第29話 私が相手をするわ


「デレちゃん、くちゃいくちゃいよ」


 とはアイラ。『シンデレラ』に対し、鼻をまむ仕草をする。

 そうかな?――と言って『シンデレラ』はクンクンと自分のにおいをいだ。


「まったく、先にシャワーを浴びて来た方がいい……」


 俺はそう言って、肩をすくめると、


「それに下着パンツれてしまったんだろ」


 少しはカグヤを見習ってくれ――と付け加える。

 そんな俺の言葉に、何故なぜかカグヤは視線をらした。


 同時にウサミもうつむいている。早く服を着て欲しいと、遠回しに言ったつもりだったけれど、なに可笑おかしかっただろうか?


 一方で『シンデレラ』の言う『敵』も気になっていた。

 ここには最強とも言える【魔術師】達がそろっている。


 彼女達をってしても警戒するような相手など、本当にいるのだろうか?


「私が相手をするわ」


 『マーメイド』は皆を避難させて――とカグヤ。

 なんの根拠もないが『シンデレラ』の言葉を信じたらしい。


 俺も戦うべきだろうが、ここではかえって足手あしでまといだろう。

 『オヤユビ』も一緒に戦おうとしたが、


「二人は着替えなさい!」


 ウサミ、お願い――とカグヤ。


「あーあ、『オヤユビ』の所為せいで怒られちゃったよ」


 と言って『シンデレラ』は唇をとがらせ、責任を『オヤユビ』になすりつける。

 それと同時に【魔術】でカグヤの腕に、銀色に光るなにかを巻き付けた。


 カグヤはそれを一瞥いちべつすると、


「アイラをお願い……パパと大人しく待っていてね」


 俺とアイラにそう言い残して、塔の入口エントランスへと向かう。

 何故なぜか俺から逃げるような態度を取った気がする。


 顔がだけれど、大丈夫だろうか?

 俺は首をかしげ、アイラと顔を見合わせた。



 ――〈カグヤ視点〉――



(オナ……いえ、あの事は気付かれずに済んだようね――)


 塔を出て、安堵の溜息をくのも束の間。

 なにやら塔の周辺がさわがしくなる。


(あの詐欺師さぎし――違った……いや、違わないわね……)


 態々わざわざ『シンデレラ』が知らせてくれたのだ。

 警戒するに越した事はない。


 『魔操具デバイス』から――攻撃を受けている――との連絡が入った。

 どうやら、今までよりも本格的に侵攻してきたようだ。


 正面の警備を下がらせ、他の場所の警備へ向かうように命令する。

 本来は『マーメイド』の役目なので、細かい指示は彼女に任せるとしよう。


 私は一人で、正面の『敵』を叩く事にする。

 しかし、どうにもに落ちない事があった。


 【七姫セブンス】の内、四人がそろった事で『黒陽計画』は中止になるはずだ。

 それなのにみょうな胸騒ぎがするのは何故なぜだろう?


 なにか大切なモノを見落としているような――そんな気がする。

 一度、整理したい所だけれど、今はその時間がない。


 警備に当たっていた【魔術師】達が負傷者を連れて逃げてくる。

 あまり塔から離れる気はなかったけれど、急いで助けに向かった方が良さそうだ。


 ――〈漆黒剣の円舞曲ブラックサークル〉!


 弧を描き、複数の刃が高速で回転する。私は視界に入った『敵』を次々に斬り殺して行く。同時に狙撃に対して警戒し、防御を行う事も忘れない。


 ――〈漆黒剣の舞踏ブラックフェザー〉!


 幾本もの剣が周囲に展開し、私を守るように揺れる。

 本来なら突撃兵を用意し、命と引き換えにガスを散布するのがお約束だ。


 しかし、今回はそれがなかった。

 勿論もちろん、【魔力】の高い私に毒は効かない。


 ――やっと、無駄だという事を理解したのだろうか?


 それにしては可笑おかしい。

 少なくとも『敵が来た』という、このタイミングもみょうだ。


 今日は大気の乱れもあり、外での【魔術】の使用が制限されてしまう。

 とはいえ【七姫セブンス】を相手にするのであれば、ほとんど意味はない。


 むしろ、レイが来た事によって、内部に多少の混乱が起きた事の方が影響は大きいといえる。


 少なくとも、レイの突入と『オヤユビ』との戦闘。

 更には『マーメイド』の暴走による被害。


 これらに対して何故なぜ、残りの三人の【七姫セブンス】は出てこなかったのか?

 確認のための連絡くらいはあってもいいはずだ。


 改めて連絡を取り、現在の戦況を確認すると塔を囲むように四方から攻撃を受けているらしい。今までも襲撃はあった。けれど、それにしては大掛かりだ。


 状況から判断して【七姫セブンス】を塔の外に出すのが目的のように思えてくる。

 不思議だ。本来の私はここまで頭は回らない。


 レイが居てくれるというだけで、いつもより冷静に判断が出来る。


「『シラユキ』が裏切ったんだよ」


 と足元から『シンデレラ』の声。

 今しがた、擦れ違ったファングチワワに彼女の髪を刺しておいたのだ。


 『シンデレラ』の【魔術】は身体の一部――特に『髪の毛』――を使って人型、あるいは知性のある生き物を『操作する事が出来る』というモノだ。


 『基地局アンテナ』でもあり『疑似人格』を形成する事で自立して行動する人形にもなる。

 また、彼女自身は電子機器などのあつかいにも精通していた。


 わば情報こそが彼女の武器と言えるだろう。

 先程、彼女が私の腕に巻き付けたのは自分の『髪の毛』だ。


「あのが裏切る? 何故なぜ……」


 私は問い掛けると、


「さあ?」


 いつもながらとぼけた回答が返ってくる。


「わたしはずっと地下に居たんだよ……」


 分かる訳ないよね――と言って、アハハと『シンデレラ』は笑う。

 敵は『選民思想インテリジェンス』と名乗る連中だ。


 自分達こそが選ばれた新人類だとうたい上げ、それ以外を排除しようする頭の可笑おかしな連中だ。


 この【魔境】と呼ばれる牢獄から出る事の出来ない、狂った旧人類。

 ただ複製体クローンであるため、倒しても次から次へといてきてキリがない。


(そもそも、複製体クローンを作るための資材は何処どこから……)


「まるで東京が【異界】に飲み込まれる事を分かっていて準備していたみたい……」


 私のつぶやきに――わたしも、それは考えたよ――と『シンデレラ』。

 そうだと仮定するのなら、彼らの本当の狙いは――


 風に乗って、塔から『イバラ』の歌声が聞こえる。そんな気がした。

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