エピローグ

第44話 一人で背負う必要はないんだぜ!


 ――〈カグヤ視点〉――



「いいのね?」


 私の問いに――ああ――と『ラプンツェル』は短く答えた。

 山のように大きな『ベヒーモス』。


 けれど、これは『ラプンツェル』の両親だという。

 元々は別々の人間が一つに融合してしまったらしい。


 子供を守るという一点において、自らの命を使い果たしたようだ。

 不謹慎かも知れないが、私はそれをうらやましいと思ってしまった。


「このまま放置しても、命が尽きるからね……」


 と『ラプンツェル』。流石さすがにこの巨体では、彼女の【魔術】でも小さくするのは難しいようだ。困った事に、ここは【魔王監獄プリズン】でもある。


 肉が腐り、樹海になるのが自然の摂理だけれど、【魔術師】達の住む場所がなくなってしまう。


 また【魔境】に住む連中が『ベヒーモス』を見て、黙って見逃してくれるとは思えない。


 どうやら、私にはこういう役割が回ってくる運命のようだ。

 他の【七姫セブンス】達に背負わせる訳には行かない。


「すまない……」


 と『ラプンツェル』は謝る。

 私が自分の両親を手に掛けた事を知っているため、そう思うのだろう。


「いいのよ――出来るだけ……」


 苦しまないようにするわ――私がそう告げると、


「待てよ」


 と『赤ずきん』ちゃん。ポンと私の肩を叩く。


「一人で背負う必要はないんだぜ!」


 そう言って、彼女は――ニカッ――と笑った。

 見た目は愛らしい少女の姿だけれど、今はそれが頼もしく見える。


 レイの周りには、こういう人達が集まるようだ。

 自分が傷付く事をいとわない。


 彼女は自分の【魔術】が『強化』だと教えてくれた。

 私と『赤ずきん』ちゃんの【魔術】が合わされば、問題なく殺せるだろう。


 ――〈終剣の夜想曲エンドオブペイン〉!


 巨大な『ベヒーモス』をつらぬく、塔のように大きな剣。

 肉塊は【魔素】へと還る。緑色の光が【魔境】全域に飛び散って行く。


「綺麗な【魔術】じゃねぇか……」


 そう言った『赤ずきん』ちゃんは、私の手をずっと握ってくれていた。

 私が強くなれたのは【魔術】の効果だけではない。



 ――〈亡霊視点〉――



「まさか、嫁さんを迎えに行って、世界を救ってくるとはな……」


 アッハッハッハッハ!――と『隊長リーダー』こと『レッド』は笑う。


(笑い事ではないのだが……)


 こちらとしては巻き込んだ手前、言い返す事も出来ない。

 あれから一週間はったというのに、いまだにこのネタを引っ張る。


「勘弁してくれ……」


 と俺は溜息をいた。

 最近は何故なぜか俺をけていた『モモ』も今日は一緒だ。


 きっと、カグヤに会えると思っていたのだろう。

 しかし、当てが外れたようで元気がない。


 俺達は幹部を護衛する任務で【魔王監獄プリズン】へ来ていた。

 とは言っても、中に入れる訳ではなく、塔も完全に修復されていはいない。

 今は敷地内に用意した簡易住居で待機している。


 『キャベツ』は任務中だというのに、


「筋トレをする」


 と言って外に出て行ってしまった。

 『レッド』と『モモ』に――暑苦しいから追い出された――とも言える。


 今回の任務で意外だったのは『レオパルド』だ。

 なんと文句を言わずに働いていた。


 上手く同盟が結ばれれば【魔術】による治療を受けられる事になる。

 妹のために張り切っているのだろう。


 その所為せいで疲れているのか、今は車の中で仮眠を取っていた。

 俺が所属する組織『無害イノセント』は【魔境】と日本政府とをつなぐ架け橋をになっている。


 人材の受入や護衛、日本政府への亡命や物資の受渡などが主な任務だ。

 俺のような特殊な【魔術】があれば、【魔境】から出る事も可能となる。


 当然、それをこころよく思わない人間もいた。

 また、物資の横取りや日本人を誘拐しようとする連中も後を絶たない。


 今までは戦闘能力の高さを買われ、護衛の任務にいていた。

 けれど、今回の事件により、一気に昇進してしまったようだ。


 その原因のひとつがカグヤである事は間違いない。

 外部との接触を積極的に行ってこなかった【魔王監獄プリズン】の【魔術師】達。


 彼女達も今回の事件を切っ掛けに表舞台へと出る事にしたようだ。

 カグヤを筆頭に『賢者の塔ワイズ』という組織を立ち上げた。


 今、『無害イノセント』と『賢者の塔ワイズ』との間で今後の方針について会談が行われている。

 俺達はその警備も兼ねていたのだが【魔術師】だけで十分のようだ。


 余計な問題トラブルけるためにも、今は大人しくしていた。

 一方で【魔術師】達は壊された塔を修復する必要がある。


 カグヤ達は塔に【魔力】を供給しなければならなかった。

 そのため、動く事は出来ない。


 必然的に会談は、ここ【魔王監獄プリズン】で行われる運びとなった。

 また、トップを失った『選民思想インテリジェンス』の今後も決めなくてはならない。


 ミラ本人は生きてはいるが長い間、身体を乗っ取られていた。

 そのため、回復には時間が掛かるようだ。


 残っているのは出来の悪い複製品クローン達だけなので、立て直すのは不可能だろう。

 愚民政策とは恐ろしいモノだ。『選民思想インテリジェンス』は一度、解体するとして――


(残った人材と技術をどうするのかが課題だ……)


 また、ミラが乗っ取られていた時に散撒ばらまかれた兵器についても、詳しく調査する必要がある。ここまでなら、問題は【魔境】内の案件として片付けられただろう。


 厄介な事に【異界】とのゲートを開いてしまったがために【魔境】が広がってしまった。改めて境界線の確認が必要となっている。


 その上で日本政府との会談もひかえていた。【異界】へのゲートが閉じたとはいえ【魔術師】が存在する限り【魔境】はなくならない。


 今後の舵取かじとりを間違えた場合、世界が【魔術師】排斥はいせきの流れに動く可能性だってある。問題は山積みだ。


 やはり『平和を維持する』という事には、多大な労力を要するらしい。


「ぶべらぁーっ!」


 と声を上げ『キャベツ』が突如とつじょとして、窓の外を吹っ飛んで行く。

 敵襲の可能性は低い。


 大方、『オヤユビ』辺りに筋肉マッスル勝負をいどんだのだろう。

 怪力とはいえ、乙女である。


 女の子にそんな勝負をいどめばどうなるのか、簡単に理解できるはずだ。

 そう――〈張り手ドスコイ〉――である。


 『キャベツ』は地面を転がされ、『ロールキャベツ』になってしまった。

 けれど悲しむ事はない。そのまま日光に当てておけば、光合成ふっかつするだろう。

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