 と、申し上げました。」


「なにっ? 全く違うぞ。

『国王がコウジ卿を心配して、ハーベスト領に格別の配慮をした。』

 と聞いたのだが。」 


「それが答えでございます。人は、各々自分の考えを持っています。

 ですから、他人から聞いたことを自分なりに解釈して、自分なりの言葉で伝えます。

 それ故、何人もの人を介すると初めとは全く違う話になってしまうのでございます。


 私は、このようなことが起きて、民のためにとなしたことが、逆に民を苦しめる結果となることを恐れています。

 それ故に、ハーベスト領以外のことには関わらず、触れないようにしております。」


「ふむ、そちの言には、道理があるか。」


「陛下、しかし先に申し上げたとおり、決してこの王国の人々の幸せを願っていないわけではありません。

 人々の生活がより豊かなものになるように、新たな便利な道具や方法を、ハーベスト領から発信して行くつもりです。」


「そうか、それを聞いて安堵した。できれば、卿には王城において、その力量を振るってほしいと思うたが、詮無きことか。」


「おそれながら、それはいたずらに諍いを招くだけで、賢い方策とは思えません。

 ここにおられる貴族の方を含め、貴族としての今までのやり方を改めることは、育った環境からも受け入れ難いことです。


 また、私のような若輩者に従うのを良しと、しない方も少なくないことでしょう。

 いずれは、反乱や内乱を生むことでしょう。

 陛下は、それをお望みですか?」


 「· · · · · · 。」



 こうして、俺の謁見は終わった。

 アレク国王は、まだ30才を過ぎたばかり。

 わずかな時間の謁見ではあったが、俺の話したことを理解し納得していた様子なのは、好感が持てる。



 【ある貴族の視点】


 帝国との戦争で、5万の帝国軍をたった二千の領地軍で打ち破り、さらに帝都の王家と貴族を城ごと葬り去ったという、ハーベスト子爵家の領主代行なるものを、その功績から護国卿に任ずるとのアレク国王の勅命に従い、任命式に列席したが、なんとまだ20才を過ぎたばかりの若者ではないか。


 5万もの軍をわずか2千の領兵で破るなど、まぐれなどではできるはずがない。

 新兵器を用いたそうだが、その兵器は秘匿するという。確かに、その兵器を手に入れた者が野望を抱かぬという保証はない。


 では、王家の近衛だけに配備するとしたら、どうなのか。だめか、その兵器の秘密が漏れ、いずれ真似て作られることになりかねん。

 しかし、我らの領地に手出しせぬというのは一長一短だな。

 我らの権利を犯さぬ代わりに、彼の地の優れた品々がすぐには、手に入らぬし伝わらぬ。


 それにしても言うてくれるわ。人には人それぞれの考えがあるか。

 確かにただ他人の言うとおりに物事を行えばおのれの存在価値が無くなるであろうし、才覚も発揮できぬ。

 しかし、耳打ちの伝言で上の者が命じたことが伝わらぬことを、目の前で見せつけるとは、ほとほと恐れ入ったわい。




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「え〜ぇ、コウジ兄ちゃん、代行じゃなくなっちゃうの?

 そしたら、街の人達なんて呼べばいいの?」


「そうでちゅっ、にいちゃんなぁら、みんなとまちゅがうでちゅっ。」


「にいにいって、呼ぶのは私達ナターシャ孤児院の女の娘の特権なのですっ。他の人達には呼ばせませんっ。」


 はぁ、そこかよ。まったく孤児院の子供達はピントのずれた心配をしている。

 レイネの様子も、なんかおかしい?


『玉の輿、玉の輿っ。うふふふっ。』


 見かねてポーカーがフォローしてくれた。


「コウジ様の領主代行は、変わりませぬぞ。

 今回はただ、それに兼務で護国卿になられただけだぞ。

 もっとも、護国卿というのは、ウインランド王国で国王陛下に次いで、宰相と並び2番目に偉い地位だがな。

 国王陛下がコウジ様をその地位につけたのはこのハーベスト領と皆んなを護るためだ。

 だからコウジ様は、皆んなの守り神様だ。」


「うわぁ~ぃ、守り神様っ、守り神様っ。」


「孤児院に、コウジ兄ちゃん像を作って、祀らなきゃだなっ。」


『玉の輿は、もしかして、女神様の座かしら。うふふふ。』



 あちゃぁ。ポーカー最後の一言が余計だよ。

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