第28話 マーマ、これでボインボインよ?


 俺が再び部屋に入ると、


「もう、ひどいじゃないか!」


 浸水のため、足場がなくなり、椅子イスの上でしゃがみ込んでいる美少女を再び目にする。半分は自業自得なので、あきらめて欲しい。


 プリプリしてるその少女は、どういう訳か下着姿で、その上に白衣を着ていた。

 俺が口にするよりも早く、


「ああ、この格好かい?」


 基本、裸なんだけれど今日はちゃんと下着を穿いているよ――と『シンデレラ』。

 偉いだろ? といった態度で胸を張る。


 顔だけなら『深窓の麗人』とも言える見た目とのギャップに俺は言葉を失う。


なんだいなんだい? あまりの可愛さに――言葉がない――といった感じだね。いいだろう、キミとわたしの仲だ。存分に見るがいいさ」


 そう言って、彼女は両手を広げたのだけれど、椅子イスの上なので当然のようにバランスを崩す。


「あれ?」


 と後ろに倒れそうになったのを、俺は【魔術】で浮遊させる。

 そして、そのまま抱き寄せ、お姫様抱っこをした。


 【魔術】を使用するには知覚――つまり、目視する必要がある。

 見ても構わないというのなら、遠慮する必要はない。


「あ、ありがとう……」


 と『シンデレラ』。何故なぜ、この状況で照れるのかは謎だ。

 下着姿は見られても平気なのに、お姫様抱っこは恥ずかしいらしい。


 俺は『シンデレラ』に――〈魔域接続アクセルリンク〉――を使用すると、


「おお、こういう感覚なのか!」


 これはれなくていいね♪――と楽しんでいた。

 すでれている下着パンツはどうしようもないが、それは言わないでおこう。


「……」


 少しの間、俺が沈黙していると、


「どうしたんだい? 上に行かないのかい?」


 と『シンデレラ』が質問してくる。そして、


「まあ、わたしとしては、このままでも構わないけどね」


 これは良いモノだ――と付け加えた。俺は、


「いや、本当に『シンデレラ』――『サンドリヨン』なのかと思って……」


 とつぶやく。電脳世界ネットでの彼女は、もう少し知的な印象だった。

 俺が向けるうたがいの眼差まなざしに、


「アニキ、正真正銘、あっしでやんすよ!」


 と言って『シンデレラ』は微笑ほほえむ。

 確かに『ヒジキ』で間違いないようだ。


「すまない、眼鏡でおさげの女の子を想像していた」


 俺が謝ると、


「いや、普段はそんな感じで合っている」


 お風呂も一週間くらい入っていないしね――などとお道化どけた口調で語る。

 女の子が、それでいいのだろうか? 俺が疑問を口にするよりも早く、


「そんな事より、急いだ方がいい」


 敵が来ている――『シンデレラ』は急に真面目な表情で俺に告げた。

 個人的には、先にお風呂に入って欲しい所だ。


 けれど、そういう訳には行かないらしい。

 俺はフワリと浮上すると『シンデレラ』を抱えたまま、上の階層フロアと向かった。


 先程の植物園は一階となっている。天井の方も大分、修復はされているようだ。

 けれど、完全になおるのには、もう少し時間が必要だろう。


 この塔に突入する際、俺が開けた大穴がすでふさがっている事を考えると――やはり、カグヤの【魔力】は他の【七姫セブンス】よりも高いらしい。


 敵が来ている――との事で、すで入口エントランスの方へ移動しているのかと思ったていたが、カグヤ達は先程の場所の近くで待っていてくれたようだ。


 何故なぜかカグヤの胸を『マーメイド』が触っている。


「おやおや、そういう趣味があったのかい?」


 と『シンデレラ』。カグヤを相手に揶揄からかうとは死にたいらしい。一方でカグヤの方は――いったい、なにを言っているの?――という表情を浮かべただけだった。


 どうやら『シンデレラ』の性格は理解されているようだ。

 皆からはあまり真面まともに相手をされていないらしい。


「これは血流を良くして、胸を大きくするのよ!」


 と勝ちほこったようにカグヤが『シンデレラ』に言う。

 俺はウサミを見たが、彼女はその意図が分からずキョトンとしている。


 この場の全員、それで本当に胸が大きくなると思っているようだ。

 ちょっと、将来が心配になってくる。


 ――よし、カグヤの事は一生、俺が大切にしよう!


 一旦、『シンデレラ』を床に着地させると【魔術】を解除した。

 その反動で彼女は少しフラついたが、俺が手をつかんで支える。


 ありがと♡――と微笑ほほえむ『シンデレラ』。

 だが、れた下着パンツの感覚がよみがえったのか、指で位置を調整した。


 そして、カグヤ達に向き直ると、


「それは――好きな人に胸を揉んでもらうと大きくなる――というヤツだね」


 そう言って『シンデレラ』は微笑ほほえむ。

 白衣に下着姿では、なにかイケない事を教えているようにしか見えない。


 そんな彼女の格好については、全員無視スルーのようだ。


「あら、そうなの?」


 カグヤは得心が行ったのか、俺を見詰める。


 ――まあ、そうなるだろう。


「マーマ、これでボインボインよ?」


 とはアイラ。変な言葉を教えないで欲しいモノだ。

 『オヤユビ』と『マーメイド』を見る限り、そこまでの成長はむずかしい気がする。


 どう考えても、この二人は特殊な部類だ。

 それでも人はわずかな希望があれば、それにすがりたくなるのだろう。


 そのままでも十分に魅力的だよ――と俺が言っても、納得はしてくれなさそうだ。


「わたしとしても、結果に興味があるのだけれど……」


 敵がせまってきているよ――と『シンデレラ』。

 いいから、早く服を着て欲しい。ついでに『オヤユビ』もだ。


 ――いや、俺も早くジャージから着替えよう。

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