第13話 異世界での夏祭りと戦場の花びら

 この世界には、お祭りがない。露店の綿飴や金魚すくい、射的や輪投げ、食べ物の屋台。

 俺の郷愁を誘う、それらを思い浮かべているうちに思い立った。


 『そうだ、夏祭りをやろう!』


 そう決めた俺は、まずハーベスト子爵の許可を貰いに子爵舘に赴き話したところ、

「全て任せるから、盛大にやってくれっ。」

 と言われ、丸投げされてしまった。


 シモーネ夫人には「まあ、すてきっ。お祭りですか、期待しちゃいますわっ。」の一言を、いただきありがたくもプレッシャーを授かってしまった。

 次に、カルロ達、商人を束ねる商業ギルド、ボッシュ達鍛冶師を束ねる鍛冶ギルドを訪れ、企画を説明した上で、協力を求めたのだが。


「なにやら判らないが、代行様の考えることなら、凄いことに違いないっ。」と、これまた、もの凄く乗り気になってくれた。


 商業ギルドには食べ物の屋台を。鍛冶ギルドには、射的や金魚すくいなどの遊具屋台を担当してもらうことにした。

 俺はお祭りの中心には、盆踊りの櫓がいいと考え、ロッドの手伝って貰い材木を組み立ててやぐらを製作した。


 ボッシュに大太鼓の製作を頼み、出来上がると、孤児院の子供達に叩かせて練習させた。

 子供達は、見たことのない大太鼓に夢中だ。

 音楽がないと寂しいので、シスター達を始めとした孤児院の女の子達に歌を覚えて貰った。 

 それで味をしめたのか、シスター達は聖歌隊を作ると張り切っている。


 それから二週間後、前世の七夕の日に夏祭りを開催した。

 場所は、街の中心にある教会の敷地の広場、街中の人が集まり、広場に立ち並ぶ露店に群がって、金魚すくいならぬ『めだかすくい』や、ボッシュの力作である『綿あめ製造機』の前は大行列の大混雑である。


 孤児院でも屋台を出した。年長組は《焼きそば》の屋台。味付けはこの世界では珍しいソース味だから、ほかでは味わえない美味しさだ。

 年少組は《折り紙》の屋台。子供達が折った折鶴や亀、花や動物の色鮮やかな折り紙だ。

 そして俺の屋台は《べっ甲飴》、鉄板の上で水飴をいろんな形に描いて固める。

 細い棒の柄を付けて出来上がりだ。甘い飴に皆の注目が集まる。



 そして夕暮れ時、広場の中央のやぐらと周囲には提灯が明々と灯され、孤児院合唱団の歌と太鼓が始まる。


 『そよぐ、そよ風、牧場に街に〜


 吹けば、ちらちら灯がともる、赤くほんのり 


 灯がともる、ほら灯がともる〜


 シャンコ、シャンコ、シャンコ、シャシャンがシャン


 手拍子そろえて、シャシャンがシャン〜』

  


