第5話 はわっ! よくも乙女の柔肌を……


「はわっ! よくも乙女の柔肌を……」


 ヒジキはそう言って、尻から機械マシンアームを出現させた。

 そして、銃を撃った兵士の頭をつまみ上げる。


 すでに兵士は事切れているのか、だらりと手足が垂れ、動かなくなっていた。


「死亡を確認――大丈夫でやんす」


 とヒジキ。やれやれだ。乙女の柔肌とか、尻から機械マシンアームを出現させるとか、突っ込み所は多かったが、無事で良かった。


「心配させるな……」


 と俺は安堵あんどの溜息をく。

 本来なら、この後は使えそうな物を探して回収する所だが、今は時間がない。


飛行型二輪エアリアルは使えそうか?」


 俺の台詞セリフに、ヒジキはウィーンと首を横に振った。

 発信機や自爆装置が付いているのだろう。


 部品を回収する分には問題ないが――乗り物として使う場合は推奨しない――といった所のようだ。


(まぁ、モモやキャベツの場合、走った方が早いだろう……)


 モモは外套フードかぶり直し、キャベツも改めて外套コートを身に着ける。

 俺達は先を急ぐ事にした。


 襲撃を受けてしまったが、誰も怪我けがはしていない。

 おおむね予定通り、目的の場所に辿り着く事が出来た俺達。


 樹海じゅかいと化した、かつてのビル群を抜ける。

 出迎えてくれたのは『モモ』こと悠月ゆづきの育ての親である重蔵じゅうぞうさんだ。


 俺の養父でもあり、武術の師匠でもある。


「おお、無事だったか」


 と重蔵さん。両手を広げるが俺とモモは回避する。

 いかつい髭のおっさんの癖にスキンシップが過多なのだ。


(まぁ、この時代、いつ死んでも可笑おかしくはないからな……)


 気持ちは理解する。あの時ああしておけば良かった、と後悔する事は多い。

 だが、俺達は十代だ。もう子供ではない。それに人前だと恥ずかしい。


 モモに関しては思春期なので尚更なおさらだろう。

 人間を平気な顔で殺しておいて可笑おかしな話だ。


「で、彼女がそうなのか?」


 俺は尋ねる。重蔵さんの背後にあるトレーラー。

 その近くには白衣を着た妙齢の女性が立っていた。


 科学者のようだが、見た目通りの人物だと考えるのは危険だ。

 彼女もまた【魔術師】である可能性がある。


 また、ヒジキのように身体を機械化する事も可能だ。

 更にその後ろのコンテナには、俺が依頼していた武装が積んであるのだろう。


 キャベツは何故なぜか、その護衛と思しき男性とにらみ合っている。

 相手も大男なので筋肉勝負がしたいのかも知れない。


 野菜ににらまれ、内心はさぞかし迷惑な事だろう。

 訓練されているのか、そういった感情はおくびにも出さない。


 俺はモモに、キャベツをめさせるように合図する。やれやれだ。

 気を取り直して、俺は今回の交渉相手である女性に近づいた。


 ヒジキも黙って、俺の後を付いてくる。


「あんたが『ミラ』か?」


 俺の質問に対し、


「そうだよ、君の欲しがっていた『毒リンゴ』を持ってきてあげたよ」


 と回答した。その言い回しでは――俺に『白雪姫』を如何どうにかして欲しい――としか聞こえない。ミラは微笑ほほえむと、


「その通りだよ」


 俺の心を読んだかのように答える。


にくいな……)


 俺は外套フードを外して、顔を相手に顔を見せる。

 それと同時に【魔術】で意識の一部を切り離し、ヒジキに『憑依コネクト』した。


(どう思う? 『サンドリヨン』……)


 俺の問い掛けに対し、


『現状では、まだなんとも――ただ『白雪姫』を持ち出してくる辺り……』


 彼女は我々にない情報を持っている可能性が高いですね――と返される。

 しばらくは様子を見て『友好関係を築いた方がいい』という事だろう。


 確かに、現状では協力する方がメリットは大きい。

 本来は『彼女』を助けたかっただけなのだが、今は守りたいモノが増えた。


 こんな事を『彼女』に話すと嫌そうな顔をするのかも知れない。

 彼女は人間が嫌いだ。


 でも、俺にとっては優しい女の子だ。

 もしかしたら、俺に『友達が出来た』と喜んでくれるのかも知れない。


「正確には、塔にとらわれている小人達の開放だけれど……」


 とミラ。本気で言っているのかは分からない。

 少しでも常識のある人間であれば、それが無謀である事は理解できた。


 これから、俺が向かおうとしている塔は【魔王監獄プリズン】と呼ばれている場所だ。

 そこには最強の【魔術師】とうわさされる【七姫セブンス】が存在している。


 彼女は七つながりで『七人の小人』と【七姫セブンス】を掛けているのだろう。

 つまりは俺に、その【七姫セブンス】の『相手をしろ』という事だ。


(冗談じゃない……)


 俺は王子様ではない。舞踏会ダンスの相手なら、他を当たってくれ。

 思わず口から出そうになった。


 だが、そんな事を言ってしまえば、ミラは帰ってしまうかも知れない。

 俺は感情を悟られないように平静をよそおうと、


「中身を確認するが、いいか?」


 そう言って、コンテナへと視線を向けた。


「その前に『妖精』を見たいのだけれど……」


 ミラはそう返す。彼女にとっては、俺よりも『アイラ』の存在が塔攻略の『鍵になっている』と考えているようだ。


 気は進まないが、最初からの約束なので仕方がない。

 なにかあった場合でも、モモ達がいる。対処は出来るだろう。


 内心、溜息をきつつ、 


「アイラ、出て来てくれないか?」


 俺は自分の内にある『魔導書グリモア』に向かって語りかける。

 すると俺の顔の近くに光の粒子が現れ、集まり始めた。


 そして――ピカッ!――と一瞬、まばゆく光る。

 次の瞬間には全身が光り輝く『黄金の少女』が出現した。


 四、五歳くらい見た目の髪の長い女の子。

 起き抜けのためか、ふぁ~と欠伸あくびをして身体を伸ばす。


 次第にまばゆかった光も収まって行く。

 空中を揺蕩たゆたうように浮遊ふゆうする少女は、大きな目をパチクリとする。


 そして、俺を視認すると、


「パーパ! おあよう……」


 そう言って、ニコリと微笑ほほえんだ。

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