第11話 ハーベスト領の仰天復興施策

 カルロ商会には薬品や包帯、消毒用の焼酎を頼んだ他に、もう一つ依頼したものがあった。 

 その数は多く、遠方からの仕入れとなるためようやく第一陣が届いたのは、地震から二週間経った日のことだった。


 ブルータスとハバナの街には20張り。その他の村々には5張りずつ。第一陣で届いた100張りを配分した。

 各街や村に分配したのはゲルだ。北方の遊牧民族が住居とするテントで、一張りに20人は居住できるすぐれものだ。 

 この後も10日ごとに第三陣まで届く手配になっている。


 これまで、幸いなことに雨が少なかったが、地震で家々を失い、皆、雨露を凌ぐ手段を失っているのだ。

 パネル工法の住居を急ピッチで建設しているが、皆に行き渡るには半年以上かかる。


 俺がテントみたいなものがないかとカルロに相談に行ったところ、商会の一人が西方へ旅したことがあり、ゲルのことを知っていたのだ。

 俺は、すぐさまその男に詳細を聞き、十分な資金を持たせて5人を馬で送り出した。

 男達は、自分達の双肩に皆の命運が架かっていると知ると、奮い立って出かけて行った。


 ゲルが届くと、すぐさまハーベスト家の者達を集め、ゲルの組み立て方の講習を行い、ゲルの資材と共に、街と村々に送り出した。

 こうして、ハーベスト領の街や村々にはゲルのテント村が出現した。


 余談であるが、レイネがどうしてもゲルの体験をしてみたいと言い張り、仕方なく俺が付き添ったのだが、寝ている時に寝ぼけたレイネに抱きつかれ、大変な目にあったのはハーベスト子爵夫妻には、絶対の秘密だ。

 もしばれて、責任を取れ。などと言われたらどうしよう。




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 当面の皆の暮らしをゲルで凌いで、パネル工法の家ができるのを待つ。

 ただ、その費用を捻出しなきゃならない。

 ゲルを購入した費用は、カルロ商会に酒のレシピを教えて売上の一割を貰っていた分で賄ったが、パネル工法で家を建てるとなるとそんなものじゃ済まない。


 子爵家にも、そんな資金力がある訳もなく、もちろん領民に払えるわけもない。

 俺は、温めていたプロジェクトを発動させることにした。

 ブルータスの街を流れるキスカ川の上流で、川が大きく曲がった場所に目をつけ、ボッシュを連れ、川底の砂金の調査を行った。

 すると、やはり見込みどおり、砂金が見つかった。

 となると、川の上流のどこかに金鉱がある。


 その日から、ボッシュと二人、川をさかのぼり、1キロごとに砂金の採取を行った。

 そして川を40kmも逆上った川底で、砂金が採れないのを確認すると、周辺の地形を入念に調べ、そしてついに金鉱を発見した。

 この間、約二ヶ月。俺達の苦労は報われた。

 山を下るとハーベスト子爵邸に向かい、このことを伝え、鉱夫を手配して発掘を開始することとした。


 金鉱発見のニュースは、瞬く間に領民に伝わり、それがバネル工法の家の建築費用になると知ると誰もがその発見を喜び、苦労して発見にこぎつけた俺達を讃え、金鉱をボッシュコウジ金山と名付けられた。

 多大な協力をしてくれたボッシュには、カルロ商会の最高級酒をプレゼントしたが、この酒の為なら、もう一度、金山を見つけてやると、言われ呆れてしまったのは余談だ。


 こうして、俺のプロジェクトは成功したが、『2ヶ月も会いに来てくれないなんてっ。』と拗ねたレイネに長々とお説教を賜り『この責任を取ってくださいね。』とデートの約束をさせられたのは全く不可解だった。




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 金鉱という莫大な資金をハーベスト領に調達できた俺は、その資金を使って街づくりを進める提案をし、ハーベスト子爵の快諾を得た。


