第3話 映画ランボー、復讐するは我にあり。
ブルータスの街を出てから、早七日。ブログリュー公爵領の北の街のオークスに着いた。
ブログリュー公爵の領都は、南の街のアディなので、まだ先は長い。
「コウジ兄ちゃん、なんとなく静かな街ね。」
シェリーが話し掛けて来たが、彼女が感じたとおり、街に活気がない。
そんな騒がしくない人通りの中を商隊が進んでいると、露店のある広場の方から大声が響いて、少年が追いかけられて来た。
「こらぁ、待ちやがれ小僧っ、許さんぞう。」
突然に横の通りから少年が飛び出し、それを追って、騎士らしき数人が追いかけて現れた。
何事かと見ていると、少年を取り囲んで斬りつけようとするので、咄嗟に小石を拾い斬りかかろうとする騎士に投げ付けた。
石をぶつけられた騎士は、こちらを睨みつけ声を上げた。
「我らをテンプル騎士団と知っての狼藉か?」
「ほうっ、騎士を名乗る奴が、武器も持たない子供を斬りつけるなど聞いたことがないぞ。
大方、お前らは、騎士の格好をした狼藉者に違いない。」
「なにぃ」声を上げて斬りかかって来るので、
「相手を確かめもせず、斬りかかって来るなど生き恥を晒すぞっ。」
そう答え、居合い斬りで腕の筋を斬った。
続く二人も同じ目に。呻き声を上げる三人を尻目に、少年に声を掛ける。
「坊や、こいつらと何かあったのか?」
「おいらはロッド。親も兄弟もいなくて一人で商売をしてやっと暮らしてるのに、こいつら、俺の露店から大切な品物を取りやがって、金も払わないから、物をぶつけてやったんだ。
そしたら、追いかけられたんだっ。」
そこへ騎士の仲間達が駆け着けてきた。
「何事だ、これはお前の仕業かっ。」
「そうだ、大の大人が子どもに剣を振りかざしているので止めたら、いきなり斬り掛かってきたので、返り討ちにした。」
「我らをテンプル騎士団と知っての狼藉か。」
「ほう、テンプル騎士団というのか、狼藉者の集団は。
年端も行かぬ少年から泥棒を働き、逆上して少年を殺めようとする賊徒なら、俺が生かしては置かぬぞ。」
「我らは、この街に100人おる。たった一人で勝ち目はないぞっ。」
「どうかな、100人倒せば良いのだな。」
そうして、斬りかかっ来る奴らを片っ端しから斬り捨て、40人以上を倒して逃げる奴らを追ってテンプル騎士団の本拠に乗込んだ。
本拠にいた残りの奴らも次々血祭りにあげ、この街のテンプル騎士団全員を斬り捨ててる。
俺が振るう日本刀の剣術の前に、1時間程で誰も無事な奴はいなくなった。
この世界の重い両手剣など、剣さばきが遅くて相手にならないのだ。
そうして元の場所に戻ると、青ざめた民達と商隊の者達が立ち尽くしていた。
俺は、声を上げた。
「これは、俺とブログリュー公爵との戦いだ。心配しなくていい。公爵の横暴は俺が潰す。
街の皆には悪いが、テンプル騎士団の死骸の後始末を頼む。では、俺は行くよ。」
「待っておいらも行く。公爵は両親や弟と妹の仇なんだ。あいつを絶対に許さないっ。」
「事情はわからんが、ついてきたければそうするがいい。」
「コウジ兄ちゃん、死なないでねっ。」
「生きて帰ってきてねっ。」
俺は、ロッドを連れて、シェリーやニコロの声を背に街を後にした。
アディの街に向う道々、ロッドのこれまでのことを聞いた。
ロッドの両親は、手広く商売していた商人でロッドの下には3つ下の弟と、さらに2つ下の妹がいたそうである。
二年前、父親が苦労して海水から塩を作り、岩塩の半額以下で売り出したところ、公爵が咎めて、販売を禁止したそうだ。
それでも父親は、貧しい人達にも塩が買えるよう販売を止めなかったらしい。
その結果ある夜、突然に賊に襲われて、両親と幼い妹や弟まで殺されてしまったとのとだ。
