第34話 くたばれっ! 汚物共がぁ!


 ――〈サンドリヨン視点〉――



「へぇー、確かに結界が消えてるじゃねぇか……」


 『ヒジキ』こと純真な乙女のわたし。

 その頭の上に乗っかり、我らが隊長リーダーは双眼鏡を片手につぶやく。


 外見は小柄で可憐な少女なのだけれど、年齢は二十歳はたちを過ぎていた。

 レイの【魔術】の師匠で時折、目付きが凶悪になる。


 彼は上手く制御コントロールしていたようだけれど、わたしには難しいだろう。

 口より先に手が出るという、わたしが苦手とするタイプの人間だ。


「手始めに、あのイカれた連中――『選民思想インテリ』――を叩けばいいのか?」


 隊長リーダーはそう言って、舌舐したなめずりをした。

 この戦闘狂は完全にる気満々のようだ。


 かろうじて、レイが居た時は彼が上手く暴走をめていた。

 やはり、彼がない今、わたしが制御コントロールできるかは疑問だ。


「いえ、まで、救助をお願いしたいでやんす……」


 そんなわたしの言葉に――アハハッ、わーってるって――と隊長リーダー

 彼女は笑って――バンバン――とわたしの頭を叩いた。


 見掛けによらず、力が強いのでめて欲しい。


「いや、分かってないよな……」


 とつぶやいたのは、隊員チーム運転手アッシーくんである『レオパルド』。

 因みに【魔王災害】が起こったのは昭和だ。


 そのため【魔境】の文化がそこでまっている事が多い。

 運転手アッシーくんは、日本がバブル期の頃に使われていた俗称だ。


 主に女性が移動する際、自家用車で送り迎えをする都合の良い男性の事を指す。

 また一人だけ、なにやら名前がカッコイイという理由で、仲間内からは『レオポン』もしくは『デコポン』呼ばわりされている。


 まあ、そういうポジションだ。


なんでもいい……」


 早く、兄さん達を助けに行こう――とは『モモ』。

 普段は冷静な彼女だけれど、どうにも気負きおっているようだ。少し心配になる。


「フハハハッ! この肉体美を披露ひろうしてやる!」


 とは『キャベツ』。うん、こっちはいつも通りだ。

 早速、筋肉をアピールするためのポージングを行っている。


 わたしとしても――月を利用して【魔力】を増幅する――そのため、計画を実行するのは夜だと思い込んでいた。


 昼間でも白い月は出ているし、【魔力】を増幅する方法は月だけではない。

 られた――というのもある。


 しかし、これでは計画が失敗するリスクが高い。だとしたら、計画の実行自体に意味がある、もしくは失敗する事こそが目的の可能性も出て来た。


 また、東京以外にも【魔境】は存在する。今回の計画を行う事で、世界に対しなんらかの脅威を示す事が出来れば、外の世界と戦争になる可能性だってあり得る。


 思い起こせば、わたし達が集められたあの時も、戦争を開始しようとしていた。

 あの時は【魔境】の外では【魔術】が使えないという事で計画は見直されたが――


 やはり、この地にはなにかあるのかも知れない。


「オラァっ『ヒジキ』っ! ぼさっとしてないで行くぞ!」


 今度はガシガシと隊長リーダーがわたしの頭を蹴飛けとばした。

 乱暴ではある。けれど、彼女の存在が、わたし達の切り札であるのも事実だ。


「ゴ、ゴメンでやんす……」


 だから、乙女の顔をらなでください――そんな私のお願いに、


「テメェーは何処どこが顔か分かんねぇーんだよ」


 と返される。やれやれ……これだから、この人は苦手だ。

 わたしは『キャベツ』の手により、車の後方――荷台へと積まれる。


 重機あつかいである。


「よっしゃーっ! 突撃だ!」


 と隊長リーダー。出発の間違いではないだろうか?

 彼女は赤い外套コートに身を包む。


 これ以降は『レッド』と呼ばないと怒られるので注意が必要だ。

 気分は変身ヒーローである。


「また、オレの車がお釈迦しゃかに……」


 『レオパルド』は目に涙を浮かべ、アクセルを踏み込む。

 車が勢いよく発進した。


「ヒャッハーッ! 敵は皆殺しだぁ!」


 まるでこちらが悪党のような発言。

 『レッド』がそう叫んだ途端とたん、わたし達はがけから落ちる。


 当然、飛行する機能など付いている訳がないので、重力にしたがい落下だ。

 ただし、車は壊れない。


 『レッド』の【魔術】だ。得意とするのはあらゆるモノの強化。

 今は車の性能を強化している。


 多少の段差や障害物など、物ともしない。銃弾だって跳ね返す。

 ただし、乗っているわたし達が無事である保証はない。


 【魔王監獄プリズン】を見張るように設置された『選民思想インテリジェンス』の簡易基地。

 その只中ただなかへと突っ込むと待機していた連中を吹っ飛ばす。


 流石さすがに真上から、装甲車が降って来るとは思わなかったようだ。

 同時に『レッド』は車の天井から顔を出し、機関銃マシンガンをぶっ放す。


 【魔術】で強化されているため、面白いように人が千切れ飛ぶ。


「くたばれっ! 汚物ゴミ共がぁ!」


 ワッハッハッハッハッ!――『レッド』は楽しそうに叫んだ。ノリノリである。

 いつもならストッパー役の『モモ』も目がわっていた。


 説明が悪かったのだろうか? 姉の危機ピンチと聞いて落ち着かない様子だ。

 さやおさめた刀を握り、完全に殺し屋の目をしている。


「ひぃ~! もう帰りたい……」


 とは『レオパルド』で、情けない事を言いつつも、的確に敵の兵士達をいて行く。今日はもう、お肉は食べたくない。


 一方で、わたしの任務は後方の敵を相手にする事だ。

 前回は案内ナビだけだったので武装はしていなかった。


 けれど、今回は違う。どうせ、乱戦では使えないので爆弾を投擲とうてきし、ミサイルランチャーをお見舞いしておいた。


 『レッド』の【魔術】で威力が強化されているため、火力が恐ろしい事になっていた。人間も空を飛べるらしい。周囲に土と血の雨が降る。


 これでは戦車だ。一方的な殺戮さつりくでしかない。

 しかし、この基地は無力化できただろう。


 後はこのまま【魔王監獄プリズン】へと向かうだけだ。

 しかし、一人の大男が前に立つと車を受け止めた。


ウソだろっ!」


 と『レオパルド』。自分の車にれられる事を極端きょくたんに嫌う彼。

 更に走りをめられた事も合わさって、少しキレているようだ。


 躊躇ためらう事なくアクセルを全開にする。

 ある意味、彼も面倒な性格だ。

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