第2話 ハーベスト男爵邸と婚姻脅迫事件。
次の日、目が覚めると昨日のことを思い出しさて、これからどうしたものかとぼんやり考えるがなるようになるとしか思えなかった。
レイネ達を助けられたのは、幸運だった。
おかげで宿と食事にありつけている。
「コージ様、起きていらっしゃいますか?」
「はい、今起きたところです。」
「着替えたら、食事の間へお越しください。」
「はい伺います。」慌てて着替えを済ます。
食事をしていると、レイネが俺を街に案内すると言い出したが、昨日襲われたばかりであり皆に止められ、しょげている。
代わりに下男のジョイという少年が案内してくれることになった。
食事を終え、俺はジョイと街へ繰り出した。
街の名前は、ブルータスというそうだ。
人口8千人程の男爵領の領都で、街は東西と南北に大通りが延びていて、大通りには商店が建ち並んでいる。
「ちょっとお兄さんっ、採りたてのココイチはいかがですか、甘いですよ〜。」
果物屋のおかみさんが声を掛けて来た。
「ふーん、いくらだい。二つ貰おうか。」
ジョイと二人でかぶり付く、ほんのり甘くて桃のような果物だ。
どうやら、この世界では、食料事情は悪くないようだ。貧しい人はもちろんいるのだろうが大半は普通の生活を送れているようだ。
通りを進むと武器屋があった。どんな武器があるのか興味に惹かれ、覗いて見た。
槍や弓、両刃の直刀剣に、反りがある片刃の西洋刀のような剣、いろいろ置いてある。
「お客さん、何かお探しでっ。」
店の中年の親父が、声を掛けてきた。
「細身で片刃の剣とかは、置いてないかな。」
「へえ、そんな剣をよくご存知で。
誰も買わないので、奥に仕舞ってあるのが、一振りだけありますがね。」
「それを見せてくれるかな?」
「お持ちしますんで、少々お待ちください。」
見せてもらうと、それは、間違いなく日本刀だった、刃紋が何より美しい。
「これは、いくらだ?」
「へい、売れ残りなので、金貨10枚でお譲りします。」
金貨10枚、日本円で10万円くらいだ。
俺は、男爵から助けたお礼に貰った金貨20枚があるので、買うことにした。
「それじゃ、買うよ」
「へえ、ありがとうございます。せっかくなので、短い剣もお付けします。」
それは日本刀の脇差しだった。俺は日本刀を手に店を後にした。
男爵邸に戻ると、なんだか騒がしい。
聞けば、レイネへの求婚を断わらてたことに腹を立てたブログリュー公爵が、直接乗込んで来たのだとか。
客間からちょうど公爵一行が出て来るところに出くわした。
「公爵家に逆らうとはいい度胸だ。
男爵家ごとき、滅ぼしてくれるぞっ。」
「ほう、国内で戦争でも起こしますか。
如何に公爵家と言えども、王家の処罰を免れませんぞ。」
「なにぃ、目にものを見せてくれるぞっ。」
俺は、その男のあまりの傍若無人に、思わず声を上げてしまう。
「ならば生かして帰す訳には参りませんね。
公爵にはここでお亡くなりになって、いただきましょうか。」
「なんだと、そんなことをして、ただで済むと思うか。」
「ほう、公爵様ともなれば、命が二つございますのか。」
公爵の護衛達が駆け寄るより早く、俺は公爵の首すじに刀を当てた。
「動くな、動けば公爵の命はないぞ。」
「どうするというのじゃ、こんなことをして、ただでは済まんぞ。」
「俺は昨日、たまたまこの国に来たばかりなのだ。男爵家ともこの国とも縁もゆかりもない。
公爵、あなたを殺してこの国を出て行くだけ分かりますか?」
「お前も、生かしてはおかんぞっ。」
護衛の一人が声を上げる。
「護衛が公爵を殺されて、無事に生きていられるのですかね。」
護衛達が怯むのが分かる。
「どうすれば、いいのじゃ?」
「公爵が男爵家を脅し、無理矢理に令嬢を嫁にしようとしたこと。今後一切、手出しをしないとの誓約書を書いていただきましょう。
その誓約書は二通、一通は王家に渡します。
また、誓約を破ったときは、ご長男共々命は短いものと心得ください。
これは、ただの脅しではありませんよ。その証拠を近いうち、公爵様の身近に起こして見せましょう。」
公爵は誓約書をしたためると俺に渡した。
俺は公爵の首すじに刀を当てたまま、門まで送り出した。
さあて、どうせ大人しくする訳がないな。
ちゃんと思い知らせることにするか。
「コウジ様、ありがとうございました。でも、大変なご迷惑をお掛けしてしまいましたわ。
これからどうなさるつもりですか?」
「俺は明日ここを出ます。公爵領に寄った後、他国に旅に出ます。公爵には思い知らせるつもりですからご心配なく。」
「えっ、そんなっ、コウジ様ばかりに厄介事を負わせてしまいますわ。」
レイネが心配顔で言うが俺は笑って答える。
「心配ない、短い間だったがお世話になった。ありがとう。」
翌朝、俺は男爵家の皆に見送られ旅立った。男爵からはレイネを助けたお礼も含め、金貨を100枚も貰った。旅費には十分過ぎるだろう。
街道をのんびり歩いていると、後ろから20人ばかりの商人らしき一行に追いつかれた。
「もし旅のお方、どちらまで行かれるので?」
「別に決まった宛はないが、賑やかな街までかな。」
行先は決まっているが、惚けておく。
「手前どもは商人でございますが、街々を寄りながら、ブログリュー公爵領まで参ります。
もしよろしければ、護衛を兼ねてご一緒していただけないでしょうか?
