第4話 随分とエキサイティングな祭りだな……


「兄さん……今、失礼な事を考えた?」


 モモはそう言って、隊長を守るために立ちふさがっていた敵目掛け、その生首を放り投げた。それは不安定な放物線を描き落下する。


 ――トサッ!


 その生首を確認した部下達から――ひぃっ!――と短い悲鳴が聞こえた。

 死体を投げるのは、敵の戦意を喪失そうしつさせるのが目的なのだろう。


(理解は出来るが、ちょっとひどいな……)


「モモに怪我がなくて良かった――と思っているだけだよ……」


 俺はなるべく、優しい口調で返答した。

 モモは――そう――とだけつぶやくと、残っている敵に集中する。


 外套フードに隠れ、彼女の素顔は見えないはずだ。

 だが、その気迫に押されたのか、敵はひる後退あとずさった。しかし、


「ふ、副隊長が……っ!」


 と誰かが声を上げる。

 全員同じ顔なので――見分けが付かない――と思ったのだが、違うのだろうか?


 態々わざわざ、見比べに行こうとは思わないが、区別は付くようだ。

 恐らく、部下からの信頼が高かったのだろう。


 戦意を喪失する者の中に、敵意をき出しにする者が現れる。


「ええいっ! 放せっ……」


 とは隊長だ。折角、逃がしてやろうと思ったのに戻ってきてしまったようだ。

 転がっている自分の副官の姿に理性を失ったのか、再び、


「う、撃てぇっ!」


 と声を上げる。だから、それはもう無駄なのだ。

 毒ガスや閃光弾を警戒していたが、使う気はないらしい。


 【魔術師】相手に実弾兵器は相性が悪い事を理解していないようだ。


(学習しない奴らだな……)


 元々、実弾兵器以外は持ち合わせてはいないのかも知れない。

 俺は銃弾から皆を守るため【魔術】を使用しようとしたのだが、


「兄弟、オレに任せておけ!」


 とキャベツ。そう言って、俺達の盾になるように前へと出た。

 同時に外套ローブを投げ捨てる。現れたのはジーンズに上半身裸の筋肉質の大男だ。


「〈美しきオレの筋肉エンハンスアーマー〉!」


 彼がそう叫ぶと、同時に自慢の筋肉がふくれ上がる。敵の何名なんめいかがひるむ。

 すでに汗をいていたためか、その肉体はテラテラと輝いていた。


 しかし、ひるんだ理由はそこではない。頭部が葉野菜キャベツなのだ。

 そのシュールな光景に銃弾の勢いが、より一層激しくなった。


 辺りに硝煙しょうえんの臭いが立ち込め、跳弾により砕かれた瓦礫がれきの粉が舞う。


「フハハ! やったか……」


 と隊長。間抜けにも近づいてくる。


「効かん! 効かんぞ!」


 とキャベツがえる。彼の筋肉は無傷のようだ。

 パラパラと身体に付着した銃弾が落ちた。


「バ、バカなっ!」


 とは隊長。腰を抜かす。


 ――この遣り取り、俺の時もしなかっただろうか?


(本当に学習能力のない奴らだ……)


 きっと知能を培養カプセルの中にでも置いて来たのだろう。

 ただ違うのは、キャベツは俺のように甘くはないらしい。


〈唸れ剛腕〉アイアンストライク!」


 跳躍と同時に振り上げた拳を、今度は隊長目掛け、叩きつけるように振り下ろす。

 まさに鉄球といった所だろう。隊長を中心に地面がくぼむ。


 地面は蜘蛛の巣を連想させるように罅割れ、その中心で隊長は肉片となる。

 もはや彼の原形を確かめる事は出来ない。


 兵士達は悲鳴を上げ、一斉に逃げ出す。


「フッハッハッハ!」


 と高らかに笑い声を上げ、意気揚々と戻ってくるキャベツに対し、


「このバカッ!」


 モモがキャベツのすねる。

 あいたっ!――とキャベツは蹴られたすねを抑え、片足で飛び跳ねた。


くずれたら、どうする気⁉」


 モモはそう言って外套フードを取る。

 そこにはショートカットの可愛らしい女の子の顔があった。


 にらんではいるモノのあまり怖くはない。

 どちらかと言えば、微笑ほほえましいと言える。


 更に付け加えると、にらんでいる相手は葉野菜キャベツなので、表情が読めない。

 いつ見てもシュールな光景だ。


「す、すまねぇ……」


 とキャベツ。反省はしているようだが、学習はしていないようだ。


(まぁ、キャベツだしな……)


 隊長がられ、残りの兵士達が急いで敗走する。

 そんな中――まあまあ――と俺はモモなだめた。


「その時は俺が【魔術】で助けるから……」


 そう言って、納得してもらう。


「兄さんが、そういうなら……」


 と抑揚のない口調で、モモは頬を膨らませた。


「そう言えば、ヒジキの姿が見えないが……」


 敵が居なくなり、すっかり静まり返った屋内。


(大人しく隠れていてくれればいいのだが……)


 そんな事を考えていると、今度は外が騒がしくなった。


「お祭りか?」


 えてボケるキャベツの台詞セリフに、


「そんな訳……ない」


 と普通に返すモモ。

 『わたあめ』でも買ってやろうか?――などと言うと、俺まで蹴られそうだ。


(言うのは止めておこう……)


 俺達は互いに顔を見合わせうなずくと、急いで外に出る。

 そこでは飛行型二輪エアリアルまたがる兵士達が自殺祭りをしていた。


 廃墟となったビルや地面に激突し、見事に突き刺さっている。


随分ずいぶんとエキサイティングな祭りだな……」


 とキャベツ。


「そうね、屋台を探してきてくれる?」


 とはモモ。当然、屋台などあるはずがない。

 探しに行ったまま、もう帰ってくるな!――という意味だろう。


 いくらバカな連中でも、ここまで可笑おかしな自殺をする訳がない。

 犯人はヒジキだろう。彼らの飛行型二輪エアリアルに細工をしたようだ。


「おおっ、アニキ! 無事でなによりでやんす」


 とドラム缶――ではなかった。

 ヒジキが――ガションガション――と歩いてくる。


「バカッ! 油断し過ぎだ」


 俺が叫ぶ。まだ、辛うじて生き残っていた兵士が居たのだろう。

 最後の力を振り絞り、ヒジキに向けて銃弾を放った。


 ――カンッ!


 と音を立て、跳弾する。

 ビーム兵器だったら、られていたのはヒジキだったろう。

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