第14話 フフフッ、私達って似た者夫婦ね♡


「はわわっ! こ、これはどういう事ですか?」


 とウサミ。目が覚めた途端とたんさわぎ出す。

 私は彼の腕を抱きめるような形で歩いているため、手が離せない。


(昔は私と同じ位の背丈だったのに、随分ずいぶんたくましくなったモノだ……)


 気絶した彼女については、彼の【魔術】で運んでもらっていた。

 彼の――〈憑依コネクト〉――はあらゆる物質に取りく事が出来る。


 物を浮かせたり、音を鳴らしたり、擦り抜けたりと汎用性が高い。

 簡単な動作なら、人を操作する事も可能なようだ。


(昔は施設の大人達から――役に立たない【魔術】だ――と言われていたのに……)


 ここまで使いこなせるようになるなんて――

 余程、努力をしたのだろう。


 ただ、この【魔術】は彼自身を切り離して使用する。

 つまりは複数の動作を同時に行うようなモノだ。


 そのため、どうしても単純な動作になってしまう。ウサミの場合は腰の辺りを持ち上げられ――空中をフワフワと運ばれている――といった様子だ。


「あまり騒ぐと、落ちるわよ」


 そんな私の忠告に、


「あのー……な、なんでわたくし、浮いているのでしょうか?」


 とウサミは質問してくる。


「そういう時だって、あるわよ」


 ねー、アイラ?――私が娘の名前を呼ぶと、


「ねー♡」


 とアイラも首をかたむけ、同意する。


「いえ、そんな時はありません!」


 状況が把握はあくできず、困惑しているウサミのほほをアイラがちょんちょんとつついた。


「ううっ……このも浮いてます」


 納得いかない、といった様子で彼女はつぶやく。


「私の娘で『アイラ』っていうの、仲良くしてあげてね♡」


 私は優しく言ったつもりだったのだけれど、


「はいっ! 誠心誠意、努めてまいります」


 ビシッ!――とウサミは敬礼をした。

 なにをそんなにおびえているのだろうか?


(まるで私が怖いみたいじゃない……)


 そんな事を悩んでいると彼が私のほほつつく。


(はにゃ~ん♡)


 なんだか、どうでも良くなった。


「えっと、アイラちゃんですね。ウサミです――よろしく……えっ⁉」


 娘って言いました!――とおどろくウサミ。


「そうよ」


 私が短く告げると、


「よーしく」


 アイラはそう言って、ウサミのほほを引っ張る。


「いひゃひゃひゃ……あいひゃ――ひえ、おひょうひゃま……ひっひゃららいへ」


(痛たた……アイラ――いえ、お嬢様……引っ張らないで)


 そんな所だろうか? 娘がなついているようで良かった。


「アイラ、その辺にしておけ……」


 と彼が言うと、娘はウサミから離れた。


「た、助かりました……ええと?」


 フワフワと空中をただよいながら、彼女はほほさすり、疑問符を浮かべた。


「夫の『レイ』よ」


 私の言葉に続いて、


「いつも妻がお世話になっています」


 と彼は挨拶あいさつをする。

 妄想する事はあったけれど、実際に言われると恥ずかしい。


「これはご丁寧に……わたくし、カグヤ様の世話役をおおせつかっておりますウサミと……ええっ⁉」


 もしかして、例の彼ですか?――と再びおどろくウサミ。

 今日の彼女は、いつもの数倍はやかましい。


「確かに、私に主婦なんて無理かも……」


 出来るのは『殺し屋』くらいかしら――自虐じぎゃくネタで落ち込む私に、


「じゃあ、俺は『諜報員スパイ』でもやろうかな」


 などと言って、彼は微笑ほほえむ。


「では、お嬢様は超能力者ですか? お似合いですね」


 とはウサミ。家事はわたくしがやるのでやとってください――と付け加えた。

 私が『主婦に向いている』とは、誰も言ってくれないようだ。


 まあ、私の【魔術】は――漆黒の剣を召喚し、自在に操る――というモノだ。

 そのため、戦闘以外ではほとんど役に立たない。


 そんな事を話していると、ぐに部屋の前まで来てしまった。

 塔の内部の造りは単純シンプルだ。


 そのため、どの階層フロアも似たような構造になっている。

 自分が現在どの階層フロアに居るのかを把握していないと、確実に迷子になるだろう。


 すべてが真っ白な金属製の板におおわれているが、付与している【魔術】によって、その役割は異なる。


 天井と壁の一部は等間隔に発光するようになっていて常に明るい。定期的に担当の【魔術師】が【魔術】をほどこしているようだが、数が数だ。


 ご苦労な事である。また、塔には窓がない。

 時計がなければ、昼夜の感覚が狂って可笑おかしくなるだろう。


 レイの【魔術】があれば、壁を透明にして窓を作れるかも知れない。

 また、部屋も通路に沿って等間隔に用意されていた。


 この階層フロアには私とウサミしかいない。世話役なので相部屋だ。

 彼と娘をかくまうのは難しくないだろう。


(でも、一緒の部屋の方がいいわよね……)


 そうなると、寝台ベッドも限られてくる。

 結婚はしていないが、夫婦なのだから一緒に寝るのは当然だろう。


 ――いや、一緒に寝ない方が可笑おかしい!


「アイラは弟と妹、どっちが欲しい?」


 唐突とうとつな私の質問に娘は――あう?――と首をかしげた。

 反応したのは意外にもウサミで、


「あのー、わたくしも居るので、そういうのはひかえて頂けますか?」


 と申し訳なさそうに手を上げる。


「じゃあ、ウサミは今日から引っ越しね♡」


 微笑ほほえむ私に対し、


「そ、そんなっ!」


 と彼女は悲しそうな表情をした。


「ウフフッ、冗談よ」


 と私は告げた。実際、この塔でゆっくり出来る時間は限られている。

 時間を有効に使うためにも一度、部屋で話し合うべきだ。


 私は部屋のドアの前に立つ。

 ドアといってもドアノブがある訳ではない。


 ドアの中央に埋め込まれた球体オーブに特定の【魔力】を流すと自動で開閉する仕組みだ。

 私とウサミが使っているので、二人のどちらかの【魔力】で動く。


(まぁ、擦り抜けが出来そうな彼と娘には関係なさそうだけれど……)


 ドアが開くと好奇心旺盛なのか、アイラは真っ先に部屋へと入っていった。


「あのー」


 ウサミは再び、申し訳なさそうに片手を上げると、


「そろそろ、降ろして頂いてもよろしいでしょうか?」


 と彼にお願いする。

 レイは――ああ、忘れていた――とつぶやく。


(フフフッ、私達って似た者夫婦ね♡)

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