ちょうど護衛達が前の街で、引き返すことになり、誰も居なくなって難儀しております。」
目的地としては申し分ないな。
見渡すと男が8人女子供が13人いる。確かに物騒なようだ。
「いいだろう、どうせ急ぐ旅でもないし、お前達さえ良ければ一緒に行こう。」
「それは助かります、食事はこちらで用意致しますので。」
商人の名前は、カルロと言い、年は30歳くらい、主に布地を扱っているそうだ。
俺は、カルロと共に一行の先頭を歩きながらブログリュー公爵をどう脅すか考えていた。
鉄砲、火薬、そんなものは手に入らないし、作る材料もない。火炎瓶くらいなら作れるが、近づかなきゃ使えない。
奴らに気付かれずに脅しを掛ける、何か方法はないだろうかと。
そんなことを考えながら、歩いていると、10人ばかりの男達が飛び出して来た。
野盗だろう、問答無用で斬りかかって来るので、先頭の男を居合いで斬り捨てる。
野盗達は、大振りで隙きだらけだ。俺は容赦なく、小手と抜き胴を浴びせた。
あっと言う間に5人を斬り捨てると、残った奴らは逃げ腰になる。
構わず、なおも3人を切り捨てると、残った二人は武器を捨てて降伏した。
カルロが驚愕の表情で、声を掛けてきた。
「コウジ様、なんとお強い、たったお一人で10人もの賊を倒してしまれるとはっ。」
「そうか、奴らが弱かったんじゃないかな。」
後ろで一行も固まっている。皆を護れたのだから、いいじゃないか。
「カルロ、その二人を縛り上げてくれ。面倒だが近くの街まで馬車の荷物だ。
死体は、道の脇に埋めよう。」
「はい、わかりました。盗賊の討伐の証拠に死体の右耳を持ち帰ります。褒賞金が出ます。」
商隊の皆は『すげぇ、すげぇ』と大騒ぎだ。
こうして俺達は、次の街へと着いた。
次の街ハバナに着くと、カルロが守備隊に、盗賊二人と討伐した者の右耳を引き渡し、少し騒ぎになったが、褒賞金を受け取った。
金貨20枚結構な実入りだ。俺に全部渡そうとするカルロに、商隊の取り分として、半分の金貨を渡し、旅費の足しとさせた。
カルロは恐縮して固辞していたが、俺が護衛を辞めてもいいのかと笑いながら話すと、仕方なく聞き入れた。
商隊には、赤子を除き3人の子供がいる。
12才のシェリーは、活発な赤毛の髪の女の子だ。10才の弟、ニコロは大人しめの黒髪の男の子。6才のアーシャは、恥ずかしがりやの金髪の女の子だ。
俺がパンが硬いので、ホットケーキを焼くと食い物に釣られて懐いてきた。
この世界、砂糖は希少品だが蜂蜜はある。
俺の側にいると、美味しい物に有りつけると味をしめた3人は、何かと俺に纏わりついてくる。今日も今日とて、焼きそばを作っている。
小麦粉と蕎麦粉を混ぜ水を加えても揉む。
十分揉み込んだら、手作りののし棒で広げ、薄く折りたたんで麺に切る。
適当な包丁がないので俺の脇差しで代用だ。
この世界には、他武士の魂で蕎麦を切るとは何事だと言う御仁も、居られないので安心だ。
ソースはないので、塩と胡椒の味付けだが、キャベツ似の野菜も肉の小間切れも入れたのでなんとか焼き蕎麦になった。
紅生姜がないのは洒落でなくしょうがない。
たくさん作ったので、商隊の皆にも食べてもらった。
俺が料理をするので皆驚いているが子供達は今更だ。笑顔でパクついている。
焼きそばを作っていて、思いついたのだが、この世界にも小麦粉と油はある。
ちょっと工夫はいるが小麦の粉末を使えば、粉塵爆発が起こせる。
これで公爵の屋敷を吹き飛ばしてやろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます