第一章

第2話 奴が噂の『亡霊』では……


「チッ、分かってはいたが……」


 早速、おそってきたか――舌打ちをする俺に対し、


「『選民思想インテリ』の連中ヤツらね」


 とは妹の『モモ』だ。ここはかつての東京――

 【魔王災害】により、多くの建築物はぎ払われ、崩れかけた瓦礫がれきと化している。


 それを【魔素まそ】の影響で成長した植物が覆っていた。

 人工物を想像させる形状でありならが、自然に侵食された地形が広がる。


 本来なら舗装された道路が続くのだが、今は見る影もない。

 草が生い茂り、木の根が張り巡らされていた。


 そんな足場の悪い中、しっかりと俺の後ろを付いてくる三人の影。

 障害物を事が出来る俺に付いてくるとは――


 相変わらずの身体能力の高さだ。


(一人は背負われている訳だが……)


「まぁ、何処どこかの組織の縄張りテリトリーには入る前提だったからな」


 とは『キャベツ』。

 冷静を装ってはいるが『戦いたい』という気持ちが伝わってくる。


 モモも最初から、そのつもりなのだろう。

 武闘派の二人にも困ったモノだ。


「アニキ、すいやせん……」


 とは『ヒジキ』だ。小柄だが、全身機械の彼女は重い。

 そのため、筋肉自慢のキャベツに背負ってもらっている。


「気にするな、お前の所為せいじゃない」


 むしろ、ここまで案内ナビしてくれて助かったぜ――と俺は礼を言う。

 同時にお別れだ。かつてのビルのエントランスに入る。


 少しは相手も警戒するだろう。

 キャベツはゆっくりと彼女を降ろした。


 東京のこういう施設には地下が付きモノだ。

 ヒジキなら、上手く逃げられるだろう。


 俺達は全員、頭部まですっぽりと外套フードを被っていた。

 顔は見られていないはずだ。


 彼女一人が居なくなった程度なら、誤魔化せるだろう。

 ギュインッ――と音を立て、外套フードの隙間からモノアイが光った。


「あっしも戦いやすよ」


 とヒジキ。気持ちは嬉しい。

 だが、戦闘用の機械ボディは、俺達との戦いで失ってしまったはずだ。


 戦闘能力はいちじるしく低下している。しかし、


乙女おとめの身体には秘密ギミックが一杯でやんす」


 彼女はそう言うと工具ペンチのような腕を見せた。

 そして、カチカチと音を立て、閉じたり開いたりする。


 どの辺が乙女おとめなのか、未だによく分からない。

 どう見ても、SF作品に出て来る補佐サポート役の缶詰ロボットだ。


「兄さん、考えている時間はない」


 モモに言われ、


「そうだな、さっさと片付けよう」


 俺が合図を出すと三人は散開する。数は敵の方が多い。

 先ずは、俺がおとり役となろう。


 ――〈重力弾〉グラヴィティバレル


 俺は【魔術】を使用し、球状の魔力弾を数発、前方に発射した。

 当たれば――周囲に特殊な重力場を発生させ、動きを鈍化させる――という程度の【魔術】でしかない。


 だが、相手は『選民思想インテリジェンス』の連中だ。【亜人】や【魔術師】を毛嫌いし、自分達人類こそが選ばれし存在だと思い上がっている。


 そのため、【魔術】には詳しくはない。

 瞬時に俺の放った【魔術】を見極め、対処するのは難しいだろう。


 思った通り警戒した相手は回避し、左右に別れる。

 同時に【魔術】で発生した重力によって土煙を上げ、地形が瓦解がかいした。


(分断には成功したぜ――ただ……)


「やはり【魔術師】かっ!」「先に奴を狙え!」


 銃を構えられ、ビルのエントランスごと、俺が狙われてしまう。

 正直、戦闘能力という点においては――


(仲間達の中で俺が一番低いだろうな……)


「たくっ……毎回、思うんだが――何処どこが『選民思想インテリジェンス』だよ」


 どう考えても、人間以外を狩りの獲物としか見ていない。

 奴らは基本、複製体クローンで同じ顔をしている。


 【魔王災害】後は一時的に国の機能が停止していた。

 そんな中、金持ち連中を相手に複製体クローンを作る商売を始めた連中が居たらしい。


 今ではそれが、ヒャッハーな感じの組織になっているようだ。


 ――〈魔域接続アクセルリンク〉!


 俺は【固有魔術】を使用した。同時に銃弾が俺を透過する。

 透明になっている訳では無く、特定の範囲を異界と化す【魔術】だ。


 無敵の能力という訳ではないが、この程度の相手なら苦戦する事もない。


「フハハッ! やったか?」


 と敵の一人が余裕って近づいてきた。

 やはり『選民思想インテリジェンス』の名は相応しくないようだ。


 本来は脳へ直接『強化学習ラーニング』を行い、経験を積んでいるはずなのだが――


トップが代わった――といううわさは本当かも知れないな……)


 高性能の武器を使い、数での戦い方に変化した――と聞いてはいた。

 戦闘員の数を増やした分、弊害が出ているのかも知れない。


 右手を光の刃に変える〈白銀刃コスモブレード〉で、近づいてきた一人を始末する。

 血飛沫ちしぶきが飛び散り、肉の焼ける臭いが漂う。


 『魔導書グリモア』があれば、もう少し真面まともに戦えるのだが、今は仕方がない。

 愛娘アイラはお休み中だ。


 専用武器デバイスも修理中で、これから新型を受け取りに行く予定だった。本来なら、殺す必要はなかったのだが――お互いに運が悪かった――と思うしかないだろう。


「こいつ、死んだはずでは……」


 敵の一人がおびえ、後退する。

 このまま逃げてくれれば楽なのだが、そう簡単には行かない様だ。


ひるむなっ! 撃てっ! 撃てっ!」


 と敵の後方で声を上げた奴がいる。


(なるほど、アイツが隊長か……)


 同時に銃弾の雨が俺に襲い掛かる。相変わらず、気分は良くないが、敵の攻撃が俺に集中している間は仲間達が自由フリーだ。


 まさに、一番弱い俺にピッタリの役割だろう。


「よし、止めろっ!」


 と声が響く。おろかにも、敵の隊長が前に出て来た。

 身形みなりも一番立派なようだ。


 だが、如何いかんせん【魔術師】との戦い方を理解していない。

 最初に分断した、もう一方に優秀な副官がいたのだろう。


「お飾りの隊長かよ……」


 部下が可哀想だぜ――思わず悪態をいてしまった俺に対し、


「なっ、生きているだと⁉」


 さ、流石さすがは【魔術師】といった所か――と謎の虚勢きょせいを張る。

 相手が未知の能力を保有している場合――部下を盾にして一度、後退するモノだ――と思うのだが、どうにも調子が狂う。


 お陰で余計な殺しをしなくてはならなくなった。


「隊長っ! 奴が噂の『亡霊ファントム』では……」


 部下の一人が声を上げる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る