賊は公爵の手先に違いない。酷い話だ、自分達の利益のために罪もない人を殺めるなんて。
これで決まったな、ブログリュー公爵には、脅しだけでは足りない。この世界から退場していただこう。
アディの街に着くと、俺は大量の瓶と油と小麦粉、それにぼろ布を買い込んだ。
それから俺とロッドの武器として、弓を改造して2丁のボウガンを作った。
作り方はスマホのネットで調べ、角材を加工して、テコの引手と弓を取付けただけだ。
テコの原理で非力なロッドにも十分扱える。
弓は二重構造とし、一度に2本の矢を撃てるようにした。
準備が整ったある夜、俺とロッドはブログリュー公爵邸に忍び込んだ。
見張りは外からの侵入者を警戒し、二人一組で巡回している。
見張りから見えない各所に、油とヤギの腸に詰まった小麦粉の粉袋を内蔵する瓶を置いて、瓶を包んだ油をたっぷり含んだ布袋に火を付ける。すばやく邸内の20カ所を回り一旦脱出して待機する。
まもなく密封されて過熱した瓶が、熱で膨張し腸詰めされた小麦粉を吹き飛ばし、小麦粉を一面に撒き散らす。
その小麦粉に一瞬で引火して爆発が起る。
それは10m四方を吹き飛ばし、次々と舘を火の海にして行った。
燃え広がる炎の中を逃げ惑う人で舘は大混乱に陥り、その中をブログリュー公爵が逃げ出して来る。
「ロッド、ようく狙えっ。公爵一家は生かしておくなっ。」
「はいっ、絶対に生かしてはおきません。」
爆発で混乱する闇夜を突いて、唸りを上げたボウガンの矢が公爵とその一家を襲う。
事前に街で聞いたところによれば、公爵の側室は二人いて、正室も含め5人の子供がいるがいずれも成人しており、しかも傍若無人で評判が最悪だ。だから公爵一家を皆殺しにすることに罪の意識はない。
ロッドがボウガンで、公爵とその一家を襲い俺は手投げの火炎瓶で逃げ道を塞ぐ。
向かって来る公爵の護衛達を俺は容赦なく、斬り捨てて行った。既に50人以上斬り捨ててもう数人しか残っていない。
襲撃の最中、公爵と目が会ったが、その目は驚愕に見開いていた。
これまで、公爵の横暴に逆らう者など、皆無だったのだろう。
だが俺は違う、この国に何の恩義も未練もない。理不尽、横暴を振るう貴族などゴミとしか理解できない。
ましてや、俺の横には公爵に家族を殺されたロッドがいる。復讐しない理由などないのた。
こうして、俺達の復讐劇は終わりを告げた。
ブログリュー公爵家の騒動は、王都から査察が入り、オークスの街でのテンプル騎士団の崩壊、ロッドの家族の仇討ち、ハーベスト男爵への横暴などから、俺達の仕業だと判明したが、次々とブログリュー公爵の悪事が判明し、犯人を捕まえるどころの騒ぎではなくなっていた。
ブログリュー公爵とその一家は、混乱の中で命を落とし罪を問える者は残っていなかった。
ただ、公爵家の家令が、すべての公爵の悪事を白状したことで、事件は終結に向った。
ブログリュー公爵家は取り潰しとなり、公爵領は王家直轄領として代官が派遣された。
ハーベスト男爵は、公爵に屈しなかったことが称えられ、子爵に昇爵させるとともに領地の加増を受けた。
事件の幕引きに、誰かを英雄に祭り上げる必要があったのだ。棚からぼた餅である。
一方、俺の噂は尾ひれがついて、庶民を苦しめる為政者は、順に討伐されるんだとか。
ああ、言ってなかったが、俺はロッドを連れて、カルロ達の商隊と旅をしてる。
相変わらず、シェリーとニコロ、アーシャに纏わりつかれながら。
最近は、クッキーがお子様達にブームだ。
蜂蜜を使って酒も作ったから、大人達にまで纏わりつかれて、少々辟易している。
でもまあ、この人達中に隠れて引き籠りしてると思えば、そんなに苦労でもないのだ。
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