第43話 もー、だいじょうぶよ
「こっちは片付いたよ――けれど、もう一仕事あるんだ」
俺は『
お仕事、頑張ってね♡――とカグヤの声が聞こえる。
どうやら、新婚さんごっこをやりたいようだ。
この分だと、花嫁衣装を準備した方がいいかも知れない。
一応――愛してるよ――と返しておく。
問題はカグヤよりも、好戦的な『
彼女をどう
俺は胸を
「助けなくちゃいけない子供がいるんだ――」
と告げてカグヤ達に待機して
取り
その間に『シラユキ』は意識を取り戻したようだ。
(まさか、自分で毒を飲むとは……)
「『イバラ』、あーちゃん――ありがとう……」
と二人にお礼を言う。
「
『シラユキ』が笑うと、
「お兄ちゃんのお陰なの…・・・」
と『イバラ』は答えた。別に俺は特別な事はしていない。
天井が崩れた後――〈
同時に――〈
地上へ脱出する頃には『イバラ』の【魔力暴走】状態は改善していた。
【魔力】を奪うという、簡単な解決方法だ。
後はカグヤに説得して
ただ、その時に
『イバラ』が俺の事を『お兄ちゃん』と呼ぶようになってしまった。
あまり、深く考えないようにしよう。
それよりも、敵の正体に気付いたカグヤ。
『ラプンツェル』も――『イバラ』の【魔術】なら有効である――という事は考えていたのだろう。
ただし『イバラ』を強くするには追い詰める必要がある。
かつ心が折れないように支える人間も必要だ。
カグヤもそれを理解していたのだろう。俺は兄を演じる事にした。
それよりも、決め手となったのは、俺とアイラの存在だ。
倒せない
「『イバラ』……目が見えるの?」
当然の疑問を『シラユキ』が
彼女の目は光を失っていた。それは今もだ。
「お兄ちゃんの目を借りているの♡」
『イバラ』はそう言って首を動かし、俺を見ると嬉しそうに
【魔術】で俺の目を――〈
二つあるのだから、問題ないだろう。
目視が可能であれば【魔術】の対象を
ミラのみに効果があったのは、その
「良かった――王子様とは出会えたんだね……」
今は泣けない『イバラ』の代わりに、泣いたようだ。
「それよりも、助けなくちゃ……」
俺は『ラプンツェル』を抱きかかえる。
アイラにも付いてきて
『シラユキ』の事は『イバラ』に任せておけば大丈夫だろう。
一方で戸惑う『ラプンツェル』。
自分の役目はもう済んだと思っていたようだ。
「お前の【魔術】が必要だ」
今度は俺のために働け――と命令する。
利用された事に対して思う事があっため、強めに言ったのだが――
俺の【魔力】を流す事で、強制的に【魔力】封じを解除させた。
同時に『ベヒーモス』の子供と思われる個体の
親の方の『ベヒーモス』は動かない。よく見ると
皮は
「アイラ、この子を助ければいいのか?」
小さくして運べば問題ない――そう考えていた。
しかし、アイラから爆弾発言が飛び出す。
「ラプちゃんのいもーとよ、ひかりのいろが、いっしょなのよ?」
『イバラ』の【魔術】より、よっぽど強力な気がする。
「待ってくれ……この『ベヒーモス』は――いや、人間なのか?」
戸惑う俺。『ラプンツェル』と目を合わせたが、彼女が答えられる訳もない。
「ラプちゃんのパーパとマーマ、あんしんしているのよ?」
むすめをおねがいって、いってるのよ?――とアイラ。
彼女は小さい方の『ベヒーモス』へと向かう。
そして――もー、だいじょうぶよ――と語りかける。
――整理しよう。
アイラには『ベヒーモス』が人間に見えているようだ。
そして、この小さい個体の『ベヒーモス』は『ラプンツェル』の妹だという。
すると大きい方は『ラプンツェル』の父親と母親だろうか?
二人は【異界】へ放り込まれたと聞いている。
つまり【異界】で変異した。
身体が大きいのは、二つの個体が融合しているからだろうか?
【異界】へと放り込まれる前に、母親の方が子供を
当然、人の姿を保つ事は出来ない。
肉体が変異したのなら、精神を保つのは更に難しい。
また、人間は【異界】で巨大化するらしい。
今まで『ベヒーモス』と呼称されていた個体は【異界】から帰ってきた人間という説が有効になる。
いや、だから秘密にされていたのだろう。
俺と『ラプンツェル』は顔を見合わせた。お互いに考えている事は一緒らしい。
『ベヒーモス』との意思の疎通は、もう出来そうにない。
けれど、彼女は家族と再会できた。
それが例え、望まない形だとしても、願いが
ポロポロと涙を流す『ラプンツェル』。
けれど、余裕はない。
いつまでも、この子を放って置く訳には行かないからだ。
『ラプンツェル』は涙を
今にして思えば、彼女の【魔術】は、この
アイラが小さくなった魔獣を抱きかかえて、連れて来てくれる。
眠っているのだろうか?
『ラプンツェル』は触れようとしたが、擦り抜けてしまう。
今は俺の【魔術】の効果中だ。
残念ながら、感動的な出会いは地上に戻ってからとなってしまった。
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