第27話 か、替えの下着、頂戴……


 私が脱いだ下着パンツにらめっこをしていると、


「あの、さっきの事だけれど……」


 と綺麗な声。やはり『マーメイド』だ。

 せめて、下着パンツ穿き替えてからにして欲しい。


 さっきのというと――レイと抱き合っていたこと――だろうか?

 ウチの旦那だんなはカッコイイので、ホレてしまうのは分かる。


 思わず抱き付いてしまうのも仕方がないだろう。

 問題があるとするのなら――レイなら【魔術】で回避も出来た――という事だ。


 確かに【魔力】はきかけていたけれど、それならうばえばいい。

 しかし、彼は【魔力】を奪う事をあまり良しとはしていない節がある。つまり――


貴女あなたもレイの大切な人だったのね……」


 私は微笑ほほえむ。


 ――下着パンツを脱いだ状態で私はなにを言っているのだろう?


「許してくれるの⁉」


 と『マーメイド』はおどろいているようだけれど、許して欲しいのは私の方だ。


 ――早く下着パンツ穿かせて欲しい。


「レイも沢山の他人ひとに裏切られ続けてきたの――それでも彼は……」


 誰かの代わりに戦い続けている――私の言葉に『マーメイド』は黙る。


 ――心当たりがあるのだろうか?


「彼は昔のみにくい私を『綺麗だ』と言って抱きしめてくれたのよ」


 『マーメイド』に対し、下心があったとは考えにくい。

 彼女が泣いていた事は簡単に想像できた。


「だから、今度は私が――レイの守りたい人を守るの……」


 悪いと思っているのなら、貴女あなたもそうしてあげて――と私は伝える。


 ――やっと下着パンツ穿けた!


 嫉妬しっとをしない――と言えばうそになるけれど、彼女の過去も知っていたので怒る気にはなれない。


 むしろ、家族に自分がレイプされたと伝えるのは、どういう気持ちなのだろうか?

 両親を殺した私でさえ、吐き気がしてくる。


「分かったわ……」


 そう言って『マーメイド』は居なくなった。

 私もトイレから出よう。


 それにしても、さっきの接吻キスは気持ち良かった。

 おあずけにされ、我慢していた分、余計に感じてしまったようだ。


 彼の息遣いきづかい、心臓の音、力強い腕に抱かれる感覚。

 そして、欲望のまま求められる――思い出しただけで、身体が熱くなった。


 無意識の内に指をわせ、動かしていた自分に気が付く。


「はうっ……!」


 落ち着いたと思っていたけれど、まだ敏感なままだったようだ。

 身体に電気が走るような感覚。


 彼の身体の一部が、まだ私の身体の中に残っているかのようだ。

 魂と魂が触れ合う――と言えばいいのだろうか?


 顔が熱くなり、鼓動が早くなる。

 気が付くと、私は彼との記憶を手繰り寄せ、夢中になっていた。


 ――また、れてしまった!


「ウ、ウサミ~」


 と私は自分でも情けない声を出した。


「どうしました? カグヤ様……」


 慌てて彼女がやってきたので、


「か、替えの下着パンツ頂戴ちょうだい……」


 と声を小さくして言う。


「本当になにをしているんですか⁉ カグヤ様……」


 心底、あきれたような、困ったような口調のウサミ。

 流石さすがなにをしていたのかは言えない。



 ――〈亡霊視点〉――



 俺が下の階層フロアへと移動すると『魔操具デバイス』に自動で階層フロア地図マップが表示された。

 『シンデレラ』の仕業だろう。


 案内ナビに従って、この赤い矢印の場所へ向かえばいいようだ。

 水は大分、少なくなってはいるが膝下くらいまではある。


(ちょっとした恐怖だよな……)


 外部からは鉄壁とされる塔の守りも、内部からの攻撃には弱いらしい。

 俺は『シンデレラ』のもとへと急いだ。


 地下だの釈放だの聞いていたので、もう少し薄暗く陰湿な場所を想像イメージしていた。

 けれど、他の階層フロアと同じで、真っ白で整理された空間となっている。


 先程から、扉以外はなにもない通路が続いていた。

 ただ、似たような空間が続くので、案内ナビがなければ迷いそうだ。


 他に人の姿は見当たらないので、避難したのだろう。

 俺としては好都合だ。


 〈魔域接続アクセルリンク〉――を使用したまま、目的地である部屋の前まで行く。

 すると『魔操具デバイス』に――ピピピッ!――と反応があり、ドアが自動で開いた。


 カグヤ達が申請でもしたのだろうか?

 防犯セキュリティシステムが解除されたようだ。


 中の造りはカグヤの部屋と変らない。

 むしろ、物は少なく――生活感がない――と言えた。


 病室を連想してしまったのは、錠剤や薬品の瓶があった所為せいだろうか?

 【魔境】において、食料などの物資は少ない。


 食品を錠剤類サプリメント栄養剤ドリンクなどで済ませるのは珍しくなかった。

 加えて、ここは【魔術師】達の巣窟そうくつだ。


 【魔力】を回復するための薬品があっても可笑おかしくはないだろう。


「やあ、王子様――待っていたよ」


 いや、今はジャージ様かな?――んだ少女の声が響く。

 そこには灰被りとは名ばかりの銀髪の美少女がいた。


 どうやら、部屋を間違えてしまったらしい。


「失礼しました」


 と言って俺は部屋を出る。ウィーン!――と扉が閉まる。

 同時に――ブブブッ!――『魔操具デバイス』へメッセージが送られてきた。


「間違ってないよ」「早く助けて」「ハリーハリー」「パンツ冷たい」


 ――鬱陶うっとうしい。


 それに最後のはなんだ? いや、考えるまでない。

 床を埋め尽くす水を見て得心する。


 れてしまったのだろう。

 流石さすがにそれは可哀想なので助ける事にした。

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