第15話 逢って謝らなくちゃ!


 ――〈亡霊視点〉――



 久遠くおん――いや、今は『カグヤ』か……。彼女は両手を頬に当てると、その頬をほんのりと赤く染め、身体をクネクネとさせる。


 久し振りの再会のため、舞い上がっているのだろうか?

 なにやら嬉しそうだ。彼女が嬉しいと、俺も嬉しい。


 ウサミという少女に手を貸すと、ゆっくりと足を床に着地させる。

 それから【魔術】を解除した。


 アイラが警戒していないようなので、敵意などは持っていないようだ。


「ありがとうございます」


 と俺に礼を言う。


(少し、小動物っぽいな……)


 自ら世話役と言うだけあって、カグヤの友達というよりは、身の回りの世話をしてくれる付き人や愛玩動物ペットに近いのかも知れない。


 なんにせよ、彼女が一人では無かった事に一先ひとまず安心する。


「さあ、こっちよ」


 とはカグヤ。俺はウサミから手を離し、彼女の後へと続く。

 先程から気になってはいたが、室内だというのに明るい。


 電気とは違うようだ。

 どうやら、ここでの暮らしは【魔術】が中心となっていて、外よりも快適らしい。


 空調も完備されているようで、温度も一定に保たれている。


「ウサミ、お茶とお菓子の準備を……」


 さあさあ、レイはここに座って♪――とカグヤは椅子イスを引いてくれた。通路は殺風景というか、無機質といった感じだったけれど、室内には生活感がある。


 テキパキと動くウサミの様子から、彼女が掃除をしているのだろう。

 清潔に保たれてる。また、観葉植物も用意されていた。


 部屋を観察していると、いい香りが漂ってくる。

 どうやら、ウサミが紅茶を用意してくれているらしい。


 アイラは紅茶がめずらしいようで、ウサミの様子を見ていた。【魔王監獄プリズン】などと呼ばれているので、研究施設のような悪辣あくらつな環境を想像していたのだが――


(どうやら、違うようだ……)


 やはり、人のうわさとは当てにならない。

 カグヤに勧められるまま椅子イスに座るのはいいが、俺は重装備だ。


 一度、着替えたい所だが、いつ戦闘になるとも限らない。

 思案した挙句あげく、このままの姿で居る事にした。


 俺が腰掛けると、カグヤが向いに座り、頬杖をいてニコニコと微笑ほほえむ。

 このまま、彼女と今までの経緯いきさつについて話し合いたい所だが――


ずは、その制服について聞こうか?」


 カグヤといい、ウサミといい、学生服に身を包んでいる。


(――という事は、学校があるのだろうか?)


「気にしなくていいわ、これは恰好だけだから……」


 とはカグヤ。彼女の話によると、授業などの教育課程カリキュラムが組まれてはいるが【七姫セブンス】である彼女は免除されているらしい。


「わたくしは行かないと単位が……」


 そう言って、ウサミが紅茶とお菓子を運んできてくれた。アイラは浮遊した状態でクッキーをつかむと、そのまま飛行してカグヤの膝の上に座る。


 本来は行儀が悪いとしかる所だが、今日はいいだろう。

 カグヤは、そんなアイラの頭をでた。


「るん♪」


 とアイラは嬉しそうにしている。


 カグヤの話によると――学校の制度をもちいて『人間としての最低限の教養』と『【魔術師】としての在り方を学ぶ』――そのための場所という事らしい。


 【魔術師】は人々に恐れられているが、そのほとんどが俺達よりも若い世代だ。

 親代わりは出来ないが【魔術師】の子供達を集め、保護しているらしい。


 そんな子供達を統括する上でも【七姫セブンス】という称号は必要なのだろう。

 【魔術師】から尊敬や畏怖いふの念を集めるのには向いている。


 つまりは――統率が取れている――という事にもつながる。


(やはり、俺が考えていた場所とは異なるようだ……)


「アイラ、口元が汚れているわよ」


 カグヤはそんな事を言って、クッキーのくずで汚れたアイラの口元と手を拭いてあげた。その様子が『モモ』と重なる。


「君の妹は生きている……」


 俺が告げると彼女は一瞬、目を大きく見開いた。けれど、


「そう……」


 ぐに落胆らくたんした表情になりうつむく。


「優しいだよ、口には出さないが君の事を心配している……」


 そんな俺の台詞セリフに、


「私の事をうらんでいるのでしょうね……」


 寂しげにカグヤはつぶやいた。


「今は『モモ』と『名付け』た――君に謝りたい――と言っていたよ」


 そんな俺の言葉に反応したのはアイラで、


「モモちゃん、好きよ♡」


 マーマ、あいたい、いーてたのよ――と微笑ほほえむ。

 そんなアイラの顔に水滴が落ちた。


 カグヤの涙だ。今日の彼女は随分ずいぶんと泣き虫のようだ。


「カグヤ様、良かったですね……」


 グスンッ――とそばひかえていたウサミがもらい泣きをする。


「私、ずっと……謝りたくて――」


 彼女は――自分で壊してしまった――と思っていたのだろう。

 苦しんでいたのは知っている。


 俺は何度なんども『そんな事はない』と言ったのだけれど、モモも――自分は姉からうらまれている――と思っていたようだ。


 この姉妹を早く会わせてあげたいと、俺は強く思った。

 しかし、此処ここでの暮らしは充実しているようだ。


 彼女が人間らしく暮らせるのであれば、無理に連れて帰る必要もないかと考え始めていた。


いたいの……って謝らなくちゃ!」


 カグヤはそう言って、俺を真っ直ぐに見詰める。

 どうやら、ここでの暮らしよりも、大切なモノがあるらしい。


「分かった……帰ろうか?」


 俺は立ち上がり手を差し伸ばす。

 カグヤはそんな俺の手を取ろうと手を伸ばしたのだけれど――

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