第15話 レイネと孤児達の闘い、王国激震。

 レイネは住むところを追われ、あてもなく逃げ惑う女性や子供達のことを考えていた。

 頼れる者がいない中で、心細く不安な避難をしているに違いない。

 食べ物も飲む水もなく、空腹と渇きに苦しみながら、必死になって逃げていることだろう。


 なんとかして、彼女らを助けてあげたい。

 まだ侵略を受けていない私達にしか、助けてあげられる者は、いないのだから。

 そう考えながら、教会の前を通りかかった時だった。

 多勢の女性達が祈りを捧げていた。そのうちのひとりが、レイネに声をかけてきたのだ。


「レイネお嬢様、帝国に追われた人達は無事に逃げられているのでしょうか? 

 きっと、心細くひもじい思いをしていると思うんです。

 どうか、子爵家のお力でその人達をお救いください。」


「そうです。私達もなんでもお手伝い致しますから。どうかお救いください。」


 「みんなの気持ちはわかったわ。逃げている人達をなんとか助ける方法を考えるから、その時は皆の力を貸してちょうだい。」


 私ひとりではなにもできないけれど、孤児院のみんなにも相談すれば、何か良い知恵が見つかるかも知れない。 

 人を思いやる気持ちが、人一倍強いあの子達なら。



 孤児院の年長組には、春の聖バレンチノ誕生祭に、素敵なプレゼントが送られていた。

 《モーターグライダー》男の子なら、誰でも大空を飛ぶ夢を見るだろうと、孤児達にコウジが送ったものだ。

 送られたのは、2機のモーターグライダー。

 上翼で視界が良く、たとえモーターが停止しても、滑空して安全に降りられる。


 そのうちの一機は、コウジが完成させたものだが、もう一機は仕組みを理解させるために、年長組の男の子達に組み立てさせたものだ。

 これには、年少組の何人かも加わっている。

 おとな二人乗りなので、子供達だと年長組だと四人、年少組だけだと六人も乗れる。

 さっそく操縦を覚えた子供達は、もう何回も飛んでベテランの域になっている。


 シスターのナターシャから、帝国が侵略して来て、多くの避難民が着の身着のままで、逃げていると聞きました。

 食べ物はもちろん、飲水もなくて、困っているに違いないのです。

 それを聞いた孤児のひとりが呟くきました。


「僕達の《グライダー》で、その人達に食べ物や飲水を届けられないだろうか?」


 レイネが孤児院に着いた時、子供達はもう、具体的にどうすればいいのかを話し合っていました。

 さっそく、相談を受けたレイネは少し考えた後、皆に言葉を選びながら話した。


「まだ子供のあなた達には、危険すぎることだと思うわ。

 でも、体が軽い子供のあなた達なら、荷物をたくさん積むことができる。

 危険だけど、あなた達にしかできないことだとも思う。」


「お姉ちゃん、やらせてよ。親を亡くして僕達のような孤児が増えるのは、嫌だっ。」


「そうね、こんな時こそ、やらなくてはいけないわね。私達にしかできないことですもの。 

 私に、皆の力を貸して頂だいっ。」


 こうして、レイネと孤児院の子供達、そして街の女性達による《空からの救援作戦》が、他のギルドや領地軍に先駆けて、実施された。


 まず、《モーターグライダー》には、パイロットの年長組一人と、荷物を撒く年少組が二人が乗り込むこととした。

 空から撒く食糧は、街の女性達がサンドイッチと飲み水の紙パックを一組ずつ紙で包み、10個ずつを紙の《パラシュート》で撒くことにした。

《紙パック》や《パラシュート》は、もちろんコウジさんが教えてくれたものです。


 私達の計画を話したら、一も二もも無く危険だが是非やってほしいと言われ、しかもコウジさんでも考えつかなかったよと褒めていただきました。

 加えて包装する紙には『ハーベスト領で皆が待っているよ。』と書き添えてほしい、とも言われました。さすがコウジさんです。



 僕の名はシンジ。《モーターグライダー》で避難する人に空から食べ物を届けたらどうか、と提案しました。

 皆が賛成してくれて、僕が最初のパイロットになりました。


 ハーベスト領を出て、最初の避難する人々を発見したのは、隣のグラント男爵領を出てまもなくでした。

