第14話 領国防衛戦、それぞれの闘い。
いくら、干伐で食糧が不足したからといって『食糧を支援してくれ』ともなんとも言わず、戦争を仕掛けてくるなど、言語道断だ。
こんな非道で無策な頭の悪い為政者達が中枢にいる帝国は、他国の領民ばかりか自国の領民さえも苦しめるばかりで、統治能力は皆無だと判断せざるを得ない。
従って、俺は帝国の中枢にいる者達を壊滅させ、破壊し尽くすことに決めた。
ただ、まず、帝国軍の侵攻を食い止めなくてはならない。
そういうことで、俺は二つの戦略部隊を設立した。
第一の部隊は、騎士団長のポーカーに命じて特殊な訓練をさせた隊員50名の特殊部隊。
ボッシュ製作のハンググライダーで、空から高度数アルコールの火炎瓶爆弾を帝国の王城に空爆させるためだ。
その特殊部隊は、ブルータスの街の北にある山の山頂から、ハンググライダーで一気に帝国の首都まで飛び、城ごと帝国中枢を壊滅させる作戦だ。
第二部隊は、ハーベスト領正規軍2,000名で火炎瓶を投擲する移動式投石機250台と最新のライフル式火縄銃で帝国の侵略軍を迎撃する。
ハーベスト領の領境の防衛ラインで、侵略して来る帝国軍を火縄銃の一斉射撃で足を止め、帝国軍が足を止め固まったところで、火炎瓶の投擲を行ない殲滅する作戦だ。
防衛ラインでの戦闘は、周辺領民の避難完了を待って、作戦を開始した。
作戦開始の際に逃げ遅れた子供達がいたそうだが、無事に保護できたそうだ。
一方、ハンググライダーの特殊部隊は、作戦開始から三日後に帝国の首都に到達し、上空から王城を爆撃して、城内の人間諸とも火の海に沈めたそうだ。
途中、風が弱い日があって予定より一日遅れたそうだが、訓練の甲斐があり一人の脱落者もなく、作戦を遂行したとのことである。
俺は、防衛作戦を終えると王城へ使者を走らせ、帝国中枢を崩壊させたので直ちに王国が帝国を併合し、侵攻軍の撤退処理と帝国の領民の統治を行うように要請した。
また、帝国領民に対してハーベスト領から、直ちに食糧支援の部隊を送るので、王国からもこれに続くように要請した。
王城では少し混乱したようだが、事実が伝わるのが早く、間もなく要請どおり実施されることとなった。
ただ、王国の貴族達はこの事実を知り、もしハーベスト領に手出しをしていたら、帝国と同じ目に会っていたと、震え上がったらしい。
この無益な戦争で多くの人の命が失なわれ、そして、罪もない領民達が悲惨な苦しみに会い、誰も勝者とは呼べない結果に終わった。
だが、この戦いの唯一の勝者は幼い弟や妹を守り抜いた一人の少女、ラナである。
彼女は最後の最後まで諦めることなく、闘って勝利したのである。
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【 ボッシュと鍛冶師ギルドの戦い 】
儂はコウジ代行に金鉱の乗っ取り未遂事件があって以後、敵対者への防備が必要とのことで5つの緊急の依頼を頼まれた。
一つは、高度数アルコールの『火炎瓶』。
高度数アルコールは、鍛冶ギルドの蒸留設備を使って作ったが、おかげで飲用の焼酎の生産を中止せねばならず、禁酒を強いられた。
非常に辛かったが、領民を守る武器が緊急を要すると言われれば仕方ない。
だが儂の人生において、嘗てない苦難だったから再度言う。『非常〜に辛かったっ。』
二つ目は『火縄銃』という、鉄の筒から鉄の玉を火薬で飛ばす武器だ。
銃身とかいう鉄筒内側にライフルという溝を彫るのは、鍛冶師としての腕の見せどころだ。
鍛冶ギルドの腕利き達が競って、何回も作り直したから、結構上等な出来映えだぜ。
火薬は、硝石と炭と硫黄を調合して作るが、その割合は、コウジ代行から聞いた。
代行は鍛冶師でもないくせに、なんで知ってるか知らねぇが、とにかくなんでも知ってる。
三つ目は『投擲機』火炎瓶を飛ばすやつだ。〘てこ〙の原理を応用して飛ばすんだとか。
てこの応用とか、普通は考えつかないぜ。
設計図を渡されて、木製の機械だしギルドの若い連中に任せた。
四つ目は『ゴーグル』という風除けメガネ。
なんでも、空を飛ぶ時に強い風が目に当たるから必要なんだと。
これは苦労したぜっ。まず、素材の『ゴム』ってのを見つけることから始まり、ガラスを曲面に加工するのが大変で、失敗の連続だった。
おまけに、後から薄く黒く色を付け、しかも見えるようにしろとか、注文が多過ぎるぜ。
五つ目は『ハンググライダー』という、人を乗せて空を飛ぶ鳥の凧だ。
これだけは、以前から代行に話しを聞いて、儂が作ってみたいと研究してたんで、なんとか作るには作ったんだが、重心とかいう調整に、えらく手間取って遅くなっちまったがな。
鍛冶師ギルド長のバルドが、みんなを集めて言った。
「みんなよく聞け、これから俺達が作るものはこのハーベスト領の命運がかかっている。
一刻も早く作り、一刻も早く兵士達に渡せねぇと、帝国の奴らにこのハーベスト領がめちゃくちゃにされちまう。
俺達鍛冶師が安心して、豊かにものづくりができる、このハーベスト領がだ。
それだけじゃねぇぞ。弱ぇ女や子供達がぁ、もちろん男もだが、大勢殺されちまうんだぁ。
だから頼むっ、みんなを守るために皆の力を貸してくれぇ〜。」
