第31話 けれど、彼らと過ごす今が――


 ――〈カグヤ視点〉――



 先程から何人なんにん、斬りきざんだのだろうか?


 今までの兵士達とは違い、手足を斬ったくらいでは立ち止まってはくれないようだ。別に生かして帰すつもりはない。


 嬉々として人を殺すような連中でも負傷した仲間を救助に来るので、そこをねらためだ。通常なら、それでおびえ、撤退てったいして行く。


 しかし、今日はまるで死体ゾンビのように目的もなく、突っ込んできている。

 痛みや恐怖を感じないのだろうか?


 後方から支援として飛んで来る銃弾が鬱陶うっとうしい。敵とはいえ、相手は人間だ。

 流石さすがの私でも、絶え間なく人を殺していると頭が可笑おかしくなりそうになる。


 【魔術師】達の多くは子供だ。猶更なおさら、他の【魔術師】達に任せる訳には行かない。どうやら、相手は数にモノを言わせ、持久戦を行いたいようだ。


 〈漆黒剣の輪舞ブラックフィールド〉――を展開し、戦線を維持し続ける必要がある。

 私が適任――いや、この場に私をとどめておくのが目的だろうか?


 今までは『頭が悪い』と思える攻め方をしていた。

 けれど、それは【魔術師】の情報を集めるためだったのかも知れない。


 また――兵器の性能を試していた――とも言える。

 少なくとも、最近は戦術を無視した戦い方をしていた。


 それがここに来て変わっている。


「わたしも潜入をこころみた事はあるのだけれど……」


 とはファングチワワの格好をした『シンデレラ』。

 足元でキャンキャンとうるさい。


貴女あなたでも失敗するのね」


 私の台詞セリフに、


「基本は教育による洗脳――それに徹底された階級組織じゃ……」


 数日で頭が可笑おかししくなるよ――と笑う。

 頭はすで可笑おかしいでしょ――そう言いたい所だ。


 けれど散々さんざん、言われていそうなのでめておいた。


「組織のトップが変わったと思っていたけれど……」


 そうつぶやく『シンデレラ』の言葉に、


「どうやら『計画が次の段階に移行した』と考えるべきね……」


 と私は返すのだった。


(恐らく、目的は――この塔と【魔術師】そのモノ――だろう……)



 ――〈亡霊視点〉――



 何故なぜかアイラは『シンデレラ』と一緒にシャワーを浴びている。

 警備の【魔術師】達に指揮を出している『マーメイド』がいそがしそうだ。


 ――手伝わなくても、いいのだろうか?


 ウサミにはアイラと『シンデレラ』の面倒を見るように頼んだ。

 着替えなど、色々と手が掛かりそうなので、彼女の存在は助かる。


 俺自身も目立たないように制服へと着替えた。

 ここでは日常を演出するために学校の制度を導入している。


 普通にしていれば目立つ事はない――と思っていたのだが違ったようだ。

 同じく制服に着替えた『オヤユビ』と『マーメイド』のもとへと向かう。


(『オヤユビ』と一緒では、否が応でも目立ってしまうな……)


 カグヤはなにを考えているのだろうか?

 少なくとも『オヤユビ』と『マーメイド』も戦闘に参加させるべきだろう。


 まるで別のなにかを警戒し、備えているような布陣だ。


「残りの【七姫セブンス】はなにをしているんだ?」


 俺の問いに、


「『ラプンツェル』は塔の上で研究、『イバラ』は歌っている……」


 と『オヤユビ』は教えてくれる。

 そういえば、戦闘が始まってから歌が聞こえていた。


 音というよりは【魔術】に近い。恐らく、支援効果のある【魔術】なのだろう。

 俺自身も【魔力】が強くなっている気がする。


 早く『黒陽計画』の中止を確認したい所だったが、上手く行かないモノだ。

 やはり、塔の機能を麻痺まひさせるためにも、独自で動くべきだろうか?


「『シラユキ』は……」


 『オヤユビ』が言い掛けると――ここだよ――と後ろから声がする。

 振り向くと、黒髪の少女がそこに立っていた。


何処どこかで見たおぼえがある気がするけど……)


 思い出せない。少なくとも、泣かさないようにしたい所だ。


「二人はデートかい?」


 などと巫山戯ふざけた事を聞いてくる。『オヤユビ』が顔を真っ赤にした。


「ああ、親交を深めている」


 と俺は返す。なんだろう?

 彼女に対して、油断をしては行けない気がする。


「丁度、集まってもらおうと思っていたんだ♪」


 『シラユキ』は笑うと俺達の前を静かに通り過ぎ、


塔の入口エントランスへ来てよ」


 そう言って振り向く。

 その姿がどうにも、怒っている時の『モモ』を連想させた。



 ――〈サンドリヨン視点〉――



「ふぅー」


 シャワーを浴びて一息くと、わたしは両手を顔でおおい、その場にしゃがみ込んだ。


 ――何故なぜ、下着姿を披露ひろうしてしまったのだろう⁉


 皆、無視スルーしていたけれど、すごずかしかった。

 いや、同性に見られるのは構わない。


 それに着替えが水で流されてしまっては、仕方がない事だろう。

 なので、彼の前で平静をよそおった態度を取ってしまった。


 そもそも、裸を見られた所でなにも思う事はない。

 だから、平気だと思っていた。


(なのに、こうも恥ずかしいモノだったとは……)


 想定外である。


「お嬢様、乾かしますよ――『シンデレラ』様、裸でなにをしているのですか?」


 カグヤのメイド(?)がわたしを怪訝けげん面持おももちで見詰める。

 わたしは――なんでもなーい♪――と言って、タオルで身体をくと髪を乾かした。


 着替えはカグヤのモノだろうか?

 うん、わたしの方が大きい――いや、今はそういう話ではない。


(単純に太っただけのような気もするし……)


 ガクヤの手前、ああは言っては見たモノの――やはり男の子は大きい方が好きなのだろうか?


「ちがーうっ!」


 髪を乾かしていたアイラとメイド(?)が――ビクンッ!――と反応する。

 ああ、ゴメン――とわたしは謝った。


 どうにも、彼の事を考えると調子が狂う。

 これは彼と子供を作る事を真剣に考えても良さそうだ。


(こんな世界では、いつ死ぬか分からないしね……)


 だから、わたしは自由に楽しく生きる。

 電脳世界ネットさえあれば、平気だったはずだ。


 それなのに、彼もカグヤも、わたしの居場所になってしまった。

 彼らと一緒なら安心できる。家族や仲間が増える。


 他人をあやつって、生きてきたわたし。

 けれど、彼らと過ごす今が――


 自分の思い通りに生きて来たわたし。

 思い通りにならない今の方が――


 今までの何倍なんばいも楽しい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る