黄昏世界のファンタズマ
神霊刃シン
黄昏世界のファンタズマ
プロローグ
第1話 最初は利用するだけのつもりだったに……
「本当にするの?」
施設を脱走した――というだけでも、どんな罰が下るのか分からない。
少なくとも、彼のたった一人の肉親である姉。
その彼女は『彼を
彼は自分に罰が下るのが怖い訳では無い。
私が
(優しい子ね……)
そんな彼だから――
私の事を『絶対に守ってくれる』と約束してくれた彼だから――
(私は今日、初めてを
それは私達が生まれる前の話だ。
【魔王災害】と呼ばれる
世界は【
そんな中、
【
人々はそんな私達の事を【魔術師】と呼ぶ。
しかし、祝福された存在では無かった。
この世界で、私達のような子供が生きていける場所は限られている。
一部は保護という名目で、研究所のような施設に入れられた。
そこでは、毎日のように実験が繰り返されている。
また、
その場合、死ぬまで働くのだ。
けれど、私も彼もそれ程、器用には生きられない。
彼がこの間、
私としても、教育プログラムの一環で最低限の知識は持っている。
怖くない――と言えば、それは
「時間がないわ……アイツらに、見付かる前に終わらせましょう」
私はそう言って、彼の服を脱がせた。
月明かりの
傷一つない彼の綺麗な素肌は、青白く輝いて見えた。
(
それに比べて、私はどうだ。
『化け物』と呼ばれて石を
特に顔に
顔の半分は変色し、
普段は包帯で隠しているけれど、誰もが『気持ち悪い』と言った。
背中には、大きな
お前の中にいる悪魔を追い払う――そう言って、父が私の背中に火を付けたのだ。
外で誰かに、
嫌がる私の髪を
泣き叫び、許しを請う私に対して、それを押し当てたのだ。
母に助けを求めても、無駄なのは分かっていた。
けれど、心の
母も父が本当に『そんな事をする』とは思っていなかったようだ。
寸前までは――止めて――と泣く振りをしていた。
しかし、私の背中に火が付き、衣服が燃え上がる。
その瞬間、顔を覆いつつも、口元に笑みを湛える母の姿を見た。
私が『死んだ』と思ったのだろう。
これで気持ちの悪い娘から解放される――そう考えたに違いない。
同時に、私が初めて人を殺した瞬間でもある。
彼女は、私を愛してはいなかった。
私の持つ【
すべてを理解した私は初めて、明確な殺意で【魔術】を使用した。
その時の心と身体の傷は、今も
それこそ、悪魔の翼のような形をしている。
こんな身体の
誰もが、私の姿を見て笑う。でも、彼だけが私に優しくしてくれた。
「
私の
(辺りが暗い
――いや、彼にとっては本当にそうなのだ。
まるで私が普通の女の子のように接してくれる。
私の本性が
それでも――この姿を見ても、彼の態度は変らない。
それどころか『綺麗だ』などと言う。
(ああ、また私は期待してしまっている……)
もう誰も信じない、もう誰も頼らない、もう誰も許さない。
その
(最初は利用するだけのつもりだったに……)
今の私は、本気で彼の事が好きになってしまっていた。
年下の可愛らしい少年。
本気で『彼の子供が欲しい』と思っている。
私を抱く事で、彼もまた『汚れてしまえばいいのだ』と思っている。
私は『この世界』が嫌いだ。
私に石を投げる人間が嫌いだ。
私が悪魔に取り
私を愛していると言って、抱き
私を実験体と呼び、施設に閉じ込めた大人達が嫌いだ。
私を
――でも、彼だけは違う。
私を好きだと言って、抱き
私を可愛いと言って、頭を
口付けだって、もう
傷の舐め合い、子供のお遊び――そう言われてしまえば、その通りだろう。
でも、それだけで――
たったそれだけの事で、私の世界が変わった。
彼が私を人間に戻してくれた。
彼が私を女の子にしてくれた。
一緒に幸せになろうと約束してくれた。
しかし――それも、もう終わりだ。
これから、私達を取り巻く環境が変わる。
大きな戦争が始まるのだ。
私達――【魔術師】――は戦争の道具になる。
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