『おおぅっ、やってやろうじゃねぇか。』
『鍛冶師ギルドの総力を挙げて、やるぞっ。』
『ハーベスト領は、俺達が守るっ。』
そうして、儂らの心はひとつに纏まった。
誰もが、みんなを守るために。
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【 カルロと商業ギルドの戦い 】
酷い無様なあり様だ。日頃威張り散らしている貴族達は、帝国の侵略軍の前に連戦連敗だという。
侵攻された国境の領民は、わずかな手荷物だけで、着の身着のまま避難しているらしい。
そんな中、コウジ代行から至急頼みたいことがあると、商業ギルドの皆が集められた。
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。
ご存知のとおり帝国軍が侵攻して来て、侵攻された領地の領民は、着の身着のままで避難を余儀なくされています。
このハーベスト領が最後の砦とも言える状況です。
みなさんにお願いがあります。その避難して来る人達を助けてあげてください。
避難してくる人達は、身寄りも頼る人もなく、ただ追われてこの地にやって来ます。
住むところもなく、食べるものもない。
あの、地震の直後のみなさんと同じです。
どうか、みなさんのちからで、彼らを助けてあげてください。」
商業ギルド長のバスキンが続けて言った。
「みんなっ、俺からも頼む。
地震のあとのハーベスト領の発展は、救済に始まり復興まで、全て代行のおかげだ。
この商業ギルドにだって、上下水道の整備から手押しポンプの設置。バネル工法の住宅建築など、数えきれないほどの恩恵をもたらしてくださった。
今こそ、そのご恩を返す時だ。
それだけじゃない、俺達が地震にあって苦しんでいたのと同じに、苦しんでる人達がいる。
その人達を助けて、あげようじゃないか。」
『代行、話しは分かった。逃げて来る人達の住む家は今ある『ゲル』だけじゃ足りないだろう。至急、集めるように手配をする。』
『食糧の備蓄も足りなくなります。至急、手配しますよ。』
『そうと決まれば、よし、みんなで役割分担を決めてやるぞっ。』
『代行っ、代行は他にもやらなきゃいけないことがあるんだろ。ここはいいから、後は俺達が皆で相談してやるよ。
避難民の受け入れ準備は、俺達に任せてくれっ。』
ギルドのみんなが、次第に熱くなって行く。
俺も避難民の心情を考えると『よ〜し、やってやるぞっ。』という気持ちの高揚を抑えられなくなっていた。
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【 ハーベスト子爵家 】
俺が各ギルドを回って、協力を依頼していたその頃。ハーベスト子爵家では主だった者達が集められ、帝国との戦いの準備が話し合われていた。
「皆、揃ったようだな。それでは帝国軍の現在の侵攻状況と、我が領軍が取る作戦について、騎士団長のポーカーから説明する。
しかし、その前に一言うておく。
敵が何万来ようとも、我らのこの地を守り切らねばならぬ。
たとえ、最後の一人となろうとも、諦めてはならぬ。
お前達を頼りにする者がいる限りな。」
「それでは、私から説明する。
侵略して来た帝国軍は、ホーレーン辺境伯軍を破り、その勢いのままに侵攻を続けている。
王国貴族連合軍は合流が整わず、もたつくうちに個別に撃破されてしまい、現在はヒーロー男爵領とラスト伯爵領において、熾烈な防衛戦が行なわれている。
だが圧倒的な兵力の差ゆえ、保って2週間。
そこを突破されれば、次は我が領の隣グラント男爵領で、このハーベスト領に迫るのも時間の問題となっている。
帝国軍は5万。我が領地軍は2000余り。
しかし、その差は問題ではない。
我らには、コウジ代行が開発した新兵器がある。まだ数が揃わず、今も生産中だが。
だけど、そんなことは言っていられない。
今から交代で新兵器を訓練して、一刻も早く全員が使えるように習熟せねばならん。
また今回、特殊部隊を新設する。
パドラー中隊長。50名の精鋭を選抜し明日から極秘訓練を実施せよ。この任務には王国の存亡が架かっている。
部隊全員の奮闘努力を期待する。」
「何か質問はあるか?」というハーベスト子爵の問いかけに一人が発言する。
「新兵器とは、どのようなものでしょうか?
それは、わずか2000名余りの我が領地軍で5万もの帝国軍を打ち破れるものなのでしょうか?」
「ふむ、間違いない。コウジ代行はそう言ったぞ。
彼の者が今まで嘘を言ったのを、俺は知らぬ。お前達はどうだ?」
「代行が言われたなら、失礼ながら、子爵様が言われましたより、何倍も信用できるかと。」
「全く失礼な奴じゃ。当たっとるがな。わはははっ。」
その場は、爆笑に包まれた。
そして誰もが皆、不安を微塵も感じてはいなかった。
それは信頼に足る、あの人がいるから。
「それでは、各部隊長はただちに、部隊を率いて訓練を開始せよ。」
『『『はっ』』』
こうして、ハーベスト領軍2,000名余りは、一糸乱れぬ統率された高い士気の下、稀に見る困難な戦いへと挑んだのである。
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