 俺と年長組が踊ると見よう見まねで、皆んなが踊りの輪に加わる。

 次第に大勢の輪となり、人々に夏の夜のひとときの、くつろぎを与える。

 そして、夏祭りは、この年から毎年行われることとなった。

 ただ、祭りの名前が『みなしご孤児院祭』となったのは、あまりに俺がやり過ぎたためだろうか。


 でも、めげずに、来年からは、浴衣と半被を普及しようと決意する俺なのだ。




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【 ウインランド王城 】


 ここはハーベスト子爵領ほか、54の貴族領を束ねる《ウインランド王国》の王城である。

 その広間の一室ではハーベスト領から戻ったランドル宰相が居並ぶ大臣達を前でアレク王に報告を行っていた。


「陛下、当初のハーベスト子爵からの知らせのとおり、マルカス伯爵はハーベスト子爵を金鉱横領の罪に陥れるつもりでありました。

 さらには、その際に抵抗したのでやむをなく討ち取ったとの報告書を作っておりました。」


「やはり、マルカスがハーベスト領の乗っ取りを企んでいたのは、誠であったか。」


 アレク王はそう言って、深い溜息を吐いた。


「マルカス伯爵は帳簿の精査、金鉱の実地調査も行わず、着いたその日に子爵を捕縛しようとしたようです。

 ところが、子爵代行のコウジ殿に反論され、強引に押切ろうとして、逆に謀反を暴かれ捕縛されたようです。」


「金鉱の査察は、ほとんど形式的なものでありマルカスがハーベスト領の発展を見たいというので任せたが、余が浅はかであった。」


「コウジ代行には会うこと叶いませんでした。

 この度の王城の不始末、禍根を持たれたようにございます。

 しかしながら、ハーベスト子爵にはこれまでどおり、国の一員として協力を惜しまないと、謝罪に対する返答を貰っております。」


「そうか、なんとか最悪の結果は、避けられたようだな。」


 その会話に、口をはさむ者がいた。財務大臣のベッカム公爵である。


「陛下、おそれながら申し上げます。

 いくらマルカス伯爵が、無謀なことをしたからと言って、国から独立するなどとの発言は、驕りたかぶっております。

 このまま捨て置くことは、王城の権威に疵が付くかと存じます。」


「ほお、そちはいかがせよと申すか?」


「ハーベスト子爵領の金鉱を取り上げ、王城の直轄領とすべきかと。」


「ふむ、そちは王家を犯罪人にし、そちの命も捨てると申すか?」


「それはどういう意味でございましょうか?」


「よいか、今回のマルカスがしでかした子爵領の乗っ取りに対し、それが王城の指図ならば、独立も辞さないと言っているのだぞ。

 それなのに、金鉱を取り上げてどうする。

 最初から、王家の企みとなるではないか。

 それにな、それならば戦争を仕掛けよと言うているのだぞ。

 なにも備えなくそんなことを言うと思うか。 

 否、ハーベストの使者が見せたほんの少量の酒の凄まじい火炎を見たであろ。

 あれは、戦争となれば容赦せず、王城を火の海にするぞとの脅しだ。


 ハーベストの姫を拐おうとしたブログリューは、一瞬で舘を吹き飛ばされて命を失ったが、そのようなことが、我が軍勢にも、そちのにも降り掛かるとは思わぬのか?

 そちが今この場で言うたこと。いずれコウジ代行の耳に入るであろうな。

 かの者は理不尽や私利私欲を、決して許さぬぞ。 

 ベッカムよ、そちはこの場で財務大臣の任を解く。そうしなければ、そちの巻き沿いで余の命も危うくなるからな。


 皆に言うておく。人の処罰を申す時は、命を賭して申せっ。自分に責がないと思うなっ。」


 そして、王の底知れぬ怒りに触れた財務大臣を見て、その場の者達は凍りついたような静けさに包まれたのだった。




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 俺の異世界3年目は、農業の改良普及に取り組んだ。ハーベスト領だけでなく、近隣の所領にも三圃式農業を導入した。

 おかげで天候にも恵まれたが、実りの秋には麦も野菜類も大豊作となった。


 ところが、隣国のドロシア帝国では干ばつに襲われ飢饉が生じたため、秋になって収穫を始めようという時期に戦争を仕掛けてきた。

 王国は、貴族達の足並みが揃わず、各個撃破されて、帝国軍が次第にハーベスト領に迫ってきた。


 ハーベスト子爵領の北隣、グラント男爵領の最北の村ナーキス村では、領民達が慌ただしく避難を始めていた。


 父を戦場に駆り出され、前年に母を亡くした少女ラナは、四人の幼い弟や妹を引き連れて、ハーベスト領の叔母を頼って村を出た。

 しかし、幼い子供ばかりであり、その歩みは遅く、次第に避難民の集団から遅れ、ついには彼女らだけとなってしまった。


 それでも、一番したの妹を抱き、二番目に幼い弟の手を引きながら、必死に歩いた。

 あと少しでハーベスト領というところまで、たどり着いたとき、ついに迫ってきた帝国軍に追いつかれてしまった。


 もうだめだわ、逃げきれない。それでも弟妹を守るために足元の石を拾うと、両手に持ち、剣を振りかざして襲ってくる兵士の顔目掛けて必死に投げつけた。

 一人目の兵士は、こぶし大の石を額に受け、もんどりうって離れたが、二人目の兵士がすぐに襲い掛かって来る。

 その時、弟が投げつけた石に気を取られた隙に、兵士の顔に再びぶつける。

 だけど、きりがない。弟妹を守りきれない。


 そう思った時だった。突然の轟音が鳴り響き帝国の兵士達がバタバタと倒れる。

 そして、私達は駆け寄ってきた味方の兵士達に抱えられて、戦場の後方へと運ばれた。

 良かった、私達は助かった。涙が溢れた。


 そして安全な場所に着くと声を掛けられた。


「よくがんばったね、きみの最後まで諦めない勇気が、弟や妹さんを守ったんだよ。」


 私は、やっと緊張が解けて、わんわん泣いてしまった。

 弟や妹が無事で、ほんとうによかった。







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