第三章

第16話 この先の彼らの物語


 ――〈サンドリヨン視点〉――



 どうやら、彼は予定通り彼女と合流する事が出来たようだ。

 王子様は無事、姫のもと辿たどり着いたらしい。


(いや、この場合は『月からのお迎え』だったかな……)


 一先ひとまずは、この塔にとどまってくれた事に感謝しよう。

 すべては、あの時から始まっていた。


 【魔術師】を使って、世界のルールを変えようとした大人達。結局は見えない壁の外では十分に【魔術】を使用できない事が分かり、戦争の計画は頓挫とんざした。


 けれど、それであきらめるような大人達では無かった。

 【異界】とこちらの世界をつなぎ、世界を侵食する計画を始めたのだ。


(今にして思えば、中身は人間ではなかったのかも知れない……)


 彼らにとって都合のいい事に【魔術師】である子供達は人々からみ嫌われ、集めるのも容易であった。また幼いため、洗脳も簡単だ。


 彼女の娘『アリス』の存在がなければ、私達【七姫】も大人達に逆らうような事はしなかっただろう。


 集められた子供達の中で、取り分け【魔力】の高い七人――それが私達だ。

 本来なら、その命と引き換えに【異界】への穴を空ける実験に使われていた。


 皆、希望など持ってはいなかったし――死んで楽になりたい――とさえ思う者もいただろう。


 しかし、そんな中で『カグヤ』のお腹には新しい命が宿っていた。

 彼女は必至ひっしにそれを守ろうとした。


(最初に動いたのは『オヤユビ』だったかな……)


 今でこそ、その名を使っているが――彼女の巨体は【魔術】などなくても――簡単に大人をひねつぶせた。


 そもそも、拘束具こうそくぐめて【魔術】を封印しなければ『制御コントロールできない』という欠陥けっかんを放置しておいた大人達が悪い。


 家庭で暴力を振るう父親がいたとして、子供が成長した際、自分がどういう立場に置かれるのか、想像できなかった――それと同じだ。


(そう、彼らには想像力が欠如していたのだ……)


 大人なのは身体だけで、自分の妄想を子供達に押し付ける存在でしかなかった。

 だから、簡単に殺されたのだ。


 拘束具こうそくぐが外れさえすれば、結果は火を見るよりも明らかだった。

 特に身体の発育が良かった『マーメイド』。


 彼女は実験以外でも身体を玩具にされていたので、その徹底っぷりはひどいモノだった。見ているこちらの方が気持ち悪くなる程だ。


 そのトラウマの所為せいで今でも男性不信が強い。守護者として、この塔の警備を担当してはいるが、男子にはきびしい傾向がある。


 成人していない子供に対して、明らかに嫌悪感をあらわにしているようでは『これから先が思いやられる』というものだ。


(カグヤを助けに来た彼にとっては、一番の難所かも知れないな……)


 個人的には『亡霊』との間に、誰か子供を作って欲しい所だけれど――それは『カグヤ』が許してくれないだろう。


 一応、『ヒジキ』を通して彼と接触はしていたが『モモ』にも手を出していないようだ。


(あれだけ好意を寄せられていて、気付いていないのか……)


 いや、一途いちずなのだろう。私としては『アリス』との比較対象が欲しかったので【七姫セブンス】の誰かと子供を作ってみて欲しい所だが――止めておこう。


 いっその事、私が生んでもいいのだけれど『カグヤ』が怖い。

 むしろ、彼女のあの【魔術】で施設にとらわれていた事の方が不思議だ。


 余程、嫌な事があって絶望していたのだろう。そんな彼女が生まれてくる命を必死に守ろうとする姿を見て、私達は『戦う勇気』を得たのだ。


 触れたモノすべてを壊してしまう『オヤユビ』に、彼女は自分のお腹を触らせていた。高い【魔力】を持つ彼女だからこそ――その【魔術】を相殺できたのだろう。


(初めて触れた小さな命に『オヤユビ』は感動して泣いていたな……)


 見た目と違って一番、乙女なのかも知れない。

 そんな彼女は、あの日まで壊す事しか出来なかった。


 その『オヤユビ』をかばう意味でも『カグヤ』は破壊者を名乗っているのだろう。

 不器用な優しさだ。


 それゆえに『カグヤ』と『アリス』が居れば、『オヤユビ』は説得できるだろう。

 だが逆に『マーメイド』は難しい。


 逆恨さかうらみと分かっていても、愛する男性との間に幸せを築いた『カグヤ』

 彼女はそれを許させないかも知れない。

 

 【魔術師】の女性に対しては優しい所が、更に性質たちが悪いといえる。

 『ラプンツェル』も、この塔の起動が目的なので計画の中止には反対するはずだ。


 また『イバラ』に関してはなにを考えているのか分からない。

 この塔を管理するための【魔力】は供給してくれるので中立といった立場だろう。


 問題は『シラユキ』で、私の見立てでは彼女が裏切り者だ。

 具体的になにをどう裏切ったのかは分からない。


 けれど、彼女の存在があったから、私は『カグヤ』に『アリス』を隠すように提案したのだ。


 私の考えが正しければ、あの少女は【異界】とこの世界を自由に行き来できる。

 それを誰かに知られると、どうあつかわれるのか予測が出来ない。


 こんな言葉は使いたくないが、彼女こそ【魔王】と言えるだろう。

 私は言葉たくみに『ラプンツェル』を利用し、『ヒジキ』を造らせた。


 『アリス』がこの塔から居なくなれば――【異界】とこの世界をつなぐ実験が出来るぞ――とそそのかしたのだ。


 『カグヤ』自身も自分が死んでしまえば――娘が一人になる――と考えていたようだ。このまま、この塔に居れば安全に暮らす事は出来る。


 だが、娘が成長した際――今度は『アリス』が世界の敵にされてしまう――と私は彼女達親子の身を案じた。


 そうならないためにも、【魔術師】以外で彼女を守ってくれる存在を探すべきだ。

 それは『カグヤ』も理解していたらしい。


 ――信頼できる人間がいる。


 そう言って、私は彼女を説き伏せた。同時に、この塔に居ては『アリス』を利用しようとする【魔術師】が現れた場合――守り切れない――とも考えていたようだ。


 彼女は集団となった人間の恐ろしさを知っている。まだ【七姫セブンス】が協力的な内に一度――『アリス』を隠した方がいい――という結論で一致した。


 私は『ヒジキ』を通して『サンドリヨン』の名を使い、外へと連れ出した。

 しかし、私が思っているよりも外の状況は悪化していたようだ。


 それでも無事、王子様に『硝子の靴』である『アイラ』を届ける事が出来たのは奇跡だ。この先の彼らの物語に期待するとしよう。

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