第40話 まだ、終わって貰うのは困る


「そういう訳には行かない」


 君はカグヤとアイラを助けてくれた――と俺は告げる。


「アタシが……助けた?」


 信じられないという表情で『イバラ』はつぶやく。


ウソじゃないさ……君の歌は勇気をくれる」


 多くの人を助けたはずだ――そんな俺の言葉に、


「だったら、嬉しいな……」


 お兄ちゃんにも歌ってあげれば良かった――と返す。

 まるで最後の言葉のようだ。


 恐らく、兄の存在が彼女を絶望させた原因の根底にあるだろう。


「まだ、終わってもらうのは困る」


 カグヤが悲しむからね――俺は冗談めかして言ってみた。その一方で、


「ちゅーするの? ちゅー?」


 とはアイラだ。なにか勘違いしているらしい。


(いや、しないけど……)


 俺がそう答える前に、アイラは『イバラ』のほほ口付けキスをした。


 ――お前がするのか!


 思わず突っ込みそうになったが、両手がふさがっている。

 また同時に『イバラ』を助ける手立てがある事に気が付く。


 しかし、天井にひびが入った。

 あっという間に亀裂が広がり、天井が崩れる。


 ――どうやら、時間切れのようだ。


 俺達目掛け、天井が落ちて来る。



 ――〈シラユキ視点〉――



 決着の時が来ていた。

 結局、ボクも『ラプンツェル』にだまされていたらしい。


 それでも『悔しい』という気持ちはなかった。


 ――今頃、皆はどう思っているのかな?


 『マーメイド』は甘いので――仕方ないわね――と許してくれるだろう。

 『シンデレラ』は――よくやったね!――と愉快ゆかいに笑いそうだ。


 そして、そんな『シンデレラ』をカグヤは怒るのだろう。

 カグヤと『シンデレラ』――二人みたいな関係を親友というのかも知れない。


 今になって彼女達――『オヤユビ』と『イバラ』――に嫌われる事が怖くなった。

 ボクはあの二人が好きだった。


(本当の姉妹だったら良かったな……)


 そんな事を考える。ああ見えて泣き虫な『オヤユビ』は末っ子だろう。

 『イバラ』は口を利かないけれど、妹っぽい所がある。


(やはり、ボクが長女かな……)


 ――でも姉は断然、カグヤがいい。


 これでは四姉妹だ。

 ボクがえがいた結末は、本体オリジナルと一緒に死ぬこと。


 すでに薬は飲んでいる。

 彼女に身体を乗っ取られた際、覚めない眠りにつけばいい。


 それで本体オリジナルを封じられるはずだ。

 王子様のいないボクにとっては、まさに白雪姫らしい最後と言える。


 後は【異界】に放り込んでおいてもらえば、解決するだろう。


 ――そう思っていた。


 それなのに『ラプンツェル』は別の方法があるみたいな態度を取る。

 まるで王子様を待つ、本当のお姫様のようだ。


 生憎あいにくとボク達を閉じ込めておくべき塔は倒壊した。

 【異界】から現れた『ベヒーモス』によって――


 周囲に粉塵と土煙が舞う。

 この視界の悪さでは、カグヤが助けに来る事はないだろう。


 ボクの本体オリジナルであるミラの【魔術】は強力だ。

 どういう訳か、彼女の前ではあらゆる【魔術】を無効化されてしまう。


 『マーメイド』や『オヤユビ』では相性が悪い。

 『シンデレラ』にいては論外だ。


 それなのに『ラプンツェル』は、なにかを待っているかのように見える。

 御伽噺おとぎばなしのように髪でもらしているのだろうか?


「よくもやってくれたなっ!」


 とはミラ。ボクの本体オリジナルだけれど、きっと中身は別の存在だ。

 すでに取りつくろう気もないらしい。


 自分と同じだとは思えない程、醜悪しゅうあくな顔をしている。


「【異界】へのゲートが開く――望み通りだろ?」


 と『ラプンツェル』。彼女の【魔術】は――物を小さくする――というモノだ。

 武器や毒物を持ち歩くのにはてきしている。


 それでも実体を持たない存在に対しては意味をなさないだろう。

 まさに相手は幽霊のような存在だ。


 こちらの攻撃は一切効かず、向こうからはこちらを攻撃する必要は無い。

 そんな相手と戦う方法など、ある訳がない。


「そういうのを屁理屈って言うんだよっ!」


 ミラは地団駄じたんだを踏み、怒ったが――ぐに冷静な態度に戻った。


「まあ、いいわ」


 と微笑ほほえむ。それがかえって不気味だ。

 近くには『ベヒーモス』も居る。


 あんな巨大な怪物が暴れ出したら【魔境】に住む人々にあらがう手段はない。


「予定では向こうから同族を呼び寄せるつもりだったけれど……」


 この『化け物』が居れば、戦争を起こせる――とミラは楽しそうに笑った。

 しかし、それに対抗するように『ラプンツェル』も笑う。


「残念だけれど、こちらには『カグヤ』がいる」


 そう言った後、『ラプンツェル』はボクを見て、


「キミのお姉さんは強いよ」


 と微笑ほほえんだ。まるでカグヤが圧勝する事を確信しているかのような言い方だ。


「確かに【七姫セブンス】全員で戦えば――」「カグヤ一人で十分だ」


 ミラの言葉をさえぎるように『ラプンツェル』。

 流石にカグヤ一人では無理だろう。


 ボクは『ラプンツェル』を見たけれど、本気の表情だ。


「キミのお姉さんは強い――最強だよ」


 楽しそうに笑う。

 彼女の言っていた『楽しい事』とは、この事だったのだろうか?


 嫌いな相手に対して、絶対的有利な発言をする。

 確かに、これは『楽しい事』だ。


 カグヤが勝つ――ボク達【七姫セブンス】にとって、こんなに『楽しい事』はない。

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