第6話

「……ハーレムの夢がかなったなぁ、姉ちゃん」


 ふと弟が、しみじみとした口調で、そう言った。おい、何を言い出すのだ弟よ。


「あら、面白おもしろそうね。何の話かしら」


 花子さんが尋ねてくる。仕方ないので、私は中二病ちゅうにびょう時代のポエムめいた願望を告白させられる事となった。怒られないだろうか、結婚をキャンセルされないだろうか。不安である。


「ああ、そう……『意地悪な親戚も居なくて、お金の心配も無い。美人なお姉さん達が優しくしてくれる場所』……それがのぞみだったのねぇ……」


 聞き終わった花子さんが、メガネをくもらせて泣き出す。あわてて私がハンカチを差し出す。一緒いっしょに泣きたくなるからこまっちゃうなぁ、もう。私は弟の前では泣きたくないのに。


「……私は三人姉妹で、一番下の妹も、この部屋にしてくるから。貴女あなたも弟さんも、皆で仲良なかよく暮らしましょう。弟さんは多分たぶん、年上の女性が好きだろうから、きっと楽しいと思うわ」


 泣き終わって少し落ち着いた花子さんが、そんな事を言う。何故か弟が顔を赤くして、そっぽを向いた。え? どうして弟のこのみが分かるの? 私はさっぱり分かってないのに。


 戸惑とまどっていると、不意に花子さんが私の体の向きを変える。肩から動かされて、正面から私は抱きしめられる。花子さんは、私の後ろに居る弟へと、その体勢たいせいのままで話しかけた。


「ねぇ、弟さん。私は、貴方あなたの気持ちは分かってるつもりよ。だけど貴方のお姉さんは、私と結婚するの。だから誰にもゆずるつもりは無いわ」


「は、花子さん?」


 捕食ほしょくされる生物のように抵抗ていこうな状態の私である。柔らかい胸が当たって気持ちいい。花子さんの声音こわねは、弟をからかっているようにも、挑発しているようにも、牽制けんせいしているようにも聞こえた。言葉の意味は全く分からないのだが。


「……俺は、姉ちゃんが幸せなら、それでいいです。それだけですよ」


「そう、安心したわ。じゃあ今後とも、よろしくね。ほら、そんな顔しないで。笑って笑って」


 私を抱きしめたまま花子さんが笑う。花子さんは私の肩にあごせていて、私からは二人の顔が見えない。良く分からないが私を置いて話を進めるのは止めてほしい。


 ようやく私は花子さんから解放された。ハグしてくるなら二人きりの時が良いのになぁ。そして私を思いっきり、いつもどおりあまやかしてほしい。


「まあ私も、『ゆずるつもりは無い』なんて言ったけど。そんな狭量きょうりょうな事ではダメかもね、今はシェアリングの時代だもの。最近はかく共有きょうゆうなんてワードも出てるし」


「シェアって何の話ですか、花子さん。私、誰かに共有されるの?」


たとえばの話よ。まだ同性婚の法整備は進んでないんだし。なら、私達の関係も、もっと自由で良いんじゃないかしら。私の妹達とも仲良くしてほしいわね。ハーレム生活って、そういうものじゃない?」


 そ、そうなのだろうか? 私はハーレムの実態じったいを知らないから良く分からない。


「弟さんも、どうやら年上の女性がこのみのようだし。私の妹の、どっちかと結婚してくれればうれしいわね。そうしたら貴女あなたも弟さんも、長く一緒に居られるんじゃないかしら」


「そうなんですか? 私も花子さんも、そして弟も一緒に居られるの? 素敵すてき……」


 頭が良くない私は、何が正しいのかも分からない。もう私の視界は涙でにじんでしまって、弟の顔なんか直視ちょくしできない。あーあ、弟の前では、強い姉で居たかったのになぁ。


 弱くなってしまった私は、きっと花子さんにも弟にも、そして花子さんの妹達にも色々とたよってしまうだろう。それを許されて、愛されてしまうのだろう。こんなに幸せで良いのだろうかと思ってしまう。私に出来できるのは、ただ愛を返し続けて生きていく事だけだ。


「姉ちゃんが幸せなら、俺も幸せです。じゃけぇだから、これからもよろしくお願いします花子さん」


「えぇ、こちらこそよろしくね。弟さん」


 二人が挨拶あいさつわす。私は涙で二人の顔が見えない。何だか弟は、私の父親になったような態度に思える。「娘をよろしくお願いします」というような。


 会話にぜてほしくて、私は急いで涙をく。何故かにらみ合うような雰囲気ふんいきだった花子さんと弟が、ふっと姿勢しせいゆるめて私に笑いかけてくれる。その様子は、無垢むくな子供だった私に笑いかけてくれた両親の記憶とかさなって見えた。

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じゃけぇ 転生新語 @tenseishingo

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