第39話 分かった、任せておけ


 語り終えると彼女は『オヤユビ』と『マーメイド』に、塔の【魔術師】達を避難させるように頼む。そして、俺には――


「『イバラ』を助けてやってくれないか?」


 と告げた。俺の『魔操具デバイス』に経路を送信する。

 準備のいい事だ。


「出来る事なら、眠り姫の眠りを覚ましてあげてくれ……」


 そう言い残し、彼女は『シラユキ』と共に姿を消した。

 人から【魔力】を奪うだけ奪って、本当に面倒な事を頼んでくれる。


 仕方なく、俺は『シンデレラ』の事をウサミに頼む。

 面倒見のいい彼女の事だ。手の掛かる『シンデレラ』とは相性がいいだろう。


 俺は『魔操具デバイス』にしたがい、塔の中を走っていた。


「パーパ、おはようなのよ」


 そう言って――うーん――と身体を伸ばすアイラ。

 どうやら、お昼寝が終わったようだ。


 パッと明りがくように現れた。

 そうかと思うと、走っている俺と並走するように空中を浮遊している。


 器用なモノだ。その辺はカグヤに似たのだろう。

 『イバラ』という少女の歌のお陰で【魔力】の回復が早いのは助かった。


 けれど、元々の俺の【魔力】は少ない。

 そのため、脱出用に残しておく必要がある。


「『イバラ』のもとへ行く――知っているか?」


 俺の問いに対し、


「バラちゃん! おうた、おじょーずよ」


 とアイラ。両手を握って――らららぁ~♪――と歌う仕草をする。

 やはり、面識があるらしい。


 アイラが一緒なら説得できるだろう。けれど、時間はないようだ。

 強力な【魔力】の存在を感じたかと思うと、次の瞬間には大きな揺れが発生する。


 『オヤユビ』との戦闘の時とは違う。

 塔全体を包み込むような衝撃だ。


「やぁー」


 とアイラ。俺に抱き付いてくる。

 怖いのかと思ったが、


「パーパ、たすけて……ないてるこがいるのよ」


 そう言ってすがるような目で俺を見詰めてくる。

 アイラはなにかを感じ取ったようだ。


 【異界】とのき来が可能な彼女だからこそ、分かるモノなのかも知れない。


「分かった、任せておけ」


 俺はそう告げて、アイラを抱き締めると頭をでた。


「パーパ、おねがいよ」


 とアイラ。俺は――ああ――と答えるも、


「でも、そのためには仲間が必要だ」


 と告げる。


「うりゅ?」


 首をかしげるアイラに、


ずは『イバラ』を助ける。アイラ、手伝ってくれるか?」


 俺は問い掛けた。


「わかったのよ! がんばるの!」


 フンスッ!――と息も荒く、アイラは了承してくれる。

 俺はそのまま、彼女を抱っこして移動した。


 緊張が伝わったのか、アイラが俺の服をギュッとつかむ。

 すでに目的の場所である扉の付近まで来ていた。


 一際、大きな扉だ。

 俺は扉の中央にある水晶に向けて『魔操具デバイス』を使用する。


 地下に居た『シンデレラ』の時と同じくロックが掛かっていたのだろう。

 解除の音と共にドアが開く。


 先程から塔が揺れているが、収まる気配はない。

 これは本格的に急いだ方が良さそうだ。


 部屋の中は広くて、ドーム状になっていた。

 個人の部屋ではなく、コンサートなどを行う会場らしい。


 中央のステージに向かって階段が伸びている。

 そして、そのステージを囲むように、扇状に椅子イスが並べられていた。


「パーパ、バラちゃんよ!」


 とアイラ。ステージの中央を指差し、再び宙に浮く。

 そこには眠るように倒れている少女の姿があった。


 本来なら警戒する所だけれど、何時いつこの塔が崩れても可笑おかしくはない状況だ。

 俺が駆け寄ると、アイラはその後ろを飛行しながらついてくる。


「大丈夫?」


 俺は倒れている彼女のかたわらで膝を突く。

 怪我をしている訳ではないようだ。


 【七姫セブンス】ほどの【魔力】を持っていれば、簡単に死ぬ事もない――


(いや、死ねないのか……)


 だからこそ、俺はカグヤが生きていると思っていた。

 そして、こうして再び、巡り合う事が出来た。


「バラちゃん、だいじょぶ?」


 ペチペチとアイラがほほを叩くと、


「う、ううん……」


 そう言って、彼女は目を覚ましたようだ。

 茫然ぼうぜんとした表情でアイラを見詰める。


(いや、目は見えてはいないようだ……)


「あーちゃん……」


 そうつぶやいて、少女は起き上がろうとした。

 けれど、身体を上手く動かせないらしい。


 その様子に対し、不安そうに俺を見詰めるアイラ。

 そんな顔をされても、俺は医者ではない。


「今は『アイラ』と名付けている。俺は『レイ』――彼女の父親だ」


 と答える。それと同時に『イバラ』を抱き上げた。

 今日はよく、女の子をお姫様抱っこする日だ。


 同時にある事に気が付く。

 『イバラ』の身体が熱い。人間の体温ではなかった。


(この症状は『レオパルド』の妹と一緒だな……)


 【魔力】を必要以上に体内にとどめると熱が出て、身体が動かせなくなる。

 俺の【魔術】の師匠である『隊長リーダー』が言うには一種の【魔力暴走オーバーヒート】らしい。


 生憎あいにくと【魔力】の少ない俺には縁のない症状だ。

 あの時は確か――


(『魔導書グリモア』が破損していたのが原因だったよな……)


 【魔術】の使えない不完全な【魔術師】。

 俺が下した決断は『魔導書グリモア』を移植する事だった。


なんとか一命を取りめる事は出来たけれど……)


 今回は、その方法では無理そうだ。


「助け……なくていい」


 とは『イバラ』。どうやら彼女も、この世界に絶望しているらしい。

 そういった多くの人間と俺は出会ってきた。


 同時に人は、その状況から立ち直る強さがある事も知っている。

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