 キスカ川の少し上流に、小さなダム湖を築き農業用水と上水道の整備を行った。

 各所の農地に用水路を通し、飲料水用の水路と排水用の水路を、セメントのU字溝で作り、街中に配管した。

 各家の台所には小型量産型の手押しポンプを設置して水道を完備し、排水でトイレを水洗とした。


 道路交通の整備も行い、主要道路はセメントで舗装し、乗合馬車を運行した。

 運行時間は案外適当なのだが、利用客が多いので、ひっきりなしの運行となっている。


 この膨大な公共事業で、ハーベスト領は空前の好景気に沸いた。

 仕事を求めて、他領からも大勢の人々が流れ込んで人口の増加も著しい。



 次に着手したのは、公共施設の建築である。

 学校と病院、教会に公民館。各建物の隣には憩いの場にもなる庭園を設けて公園とした。

 公園には今回のような災害時に、避難場所として役立つように、食糧や資材を備蓄する倉庫を併設した。


 ちなみに、医師は他領から誘致したが、好条件に多数の応募者があったし、看護士は領民から公募して育成することとした。


 思わぬ余録もあった。教会は従前からこの街にもあったが、人口の増加と共に司教やシスターが増やされ、ナターシャの孤児院にも二人のシスターが増員配置され、ナターシャがこの街の教会の評議員に選ばれたのだ。


 ナターシャ孤児院は、ナターシャが個人で孤児達を養うために作ったもので、領主からの補助は受けているが、教会の孤児院ではないので教会からの援助は全く受けていない。

 だが、ナターシャは教会のシスターであることに変わりなく、若いながら敬虔なシスターとして認められたのだ。


 ナターシャさんは、大地震の際に救護施設の医師として大活躍したし、領民の信頼と人気も絶大であることから、教会の評議員に選ばれたそうだ。

『聖シスターナターシャ。』と呼ばれるようになり、俺もそう呼ぶと顔を真っ赤にして、


「コウジさんは、ただのナターシャと呼んでください。でないと孤児院に出入り禁止です。」


 と怒られてしまった。何が気に入らないのだろうか。そう言えば、ナターシャさんの年齢はまだ、22才だとか。

 落ち着いているから、もっと年上かと思っていたと言うと、さらに猛然とおこられた。


 レイネといい、訳がわからないまま怒られることが、このごろ増えたような気がする。




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 ハーベスト領の復興に取り掛かってからというもの、俺とロッドの二人は、孤児院の住人と化している。

 みなしごパン工房は、菓子パンのメニューを増やし、大人気を博している。


 年長組の皆は、自分達が孤児院の経営に貢献していることが、何より嬉しいのだろう。

 皆活き活きと、工房の仕事に従事している。


 年少組は、俺が拾って来た山猫の赤ん坊に、

《ミク》という名前を付け、かいがいしく世話をやいている。

 自分達と同じ孤児の身の上に、思うところがあるのだろうか。

 その可愛がり方は尋常じゃない。野生動物を過保護にしても良いのだろうか、まあミクは、この孤児院で生涯を終えるような気がするが。


 ミクのベッドは、年少組の男の子達が作った。端材を使い、格好はよくないが、なかなかのできだ。

 女の子達は、小麦のもみ殻を布で包んで、布団を作った。特上のふかふかに仕上げている。

 いつの間にか、年少組も俺の影響なのか、創意工夫することを覚えている。


 ミクは孤児達の愛情を受け、すくすくと育っている。

 連れてきた当初は、目が見えていなかったようだが、最初に見えた景色が、ミクを心配そうに取り囲む皆であり、そんな皆がミクの育ての親なのは、みなし子のミクにとって幸せなことではないだろうか。


 

 一方で俺が日中留守にする間の孤児院を守るのは、僕だとばかりなんか力んでいるロッド。

 毎日、裏の畑の外れにある森に出かけ、倒木を切って、カマドの燃料となる薪を集めたり、上水道が整備されるまでは井戸の水汲みを一人でこなしていた。 

 その合間に、年少組の遊び相手もしている。

 おかげで、ナターシャからは孤児達の兄貴分としての信頼も厚く、まるで弟のように可愛いがられている。


 それはいいが、俺を兄ちゃんと呼び、ナターシャを姉ちゃんと呼ぶので、知らない人から見たら、俺とナターシャが姉弟、もしくは、夫婦みたいに見えるから止めてほしい。



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