第33話 キミ達、【魔術師】の為でもあるんだよ


 『ラプンツェル』のそばひかえているのが『シラユキ』だ。

 【魔術】で『オヤユビ』の動きを封じている。


 身体が動かせないのか、『オヤユビ』はみょうな体勢のまま、静止していた。


(物を固定するような、そんな【魔術】なのだろうか?)


 俺のように体術に心得があれば、『オヤユビ』の怪力でもおさえ込む事は可能だ。

 【魔術】が使えない今、それは更に容易よういな事だろう。


 『マーメイド』に対しては、この場の全員を人質を取る事で動きを封じていた。

 彼女の場合は、警備に当たっている【魔術師】達の指揮もある。


 弱体化だけで済んでいるようだ。


(しかし、【魔力】を奪われる事がこうもキツイとは……)


 想定外だ。いや、そもそも【魔術師】達をこの塔に集めたのは【魔力】を集める事が目的なのかも知れない。


 なんにせよ、一番厄介なカグヤが居ない、この状況こそ彼女達にとっての千載一遇の機会チャンスなのだろう。


(いや、本当にそうだろうか?)


 そもそも、俺とアイラがここに来なければ、計画は順調に行われていた。つまり、俺達ここに来た事が――計画の引き金になった――と考えるべきかも知れない。



 ――〈カグヤ視点〉――



 再び、私の首に【魔力】を封じる首輪が取り付けられた。

 懐かしいが、同時に不愉快な感覚でもある。


 【魔術師】達が人質に取られたのでは仕方がない。


「まさか、あの『斬黒姫ざんこくひめ』と呼ばれている君を簡単に捕らえられるとは思っていなかったよ」


 と言って私を見下ろすのはミラと名乗った女性だ。

 そんな二つ名がある事も衝撃ショックだけれど、彼女を見た瞬間、ぐに分かった。


 彼女が『シラユキ』の本体オリジナルだ。

 年齢は上で髪も染め、化粧をしている。


 けれど、骨格や耳の形など酷似していた。

 『シラユキ』は彼女の複製品クローンで間違いないだろう。


 つまり、『シラユキ』は『選民思想インテリジェンス』の一員という事になる。

 『シンデレラ』の言う『裏切った』という意味は、こういう事だったようだ。


「そういう事だったのか……」


 とはファングチワワの『シンデレラ』。気付いていなかったらしい。

 そもそも他人に興味がないから、裏をかかれるのだ。


 ミラは銃を構えるとファングチワワった。

 キャインッ!――と悲鳴が上がる。


 すると――ウウウッ~!――ぐに低いうなり声へと変わり、ミラを威嚇いかくする。

 【魔力】を封じる――という弾丸のようだ。


 『シンデレラ』の【魔術】は解除されたらしい。

 私はファングチワワを抱くと、頭をでて大人しくさせる。


「やはり、【魔獣】相手では殺傷能力が低いか……」


 そう言って、彼女は次に銃口を私へと向けた。

 私は――主人の許に帰りなさい――とファングチワワを逃がす。


 くーん?――ファングチワワは一度、振り返って私を見たが、そのまま塔の方へと帰っていった。それを見届けて私は振り返ると、ミラという女をにらんだ。すると、


「冗談だよ」


 とミラは不敵に笑う。あのと同じ顔で笑わないで欲しい。

 恐らく、私の【魔力】が必要なのだろう。だから、私はまだ殺されない。


 『シンデレラ』の情報によると【魔術師】は塔の入口エントランスに集められている。【魔力】を吸収されているため、動けずにいるそうだ。


 定期的に『イバラ』の歌を聞かせ、【魔力】を回復させているのだろう。

 つまり【魔力】が必要な内は、まだ殺される事はない。


 『イバラ』は利用されているだけだろう。

 一安心だけれど、これ以上、優しい彼女を傷つけないで欲しい。


 私は目隠しをされる。【魔術師】への対応としては、一番適切だろう。

 次に車へと乗せられた。ミラという女も一緒だ。


 ミラは人質が居る事をもう一度、語る。

 それ程までに『私を警戒している』という事だろう。


 首輪をしているとはいえ、私が自分の首をね【魔術】を行使する。

 その可能性を考慮しているのかも知れない。


 私は、すべてを破壊する。死ぬ間際、塔を破壊するのも可能だ。

 だからこその人質なのだろう。


 そして、私にとって一番、効果のある人質。

 それは彼だ。勿論もちろん、アイラの事も愛している。


 けれど、彼女を殺す方法を私は知らない。

 光の妖精とも言えるような存在の少女。


 精々せいぜい、鏡の箱に閉じ込めるくらいだろう。


「『黒陽計画』――何処どこまで本気なの?」


 私の問いに対し、


「キミ達、【魔術師】のためでもあるんだよ」


 と女。目隠しをされて、初めて気が付く。

 彼女は人間ではい。正確には――こちら側の――と枕詞まくらことばを付け加えるべきだろう。


 『魂の形』とでも言えばいいのか、それがまったく違う。

 上手く隠しているつもりだろうが、私には分かる。


 彼と【魔術】でつながり、『シラユキ』を知っているからだろう。

 女の中に、なにか別の存在を感じる。


 それは、あの施設でも感じたモノだ。


(そうか――やはり、アレは人間では無かったのね……)


 私達をこの地に集め、なにかの実験をしようとしていた連中。

 女は奴らと同じだ。


 同時に気付く。アイラが守ってくれていた事に――

 お腹の中にいた、あの光こそが私達を守ってくれていた。


 私はすでに相手の【魔術】による攻撃を受けているようだ。

 もし『シラユキ』の本体オリジナルであるなら、この女が【魔術師】でも不思議ではない。


 『シラユキ』自身は――物質を硬くする程度だ――という認識だったけれど、とんでもない。この【魔術】の本質は『停滞』。


 人々から考える力を、生きる力を奪う。

 人類の天敵のような【魔術】だ。


「これは貴女あなたためよ――と言われて信じろと……」


 私は口にするが、


(ダメだ――意識が遠のく……)


「やれやれ、やっと効いてくれたようだね……」


 あめでもめているのだろうか?

 女の声が聞こえたけれど、誰だったか思い出せない。


 洗脳には持って来いの【魔術】だろう。


「皆、逃げて……」


 最後の力を振り絞って、私はつぶやく。


 ――これこそ、悪い【魔女】だ。

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