 人々の手前に《パラシュート》を投下すると最初は警戒してた様子でしたが、何人かが拾うと書いてあることを見たのでしょう。手を振ってくれました。


 最初の集団は30人くらいでしたから、引き続き次の集団を探しました。

 積んでいる《パラシュート》は、50個ですから、500人分のサンドイッチセットを積んでいます。

 全部撒いたら帰還して、どの位置で何人くらいの人に撒いたかレイネ姉ちゃんに報告です。

 レイネ姉ちゃんは報告をまとめて、次に撒く地域を指示してくれます。


 こうして僕達は日中交代で空からの救援作戦を、その日から三週間、休みなく続けました。




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 帝国が滅んで一ヶ月後、王城から使者が来て今回のハーベスト子爵の功績に対して、王国として褒章を与えるから、ハーベスト子爵と俺の両名に王城へ出頭するようにとの、王命が届いた。


 だが俺は、拒否。お礼を言うなら使者を立てて伝えれば済むことだ。

 ハーベスト子爵と俺の二人だけを呼び付けるなんて、暗殺を企てているとしか思えない。

 そのように伝えて、けんもほろろに使者を追い返した。


 王城では、貴族達が勢揃いした謁見の間で、使者からの報告がなされた。


「ハーベスト子爵は、子爵と代行の両名だけを出頭させるのは、もしかして、王城は暗殺でも狙っているのではないか。と言われ褒章も辞退されました。

 子爵からは、今回の敗戦は貴族個々の勝手な振る舞いが敗因であり、それをうやむやにするためにハーベスト家に褒章を与え、それで全て終わらせようとしているようにしか見えない。

 褒章を与えるより、まず、敗戦の責任を取らせるのが先ではないかと言われました。


 そして、国民を守るべき王家と重臣、貴族の皆様に、国民を守る力がないのであらば、王城も貴族も存在する意味がないのではないかとも言われました。


 子爵は、こうも申されました。

 ハーベスト領においては兵士達が50倍もの敵に立ち向かうために、過酷な訓練に身をやつし、商人や鍛冶師達は寝る間を惜しんで、避難民の家や食糧を確保し、あるいは武具の生産を行ない、女性から子供達まで総力をあげて戦ったのだと。


 子爵家だけが、普通に戦って勝利したと思っている王城の方々は、おめでたい方々だと。

 私は、恥ずかしさに返す言葉がございませんでした。」


「な、なんと、無礼なっ。王家に対して不敬ではないか。」


「代行は、こうも付け加えられました。

 無礼や不敬などと発言する者は、王家の権威を自分の都合の良いように利用しているだけの無能の者ゆえ、近く討伐に参ると。」


「 · · · · · 。」


「そうじゃのう、今回の戦いに破れた貴族は、領地没収の上、取り潰しとする。」


「お待ちください。そんなことをすればほとんどの貴族家がなくなり、国が立ち行かなくなります。」


「そうかな? その領地、全てハーベスト領とすれば、どうじゃ? 

 かの地は素晴らしく発展し領民こぞって領主を信頼して、いざという時は一丸となっておるではないか。

 そうできぬ貴族は、無能なのではないのか?

 いや、そんな無能な者を貴族にしたままにしておいた儂の失敗か。

 このままでは、儂が討伐されてしまうわ。

 だからこの際、無能な貴族を取り潰す。

わかったな?」


 この結果、王国の3分の2にも及ぶ、貴族家が取り潰しとなった。

 歯向かおうにも、帝国に破れ抵抗できる兵力などなかったからだ。



 そんなことをよそに、子爵と俺は執務を休憩し、二人でお茶を飲んでいた。


「コウジ殿、王城の使者への返答は、少し過激すぎたのではないか?」


「そんなことはありません。俺の見るところ、アレク国王陛下は、賢い王です。

 ただ周りに賢く、王に献策できる者がいないだけです。」


 それを聞いた儂は『この目の前にいる男と比べられては、誰もが無能になってしまう』のにと呆れたのであった。







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